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第二章
第15話(3) すっ飛ばす
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「確か……武枝隊の副隊長だったか?」
「そうだ。川中島での対抗戦では世話になったな」
「姐御もなんで武枝隊に……この辺はアタシらのシマだろうが」
「シ、シマって……」
勇次が苦笑を浮かべる。
「同じ北陸甲信越管区所属の妖絶士なんだ、仲良くしておいて損することはあるまい」
「仲良くって、この勇次はアンタの隊の赤毛女に殺されかけたんだぜ?」
「ああ、山牙の件か、そんなこともあったな……」
「いやいや、そんなことで済ますなよ!」
先に勇次たちが所属する上杉山隊と武枝隊の間で対抗戦が行われ、暴走した山牙恋夏(やまがれんか)の手により、勇次は危うく殺されかけたことがあった。
「半妖によって操られていたんだ、そのことは知っているだろう?」
「そりゃあ知っているけどよ……」
「とは言っても、申し訳なかったな。山牙本人に代わって、改めて謝罪する」
火場は勇次に頭を下げる。
「い、いいえ、全然、大丈夫ですから!」
勇次はかえって恐縮する。
「……お許しは頂いたぞ」
「ちっ……だからといって別に仲良くするつもりはねえぞ」
「それは構わん……仲良くうんぬんは言葉のアヤというやつだ。ただ……」
「ただ……?」
「貴隊の上杉山隊長と、お館さま……我が隊の武枝隊長は出来る限り協力体制を深めていこうという方針を定めたようだぞ」
「はあっ⁉ そんなの初耳だぞ!」
「まだ正式に通達はされていないからな」
「協力体制って……そもそもそっちの隊長さんがそんな殊勝な振る舞い出来るのかよ? なにかと言えば、姐御……うちの隊長に絡んでくるじゃねえか。やれ『管区長の座をかけて勝負じゃ!』とかなんとか言ってよ」
「ふふっ、結構似ていたな、今の言い方……」
火場は笑みを浮かべる。
「そこはどうでも良いんだよ」
「我が隊長も多少大人になってきたということだ。曲江実継を首魁とした半妖勢力――実継の生死は不明だが――の残党の不気味な行動、そして十数年ぶりに復活した干支妖の活動の活発化が予想されるなど……各隊規模では対応しきれないことが増えてきた」
「まあ、分からなくはないがな……」
「そして、この管区に属する他の隊が今一つ全幅の信頼を寄せられないからな……」
「ああ、それはあるな」
「華田隊は“表裏比興”、木曽我隊は“荒くれ者”というイメージが強い……」
「さ、散々なイメージだな……」
火場の説明に勇次が戸惑う。
「まあ、隊全体がそういうわけではないが……古前田隊に至っては隊員ですら隊長殿となかなか連絡が取れないというしな……」
「ああ、あの風来坊か……」
千景が呆れる。勇次が尋ねる。
「れ、連絡が取れないって、そんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫なんじゃねえの? 知らねえけど」
千景が肩をすくめる。
「とにかく、隊長同士の話し合いでせめて両隊の協力関係だけでも深めておく必要があるだろうという結論に至ったようだ」
「へえ、姐御にしては結構まともな考えしてんだな……」
「いや、言い方!」
勇次が千景を注意する。火場があらたまって告げる。
「そこで樫崎千景殿」
「うん?」
「勇猛果敢で知られる、上杉山隊の特攻隊長である貴女の働きぶりから色々学ばせて頂ければと思っている。今回はよろしく頼む」
火場が頭を下げる。
「ほお、アンタ……単なる脳筋だって、うちのパッツンからは聞いていたけど、案外見所がある良い奴じゃねえか」
「だから言い方!」
「パッツン……苦竹万夜副隊長のことか……」
火場が目を細めて呟く。勇次が代わりに釈明する。
「い、いえ、別にそれだけ言っていたわけではないですよ!」
「よっしゃ、調査を続けるぜ、ついてきな! 行くぞ、勇次!」
「お、おう!」
千景たちがサイドカーを発進させ、火場が車をその後に続かせる。しばらく走った後、停車し、千景は考え込む。
「う~ん……」
「そもそもの疑問だが、何故この辺りなんだ? もっと交通量が多い通りはあるだろう」
「それだよ、なにか理由があるのか?」
火場の問いに勇次も同調する。
「……さっき絡んできた馬鹿どもいただろう?」
「あ、ああ……」
「あいつらの迷惑行為のせいもあってかこの辺は交通量が少なくなっている。その方が姿を隠すには都合が良いんじゃないかと思ってな」
「なるほど……考え方としては悪くないな」
火場がうんうんと頷く。勇次が口を開く。
「ただ、妖レーダーにはなんの反応も見られなかったぜ。ささいな変化も見落とさないようにしていたつもりだけど」
「それなんだよな……全く反応を隠しきれるものでもねえと思うんだが……」
千景が腕を組む。火場が提案する。
「やはり別の場所をあたってみるか?」
「ちょっと待ってくれ。何かが足りない気がするんだ……」
「足りない?」
勇次が首を傾げる。
「……勇次、姐御はなんだって、アンタをアタシとの任務に向かわせたんだ?」
「え? そうだな……“素早さ”の成長を期待しているみたいだけどな」
「素早さ?」
「漠然としているだろう?」
勇次がふふっと笑う。
「……いや、意外とそれもアリだな」
「え?」
「火場ちゃんよお……」
「ひ、火場ちゃん⁉」
いきなりのちゃん付けに火場は戸惑う。
「ちょっと悪いことをしようと思うんだけど、見逃してくれるか?」
「? ……妖退治に通じるのならば、多少はな」
「決まりだ、勇次、行くぞ」
「あ、ああ……って、うおおっ⁉」
千景が思いっ切りエンジンを全開にして、走り出す。
「さてと、長いトンネルに入ったか……」
「ス、スピード出し過ぎだろう⁉」
「これで良いんだよ!」
「ええっ⁉ どわっ!」
なにかがキラッと光り、勇次を狙う。勇次は金棒を取り出し、咄嗟に防ぐ。
「スピード違反を取り締まりに出てきやがったな!」
千景はいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
「そうだ。川中島での対抗戦では世話になったな」
「姐御もなんで武枝隊に……この辺はアタシらのシマだろうが」
「シ、シマって……」
勇次が苦笑を浮かべる。
「同じ北陸甲信越管区所属の妖絶士なんだ、仲良くしておいて損することはあるまい」
「仲良くって、この勇次はアンタの隊の赤毛女に殺されかけたんだぜ?」
「ああ、山牙の件か、そんなこともあったな……」
「いやいや、そんなことで済ますなよ!」
先に勇次たちが所属する上杉山隊と武枝隊の間で対抗戦が行われ、暴走した山牙恋夏(やまがれんか)の手により、勇次は危うく殺されかけたことがあった。
「半妖によって操られていたんだ、そのことは知っているだろう?」
「そりゃあ知っているけどよ……」
「とは言っても、申し訳なかったな。山牙本人に代わって、改めて謝罪する」
火場は勇次に頭を下げる。
「い、いいえ、全然、大丈夫ですから!」
勇次はかえって恐縮する。
「……お許しは頂いたぞ」
「ちっ……だからといって別に仲良くするつもりはねえぞ」
「それは構わん……仲良くうんぬんは言葉のアヤというやつだ。ただ……」
「ただ……?」
「貴隊の上杉山隊長と、お館さま……我が隊の武枝隊長は出来る限り協力体制を深めていこうという方針を定めたようだぞ」
「はあっ⁉ そんなの初耳だぞ!」
「まだ正式に通達はされていないからな」
「協力体制って……そもそもそっちの隊長さんがそんな殊勝な振る舞い出来るのかよ? なにかと言えば、姐御……うちの隊長に絡んでくるじゃねえか。やれ『管区長の座をかけて勝負じゃ!』とかなんとか言ってよ」
「ふふっ、結構似ていたな、今の言い方……」
火場は笑みを浮かべる。
「そこはどうでも良いんだよ」
「我が隊長も多少大人になってきたということだ。曲江実継を首魁とした半妖勢力――実継の生死は不明だが――の残党の不気味な行動、そして十数年ぶりに復活した干支妖の活動の活発化が予想されるなど……各隊規模では対応しきれないことが増えてきた」
「まあ、分からなくはないがな……」
「そして、この管区に属する他の隊が今一つ全幅の信頼を寄せられないからな……」
「ああ、それはあるな」
「華田隊は“表裏比興”、木曽我隊は“荒くれ者”というイメージが強い……」
「さ、散々なイメージだな……」
火場の説明に勇次が戸惑う。
「まあ、隊全体がそういうわけではないが……古前田隊に至っては隊員ですら隊長殿となかなか連絡が取れないというしな……」
「ああ、あの風来坊か……」
千景が呆れる。勇次が尋ねる。
「れ、連絡が取れないって、そんなんで大丈夫なのか?」
「大丈夫なんじゃねえの? 知らねえけど」
千景が肩をすくめる。
「とにかく、隊長同士の話し合いでせめて両隊の協力関係だけでも深めておく必要があるだろうという結論に至ったようだ」
「へえ、姐御にしては結構まともな考えしてんだな……」
「いや、言い方!」
勇次が千景を注意する。火場があらたまって告げる。
「そこで樫崎千景殿」
「うん?」
「勇猛果敢で知られる、上杉山隊の特攻隊長である貴女の働きぶりから色々学ばせて頂ければと思っている。今回はよろしく頼む」
火場が頭を下げる。
「ほお、アンタ……単なる脳筋だって、うちのパッツンからは聞いていたけど、案外見所がある良い奴じゃねえか」
「だから言い方!」
「パッツン……苦竹万夜副隊長のことか……」
火場が目を細めて呟く。勇次が代わりに釈明する。
「い、いえ、別にそれだけ言っていたわけではないですよ!」
「よっしゃ、調査を続けるぜ、ついてきな! 行くぞ、勇次!」
「お、おう!」
千景たちがサイドカーを発進させ、火場が車をその後に続かせる。しばらく走った後、停車し、千景は考え込む。
「う~ん……」
「そもそもの疑問だが、何故この辺りなんだ? もっと交通量が多い通りはあるだろう」
「それだよ、なにか理由があるのか?」
火場の問いに勇次も同調する。
「……さっき絡んできた馬鹿どもいただろう?」
「あ、ああ……」
「あいつらの迷惑行為のせいもあってかこの辺は交通量が少なくなっている。その方が姿を隠すには都合が良いんじゃないかと思ってな」
「なるほど……考え方としては悪くないな」
火場がうんうんと頷く。勇次が口を開く。
「ただ、妖レーダーにはなんの反応も見られなかったぜ。ささいな変化も見落とさないようにしていたつもりだけど」
「それなんだよな……全く反応を隠しきれるものでもねえと思うんだが……」
千景が腕を組む。火場が提案する。
「やはり別の場所をあたってみるか?」
「ちょっと待ってくれ。何かが足りない気がするんだ……」
「足りない?」
勇次が首を傾げる。
「……勇次、姐御はなんだって、アンタをアタシとの任務に向かわせたんだ?」
「え? そうだな……“素早さ”の成長を期待しているみたいだけどな」
「素早さ?」
「漠然としているだろう?」
勇次がふふっと笑う。
「……いや、意外とそれもアリだな」
「え?」
「火場ちゃんよお……」
「ひ、火場ちゃん⁉」
いきなりのちゃん付けに火場は戸惑う。
「ちょっと悪いことをしようと思うんだけど、見逃してくれるか?」
「? ……妖退治に通じるのならば、多少はな」
「決まりだ、勇次、行くぞ」
「あ、ああ……って、うおおっ⁉」
千景が思いっ切りエンジンを全開にして、走り出す。
「さてと、長いトンネルに入ったか……」
「ス、スピード出し過ぎだろう⁉」
「これで良いんだよ!」
「ええっ⁉ どわっ!」
なにかがキラッと光り、勇次を狙う。勇次は金棒を取り出し、咄嗟に防ぐ。
「スピード違反を取り締まりに出てきやがったな!」
千景はいかにも悪そうな笑みを浮かべる。
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