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第二章

第22話(3) 承服しかねます×2

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「勇次、静かにしろ……」

「し、しかし……」

 御剣は後ろに振り返って勇次を注意しつつ、御盾に小声で囁く。

「嫌な噂が的中したな」

「此方のせいではないぞ。そなたの日頃の行いのせいじゃろう」

「ふっ……」

 御剣が正面に向き直る。山吹が説明する。

「……厳密には第五管区の再編といった案です」

「再編ね……具体的には?」

「北陸三県を我が第六管区に編入し、東海管区の名称を中部管区に変更したく思います」

 光康の問いに摩央が答える。隣に座る御剣が睨む。

「なるほど、貴様の企みか……」

「企みだなんて人聞きの悪い……これはそちらにとっても悪くない提案ですわ。第五管区はその担当地域の広さに比べると、資金力が乏しい……資金に余裕のある我が管区、そして、第四管区が分割吸収することによって、その問題は解決しますわ」

「第四管区?」

 御剣が自分の逆隣に座る雅を見る。雅は言いづらそうに口を開く。

「い、いや、甲信越の三県をうちの管区に編入するって話が盛り上がってね……私自身は全然乗り気じゃないんだけど……隊員たちの多数を占める意見は無視できないというか……」

「そうですか……しかし、東京を除く関東六県に甲信越三県を加えてはそれこそ担当地域が広すぎると思いますが?」

 御剣の問いに摩央が答える。

「なにも馬鹿正直に県単位で分けなくても良いでしょう」

「なに?」

「例えば長野県南部と西部、そして新潟県上越地方は我が管区に……中越地方は第四管区に、そして……」

 摩央の目配せに晃穂が口を開く。

「下越地方、佐渡ヶ島を我が第二管区に編入させるなど如何でしょう?」

「貴女も絡んでくるとは……」

「新潟県を東北地方に含む考え方もあります。それほど不自然な話ではないかと」

「ふむ……御剣ちゃんはどうか……」

「承服しかねます」

 光康の問いを遮るように御剣は答える。光康が苦笑する。

「即答だね……」

「お話を伺う限りでは、我が上杉山隊を解隊しようとしているように聞こえます。とても頷ける話ではありません」

「ですから、貴女はわたくしの隊にいらっしゃいな。隊長待遇でお迎えしますわ」

「それだけは絶対にお断りだ」

 摩央の申し出を御剣は一蹴する。摩央は光康に促す。

「管区長筆頭からもお願い出来ませんか?」

「……上杉山隊や武枝隊はよくやってくれていると思うよ。ただ、他の隊がどうもね……華田隊は表裏比興、木曽我隊は荒くれ者という評判だし……古前田隊に至っては隊長がよく行方知れずになるというじゃないか」

「……そういう部分もあるのは否めませんが、各隊ともやる時はやってくれています」

「活動の実態が今一つ伝わってこないんだよね……」

「……では、活動実績を示せば良いのですね?」

「まあ、そうなるかな……自信はあるの?」

「無論です。ただ、基本的に妖相手のことなので、すぐにというわけにはいきませんが……」

「……分かった、この話は一旦保留にしよう。摩央ちゃんもそれで良いね?」

「……仕方がありませんわね」

 摩央は両手を大げさに広げながら頷く。御剣が小声で囁く。

「色々と根回しをしていたみたいだが、無駄だったな……」

「わたくし、諦めは悪くてよ……」

 摩央は不敵な笑みを浮かべる。光康が山吹に問う。

「それで……後はなんだっけ?」

「加茂上管区長からお話が……」

「晃穂ちゃん、どうぞ」

「はい、現在この東京管区の病院に入院している鬼ヶ島一美さんのことですが……」

「!」

「⁉」

 晃穂の発言に御剣と勇次の顔色が変わる。光康が頷く。

「ああ、確かそっちの勇次君のお姉さんで、夜叉の半妖の子だっけ?」

「はい」

「姉弟で半妖とはなかなか珍しいね……それで?」

「我が第二管区は半妖についての研究が国内で一番進んでいると自負しています。よって、我が管区内の研究施設への移送をお願いしたいのです」

「ふむ……」

 晃穂の提案に光康は考え込む。御剣が声を上げる。

「馬鹿なことを言わないで頂きたい。何の意味があるのです?」

「善川管区長もおっしゃったように、姉弟で半妖というのはなかなか珍しいケースです。今後の為にも重要な研究対象になるのではないかと思いまして……」

「研究対象って、人の姉ちゃんを何だと思っているんだ!」

 勇次が立ち上がって叫ぶ。晃穂は落ち着いて答える。

「表現が適切でなかったのはごめんなさい。しかし、お姉さんの体を検査させてもらうことによって、色々なことが分かってくる可能性が高いのです。それは今後の妖絶講、さらには人間社会全体の為にもなるのです」

「だ、だからと言って……!」

「安全面に関しても心配はいりません。山形にあるその研究施設は国内トップクラスのセキュリティを誇ります。善川管区長、如何でしょう?」

「う~ん、人間社会全体の為と言われるとね~」

 光康が腕を組んで、首を捻る。晃穂が笑顔を崩さずに続ける。

「早い内に進めた方が良いかと思われます。ご決断を……」

「そこまで言うのなら……」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

 勇次が慌てる。光康が勇次を見つめて話す。

「勇次君……少々酷な言い方になるが、揃って半妖の力に目覚めてしまった時点で、もう君たち姉弟は『普通』ではないんだ。約千年もの長きに渡って、妖というものに携わってきた妖絶講の考えに従ってもらいたい」

「そ、そうは言っても……」

 勇次は困惑する。御剣が口を開く。

「……本日この者を連れてきた理由は皆さんに紹介するためでありません」

「え? そうなの?」

 光康が首を捻る。

「ええ、それはあくまでもついでです。本来は別の目的がありました」

「別の目的?」

「姉である鬼ヶ島一美と面会させることです」

「面会か~」

「い、いや、それも駄目なんですか⁉ おかしいでしょう⁉ 家族なのに!」

 再び腕を組んで考え込む光康に対し、勇次が声を荒げる。

「繰り返しのようになってしまうけどね……姉弟で半妖というのはなかなか珍しいことなんだ。君は半妖の力をある程度コントロール出来るようだけど……お姉さんはまだそういう段階ではないようだよね? その時点で君と会わせるのはリスクが高い。血の繋がった半妖は予想だにしない共鳴反応を示すという話は僕も聞いたことがある……」

「そ、そう言われても! ⁉」

 部屋に警報が鳴り響く。光康が山吹に問う。

「山吹ちゃん? 何事かな?」

 山吹が確認して淡々と告げる。

「東京管区の各地で妖が多数出現した模様です」
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