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第二章
第16話(3) バレーボールで覚醒っちまった……
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「試合開始!」
教師が掛け声とともに、笛を吹く。
「林葉さん、頼みましたわ!」
勝気な女子が林根に声をかける。
「……参ります、せい!」
林根が右手でボールを上げ、左手でサーブを放つ。剛速球が唸りを上げ、相手チームであるB組のコートに飛び込むが、勇子も万夜も全く反応することが出来なかった。
「サ、サービスエース!」
A組の選手たちやギャラリーが歓声を上げる。
「み、見えなかったですわよ……」
「だから勇子さん、お嬢様言葉を無理して使おうとしなくて良いですから……って⁉ ボールが弾んだ部分の床がちょっとへこんでいる⁉」
万夜が信じられないと言った表情で床を見つめる。
「さあ、林葉さん、その調子でどんどんお願いしますわ!」
「くっ! あの殺人サーブをどうにかしなくてはいけなくってよ!」
「文字通り殺人出来そうなのがなんとも!」
「……続けて参ります」
「アテクシがレシーブしますわ! 皆さんは手出し無用!」
「いや、そもそも反応できないですし! 勇子さんも無茶をしないで!」
「はっ!」
「ふんぬっ!」
再び林根から強力なサーブが放たれたが、なんと勇子はそれをレシーブする。
「あ、上がった⁉」
「ざっとこんなもんですわよ! 万夜さん、トスを!」
「! はい!」
「ナイス!」
「させませんわ!」
万夜が絶妙なトスを上げ、勇子がアタックの助走に入るが、A組も勝気な女子を含めた三人が良い反応を見せ、ブロックしようとする。
「甘いですわよ!」
「た、高い⁉ なんてジャンプ力⁉」
勇子の強烈なアタックはブロックをかわし、A組のコートに入る。皆が驚く。
「こ、今度はB組の転校生さんがやりかえしましたわ!」
「よっしゃあ!……すっわ!」
勇子がガッツポーズとともに雄叫びを上げる。かろうじて語尾にお嬢様感を残す。
「ここまでやるとは……! 噂以上ですわね」
勝気な女子が汗を拭う。万夜が小声で反応する。
「どんな噂ですか……それは運動神経が水準以上の男子が一人混ざっていると考えたら、活躍しない方がおかしいってものでしょう……って、勇次様⁉ じゃなくて勇子さん⁉」
「ん?」
万夜が慌てて勇子に駆け寄り、声を抑えて告げる。
「全身がほんのりと赤くなっていますわよ!」
「え? ああ、本当ですこと……どうやら覚醒(めざめ)っちまったようですわ……」
「体育のバレーで鬼の半妖の力を出さないで下さい!」
その後しばらく試合が進み、再び林根のサーブの番になる。
「林葉さん、またサービスエースをお願いしますわ!」
「先ほどの渾身のサーブを拾われるとは不覚でした……エネルギーの出力を上げます!」
「普通の女子高生がエネルギーの出力だとかなんとか言わないでしょう……」
林根の発言に万夜は軽く頭を抑える。勇子が叫ぶ。
「来るぞわよ!」
林根が右手でボールを高々と上げる。そしてジャンプする。足裏から煙が出ている。
「け、煙⁉ ブ、ブーストを吹いている⁉ 何て高さ!」
「……そーれ!」
林根が常識外れの高さからジャンプサーブを打ち込む。
「なにをこなくそってなもんですわ!」
強烈な弾道のサーブだったが、勇子がなんとかレシーブする。万夜がトスを上げる。
「し、しまった! ミスですわ!」
万夜のトスがネットの真上ら辺という中途半端な位置に上がってしまう。
「なんの!」
「……!」
このルーズボールに反応した勇子と林根がそれぞれ高いジャンプを見せ、ボールを相手コートに押し込もうとする。二人は全く同じタイミングでボールに触れる。
「……理論上、こちらの方がMAXパワーは上……押し切れます!」
「理論なんぞクソくらえですわ! 鬼ヶ島勇子のバレーをなめないで下さる⁉」
「「⁉」」
次の瞬間、ボールが跡形もなく破裂する。
「え……?」
教師も勝気な女子も皆信じられない様子でそれを見つめる。万夜が拍手しながら叫ぶ。
「ナ、ナイスゲーム! 滅多に見られないものが見られましたわ! 感動しました!」
「ナ、ナイスゲーム……」
万夜のテンションにつられ、他の生徒たちもとりあえず拍手する。万夜が呟く。
「な、なんとか誤魔化せましたわ……」
それから四日後の放課後、万夜は机に突っ伏していた。傍らに勇子が立つ。
「万夜さん、お体の具合でも悪いのですか? よければ保健室にお伴しましょうか?」
「……体はいたって健康です。問題は神経の疲労です……」
「まあ、なんということでしょう……一体どのような原因でそのようなことに……」
万夜がガバッと顔を上げる。
「主に貴方と林根さんですよ!」
「ええっ……?」
「ええっ……じゃなくて! 初日のバレーボール破裂のみならず、学食のメニュー食べ尽くし! 時期の早い学期末の大掃除をたった二人で行ってしまったこと! その他エトセトラ! ……まあ、大掃除に関しては感謝している人が圧倒的に多かったようですが」
「良かれと思って行っておったのですが、まさかそれが万夜さんの神経を擦り減らすことに繋がるとは……配慮が全く不足しておりましたわ。申し訳もございません」
「まあ、分かってくれたのなら良かったです。妙にお嬢様言葉やふるまいが板についてきたのも結構と言えば結構ですが……しかし」
「しかし?」
「肝心の調査がほとんど進んでおりません……こんな中途半端なレポートを提出した暁には姉様はわたくしに対して失望を隠そうとしないでしょうね……」
万夜が肩を落とす。そこにふと現れた林根が声を掛ける。
「恐れながら……」
「林根さん⁉ いや、今は林葉さんですか?」
「林根です。潜入任務は終わりましたので……」
「楽しいスクールライフを送っていたようでなによりですよ……」
万夜の皮肉を受け流し、林根が説明を始める。
「これからは武枝隊と上杉山隊、両隊の合同任務です。こちらをご覧いただけますか?」
「……これは学校の地図? これがなにか?」
「この地図の黄色い地点と赤い地点をご覧ください」
「これは……! しかし……よく調べ上げましたね」
「鬼ヶ島さんの協力あってのことです」
「なんですって⁉」
「新たに現れた得体の知れない相手に対して、警戒心を強めているポイントがいくつか見られます。その辺りを突けば奴らの動揺を誘えるはず」
「! 情報が今一つ噛み合わなかったのもそういう理由ですか、合点が行きました」
「万夜さん……」
「勇子さんもお着替えになられて……いや、そのままで構いませんわ。参りましょう」
確証を得たような万夜は、地図の示す地点に急ぐ。
教師が掛け声とともに、笛を吹く。
「林葉さん、頼みましたわ!」
勝気な女子が林根に声をかける。
「……参ります、せい!」
林根が右手でボールを上げ、左手でサーブを放つ。剛速球が唸りを上げ、相手チームであるB組のコートに飛び込むが、勇子も万夜も全く反応することが出来なかった。
「サ、サービスエース!」
A組の選手たちやギャラリーが歓声を上げる。
「み、見えなかったですわよ……」
「だから勇子さん、お嬢様言葉を無理して使おうとしなくて良いですから……って⁉ ボールが弾んだ部分の床がちょっとへこんでいる⁉」
万夜が信じられないと言った表情で床を見つめる。
「さあ、林葉さん、その調子でどんどんお願いしますわ!」
「くっ! あの殺人サーブをどうにかしなくてはいけなくってよ!」
「文字通り殺人出来そうなのがなんとも!」
「……続けて参ります」
「アテクシがレシーブしますわ! 皆さんは手出し無用!」
「いや、そもそも反応できないですし! 勇子さんも無茶をしないで!」
「はっ!」
「ふんぬっ!」
再び林根から強力なサーブが放たれたが、なんと勇子はそれをレシーブする。
「あ、上がった⁉」
「ざっとこんなもんですわよ! 万夜さん、トスを!」
「! はい!」
「ナイス!」
「させませんわ!」
万夜が絶妙なトスを上げ、勇子がアタックの助走に入るが、A組も勝気な女子を含めた三人が良い反応を見せ、ブロックしようとする。
「甘いですわよ!」
「た、高い⁉ なんてジャンプ力⁉」
勇子の強烈なアタックはブロックをかわし、A組のコートに入る。皆が驚く。
「こ、今度はB組の転校生さんがやりかえしましたわ!」
「よっしゃあ!……すっわ!」
勇子がガッツポーズとともに雄叫びを上げる。かろうじて語尾にお嬢様感を残す。
「ここまでやるとは……! 噂以上ですわね」
勝気な女子が汗を拭う。万夜が小声で反応する。
「どんな噂ですか……それは運動神経が水準以上の男子が一人混ざっていると考えたら、活躍しない方がおかしいってものでしょう……って、勇次様⁉ じゃなくて勇子さん⁉」
「ん?」
万夜が慌てて勇子に駆け寄り、声を抑えて告げる。
「全身がほんのりと赤くなっていますわよ!」
「え? ああ、本当ですこと……どうやら覚醒(めざめ)っちまったようですわ……」
「体育のバレーで鬼の半妖の力を出さないで下さい!」
その後しばらく試合が進み、再び林根のサーブの番になる。
「林葉さん、またサービスエースをお願いしますわ!」
「先ほどの渾身のサーブを拾われるとは不覚でした……エネルギーの出力を上げます!」
「普通の女子高生がエネルギーの出力だとかなんとか言わないでしょう……」
林根の発言に万夜は軽く頭を抑える。勇子が叫ぶ。
「来るぞわよ!」
林根が右手でボールを高々と上げる。そしてジャンプする。足裏から煙が出ている。
「け、煙⁉ ブ、ブーストを吹いている⁉ 何て高さ!」
「……そーれ!」
林根が常識外れの高さからジャンプサーブを打ち込む。
「なにをこなくそってなもんですわ!」
強烈な弾道のサーブだったが、勇子がなんとかレシーブする。万夜がトスを上げる。
「し、しまった! ミスですわ!」
万夜のトスがネットの真上ら辺という中途半端な位置に上がってしまう。
「なんの!」
「……!」
このルーズボールに反応した勇子と林根がそれぞれ高いジャンプを見せ、ボールを相手コートに押し込もうとする。二人は全く同じタイミングでボールに触れる。
「……理論上、こちらの方がMAXパワーは上……押し切れます!」
「理論なんぞクソくらえですわ! 鬼ヶ島勇子のバレーをなめないで下さる⁉」
「「⁉」」
次の瞬間、ボールが跡形もなく破裂する。
「え……?」
教師も勝気な女子も皆信じられない様子でそれを見つめる。万夜が拍手しながら叫ぶ。
「ナ、ナイスゲーム! 滅多に見られないものが見られましたわ! 感動しました!」
「ナ、ナイスゲーム……」
万夜のテンションにつられ、他の生徒たちもとりあえず拍手する。万夜が呟く。
「な、なんとか誤魔化せましたわ……」
それから四日後の放課後、万夜は机に突っ伏していた。傍らに勇子が立つ。
「万夜さん、お体の具合でも悪いのですか? よければ保健室にお伴しましょうか?」
「……体はいたって健康です。問題は神経の疲労です……」
「まあ、なんということでしょう……一体どのような原因でそのようなことに……」
万夜がガバッと顔を上げる。
「主に貴方と林根さんですよ!」
「ええっ……?」
「ええっ……じゃなくて! 初日のバレーボール破裂のみならず、学食のメニュー食べ尽くし! 時期の早い学期末の大掃除をたった二人で行ってしまったこと! その他エトセトラ! ……まあ、大掃除に関しては感謝している人が圧倒的に多かったようですが」
「良かれと思って行っておったのですが、まさかそれが万夜さんの神経を擦り減らすことに繋がるとは……配慮が全く不足しておりましたわ。申し訳もございません」
「まあ、分かってくれたのなら良かったです。妙にお嬢様言葉やふるまいが板についてきたのも結構と言えば結構ですが……しかし」
「しかし?」
「肝心の調査がほとんど進んでおりません……こんな中途半端なレポートを提出した暁には姉様はわたくしに対して失望を隠そうとしないでしょうね……」
万夜が肩を落とす。そこにふと現れた林根が声を掛ける。
「恐れながら……」
「林根さん⁉ いや、今は林葉さんですか?」
「林根です。潜入任務は終わりましたので……」
「楽しいスクールライフを送っていたようでなによりですよ……」
万夜の皮肉を受け流し、林根が説明を始める。
「これからは武枝隊と上杉山隊、両隊の合同任務です。こちらをご覧いただけますか?」
「……これは学校の地図? これがなにか?」
「この地図の黄色い地点と赤い地点をご覧ください」
「これは……! しかし……よく調べ上げましたね」
「鬼ヶ島さんの協力あってのことです」
「なんですって⁉」
「新たに現れた得体の知れない相手に対して、警戒心を強めているポイントがいくつか見られます。その辺りを突けば奴らの動揺を誘えるはず」
「! 情報が今一つ噛み合わなかったのもそういう理由ですか、合点が行きました」
「万夜さん……」
「勇子さんもお着替えになられて……いや、そのままで構いませんわ。参りましょう」
確証を得たような万夜は、地図の示す地点に急ぐ。
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