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第二章
第14話(2) 新隊舎での反省会
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御剣と勇次たちは隊舎と呼ばれる建物へ戻った。隊舎は妖絶講の活動において極めて重要な拠点の一つである。隊舎は普通の人間が暮らす『現世(うつしよ)』と妖たちがいる『幽世(かくりよ)』との間に存在する『狭世(はざまよ)』に設置されていることが多い。
妖絶士は妖とは主にこの狭世という空間で戦うことが多い。普通の人間にはこの空間を認識することや立ち入ることは出来ない。ただ、透明なものとして通り過ぎるだけである。つまり、ここではっきりと存在を認識出来る者が妖絶士もしくは妖なのである。
御剣ら上杉山隊の使っていた隊舎は先日、ある者によって復活した妖たちの襲撃を受け、隊舎としての機能不全状態に陥ってしまった。その為、別の隊舎に機能を移し、隊員たちも皆引っ越し作業を終わらせた。現在、この上杉山隊には勇次たち戦闘員以外にも非戦闘員の隊員が在籍しており、約二十人と一匹がこの新隊舎に出入りしている。
「全員揃っているな」
作戦室に御剣が入ってくる。又左がその後をトコトコとついてくる。御剣は戦闘員として前線で戦う隊員たちが揃っていることを確認し、話を始める。
「先の妖根絶、ご苦労であった……最近では珍しく前線部隊全員揃っての任務遂行となったわけだが、これを良い機会として、隊全体並びに個々の反省会を行いたいと思う」
「反省会ですか?」
勇次が問いかける。御剣は頷く。
「そうだ、振り返ることで見えてくるものもある……まずは今回の根絶対象であったからかさ小僧だが、級種は庚(こう)・辛(しん) が主だったな、己(き)級もいくつか混ざっていたようだが」
「えっと、妖ってのは上から甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)・戊(ぼ)・己・庚・辛・壬(じん)・癸(き)だから……中の下くらいの連中か」
勇次が指を折りながら数える。御剣はやや苦笑する。
「指折りも必要ないくらいまでにはまだ至らないか」
「す、すみません……」
「まあいい……今勇次が言ったように級種としては中の下だが、数をみても油断は出来ない相手だった。即座に位置に付き、いたずらに時間をかけず、速やかに根絶出来たことは喜ばしい。ただ……」
「ただ……?」
勇次の前の席に座る愛が首を傾げる。
「連携面をもっと磨き上げる必要があると感じたな。もっと上級の妖と戦うときにも役立つ。それには各々の戦い方や性格をもっと理解しなければならない。誰と組んでも自分と相手の力を存分に発揮出来るようになるのが理想的だ……」
「なるほど……」
愛が頷く。御剣が説明を続ける。
「訓練内容に二人一組でこなすものを増やそうと考えている。組み合わせについては色々と考えているが、決まり次第伝える。ここまではいいな?」
御剣が部屋を見回す。全員が頷く。
「結構……それでは個々の反省点だが……まずは樫崎千景(かしざきちかげ)」
「ええっ⁉ アタシに反省点なんかあんのかよ、姐御!」
足を組んでいた千景がガバっと立ち上がる。そのサラシで巻いた大きな胸やムチムチっとした太ももを含む、豊満な肉体が揺れる。勇次は男の悲しい本能でそれをついつい目で追ってしまうが、慌てて視線を逸らす。
「……まずは独断専行だにゃ、位置取りは悪くにゃかったが、飛び出すのが少し早かった……もっとみんにゃと呼吸を合わせにゃいと……」
又左が淡々と説明する。御剣が補足する。
「相手の数を考えれば、あっという間に包囲され、孤立してしまう恐れもある。たった一人でも欠ければ、こういった集団で行う作戦行動全体に支障をきたす場合もある。血湧き肉躍るのは正直分からんでもないのだが……」
「ヒャ……野蛮な性根はなかなか変わらないってことですわね」
「んだとぉ?」
千景は一人挟んで隣に座る前髪を揃えた女性を睨み付ける。
「ち、千景は冷静な時は冷静です! 感情を上手くコントロール出来れば問題ないのでは? それに勇敢さと純粋な戦闘能力の高さは頼りになります!」
勇次が雰囲気を変えるように大きな声で御剣に告げる。
「勇次、そんな大声で……は、恥ずかしいじゃねえかよ……」
千景は照れ臭そうに座り、右隣の勇次の袖をつまんで引っ張る。御剣が咳払いをする。
「コホン……確かに、一撃の破壊力はこの短期間で格段に増したな。鍛錬の成果は出ているようだな、その調子で頼むぞ」
「ウッス!」
「次に苦竹万夜(にがたけまや)……」
「⁉ ファ、わたくしですか、姉様?」
今度は万夜が立ち上がる。口にくわえていた飴を取り出して、不満気な表情をみせる。
「特に言うことはにゃいのだが……全体的にこう、にゃめプが目立つというか……」
「な、舐めプ⁉」
「飴だけにな……」
「姉様! わたくしが飴を舐めているのは、喉のケアが人一倍必要だからであって……」
「それは重々承知している。貴様は少しばかり相手を侮るときがある。自信を持つのは大事だが、それが過信にならないよう気をつけろ」
「ううむ……」
「や~い、怒られてやんの、パッツン~」
「だからわたくしは万夜ですわ!」
万夜は自らを煽ってきた千景を睨む。勇次が再び発言する。
「し、しかし、万夜は副隊長としてよくやっていると思います! 隊長不在のときも隊をまとめてくれています!」
「うむ、その点については私も感謝している。これからも頼む」
御剣が頷きながら万夜に告げる。万夜は席に座ると、左隣の勇次の肩に頬を寄せる。
「勇次さま……♡ 声高にわたくしのことをフォローして下さるなんて……お優しい方……お礼と言ってはなんですが、わたくしの歌でもいかがでしょうか?」
「い、いや、それはまた別の機会に頼む」
勇次は万夜の申し出を丁重に断る。御剣が口を開く。
「次に赤目億葉(あかのめかずは)」
「せ、拙者になにか落ち度でも⁉」
「……せめてもうちょっと荷物はコンパクトににゃらにゃいか? 取り出す時間がどうしても隙だらけになってしまうにゃ」
「絶え間なく変化する戦況に柔軟に対応するためにはどうしてもあれくらいの荷物になってしまうのですよ!」
「……それで自分の体よりも大きいリュックサックを背負って、動きにくくなってしまっては本末転倒というものだろう」
「ぐぬぬ……」
御剣のもっともな指摘に億葉は反論出来ず黙り込んでしまう。勇次が声を上げる。
「で、でも億葉の発明にはこれまでも助けられました! 周囲でフォローをしてやれば良いんじゃないですか? 荷物を減らしたらその分リスクが増えると思います」
「ふむ、一理あるな……わざわざ良さを消す必要はないか……」
「おおっ?」
「陣形などを工夫してみるのも一つの考えだな。億葉、どんどん発明していってくれ」
「は、はい! 旦那様、ありがとうございます!」
億葉は笑顔で振り返り、勇次に礼を言う。
「ど、どういたしまして……ってか、よけてくれないか?」
億葉は何故か勇次の膝の上に腰かけている。億葉は不思議そうに首を傾げる。
「夫婦ならば、この位置が自然ではないですか?」
「め、夫婦って……」
「億葉! てめえはドサクサに紛れてイチャイチャしてんじゃねえよ!」
「そうですわ! 神聖な作戦会議を何だと思っているのですか⁉」
「そういうお二人も同じです! こんな広い部屋で何故わざわざべったりする必要があるんですか⁉ 破廉恥極まりないです!」
愛が我慢の限界とばかりに立ち上がって声を上げる。
「落ち着け、曲江愛(まがりえあい)……」
「これが落ち着いていられますか⁉ ……って私も反省点ありですか⁉」
「いや、貴様には特に言うことはない……強いていうならば、貴様の用いる術は体力の消耗が激しい……基礎体力をもっとつけるようにしろ」
「は、はい……」
やや落ち着きを取り戻した愛は席に座る。
「まあ、とりあえずはこんなところだな、色々と言ったが、各人の働きぶりには概ね満足はしている。これからもその調子で頼むそ。それでは、今日のところは以上で解散だ」
御剣がそう告げて、各自がそれぞれ部屋を出る。
「俺は……どうやら忘れられているな……」
部屋の隅に残された一人の男が悲し気にため息をつく。黒駆三尋(くろがけみひろ)、上杉山隊所属の忍びである。忍びとして優れた腕を持ってはいるのだが、かえってそれが仇となって、皆からその存在を忘れられがちな男である。
妖絶士は妖とは主にこの狭世という空間で戦うことが多い。普通の人間にはこの空間を認識することや立ち入ることは出来ない。ただ、透明なものとして通り過ぎるだけである。つまり、ここではっきりと存在を認識出来る者が妖絶士もしくは妖なのである。
御剣ら上杉山隊の使っていた隊舎は先日、ある者によって復活した妖たちの襲撃を受け、隊舎としての機能不全状態に陥ってしまった。その為、別の隊舎に機能を移し、隊員たちも皆引っ越し作業を終わらせた。現在、この上杉山隊には勇次たち戦闘員以外にも非戦闘員の隊員が在籍しており、約二十人と一匹がこの新隊舎に出入りしている。
「全員揃っているな」
作戦室に御剣が入ってくる。又左がその後をトコトコとついてくる。御剣は戦闘員として前線で戦う隊員たちが揃っていることを確認し、話を始める。
「先の妖根絶、ご苦労であった……最近では珍しく前線部隊全員揃っての任務遂行となったわけだが、これを良い機会として、隊全体並びに個々の反省会を行いたいと思う」
「反省会ですか?」
勇次が問いかける。御剣は頷く。
「そうだ、振り返ることで見えてくるものもある……まずは今回の根絶対象であったからかさ小僧だが、級種は庚(こう)・辛(しん) が主だったな、己(き)級もいくつか混ざっていたようだが」
「えっと、妖ってのは上から甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)・戊(ぼ)・己・庚・辛・壬(じん)・癸(き)だから……中の下くらいの連中か」
勇次が指を折りながら数える。御剣はやや苦笑する。
「指折りも必要ないくらいまでにはまだ至らないか」
「す、すみません……」
「まあいい……今勇次が言ったように級種としては中の下だが、数をみても油断は出来ない相手だった。即座に位置に付き、いたずらに時間をかけず、速やかに根絶出来たことは喜ばしい。ただ……」
「ただ……?」
勇次の前の席に座る愛が首を傾げる。
「連携面をもっと磨き上げる必要があると感じたな。もっと上級の妖と戦うときにも役立つ。それには各々の戦い方や性格をもっと理解しなければならない。誰と組んでも自分と相手の力を存分に発揮出来るようになるのが理想的だ……」
「なるほど……」
愛が頷く。御剣が説明を続ける。
「訓練内容に二人一組でこなすものを増やそうと考えている。組み合わせについては色々と考えているが、決まり次第伝える。ここまではいいな?」
御剣が部屋を見回す。全員が頷く。
「結構……それでは個々の反省点だが……まずは樫崎千景(かしざきちかげ)」
「ええっ⁉ アタシに反省点なんかあんのかよ、姐御!」
足を組んでいた千景がガバっと立ち上がる。そのサラシで巻いた大きな胸やムチムチっとした太ももを含む、豊満な肉体が揺れる。勇次は男の悲しい本能でそれをついつい目で追ってしまうが、慌てて視線を逸らす。
「……まずは独断専行だにゃ、位置取りは悪くにゃかったが、飛び出すのが少し早かった……もっとみんにゃと呼吸を合わせにゃいと……」
又左が淡々と説明する。御剣が補足する。
「相手の数を考えれば、あっという間に包囲され、孤立してしまう恐れもある。たった一人でも欠ければ、こういった集団で行う作戦行動全体に支障をきたす場合もある。血湧き肉躍るのは正直分からんでもないのだが……」
「ヒャ……野蛮な性根はなかなか変わらないってことですわね」
「んだとぉ?」
千景は一人挟んで隣に座る前髪を揃えた女性を睨み付ける。
「ち、千景は冷静な時は冷静です! 感情を上手くコントロール出来れば問題ないのでは? それに勇敢さと純粋な戦闘能力の高さは頼りになります!」
勇次が雰囲気を変えるように大きな声で御剣に告げる。
「勇次、そんな大声で……は、恥ずかしいじゃねえかよ……」
千景は照れ臭そうに座り、右隣の勇次の袖をつまんで引っ張る。御剣が咳払いをする。
「コホン……確かに、一撃の破壊力はこの短期間で格段に増したな。鍛錬の成果は出ているようだな、その調子で頼むぞ」
「ウッス!」
「次に苦竹万夜(にがたけまや)……」
「⁉ ファ、わたくしですか、姉様?」
今度は万夜が立ち上がる。口にくわえていた飴を取り出して、不満気な表情をみせる。
「特に言うことはにゃいのだが……全体的にこう、にゃめプが目立つというか……」
「な、舐めプ⁉」
「飴だけにな……」
「姉様! わたくしが飴を舐めているのは、喉のケアが人一倍必要だからであって……」
「それは重々承知している。貴様は少しばかり相手を侮るときがある。自信を持つのは大事だが、それが過信にならないよう気をつけろ」
「ううむ……」
「や~い、怒られてやんの、パッツン~」
「だからわたくしは万夜ですわ!」
万夜は自らを煽ってきた千景を睨む。勇次が再び発言する。
「し、しかし、万夜は副隊長としてよくやっていると思います! 隊長不在のときも隊をまとめてくれています!」
「うむ、その点については私も感謝している。これからも頼む」
御剣が頷きながら万夜に告げる。万夜は席に座ると、左隣の勇次の肩に頬を寄せる。
「勇次さま……♡ 声高にわたくしのことをフォローして下さるなんて……お優しい方……お礼と言ってはなんですが、わたくしの歌でもいかがでしょうか?」
「い、いや、それはまた別の機会に頼む」
勇次は万夜の申し出を丁重に断る。御剣が口を開く。
「次に赤目億葉(あかのめかずは)」
「せ、拙者になにか落ち度でも⁉」
「……せめてもうちょっと荷物はコンパクトににゃらにゃいか? 取り出す時間がどうしても隙だらけになってしまうにゃ」
「絶え間なく変化する戦況に柔軟に対応するためにはどうしてもあれくらいの荷物になってしまうのですよ!」
「……それで自分の体よりも大きいリュックサックを背負って、動きにくくなってしまっては本末転倒というものだろう」
「ぐぬぬ……」
御剣のもっともな指摘に億葉は反論出来ず黙り込んでしまう。勇次が声を上げる。
「で、でも億葉の発明にはこれまでも助けられました! 周囲でフォローをしてやれば良いんじゃないですか? 荷物を減らしたらその分リスクが増えると思います」
「ふむ、一理あるな……わざわざ良さを消す必要はないか……」
「おおっ?」
「陣形などを工夫してみるのも一つの考えだな。億葉、どんどん発明していってくれ」
「は、はい! 旦那様、ありがとうございます!」
億葉は笑顔で振り返り、勇次に礼を言う。
「ど、どういたしまして……ってか、よけてくれないか?」
億葉は何故か勇次の膝の上に腰かけている。億葉は不思議そうに首を傾げる。
「夫婦ならば、この位置が自然ではないですか?」
「め、夫婦って……」
「億葉! てめえはドサクサに紛れてイチャイチャしてんじゃねえよ!」
「そうですわ! 神聖な作戦会議を何だと思っているのですか⁉」
「そういうお二人も同じです! こんな広い部屋で何故わざわざべったりする必要があるんですか⁉ 破廉恥極まりないです!」
愛が我慢の限界とばかりに立ち上がって声を上げる。
「落ち着け、曲江愛(まがりえあい)……」
「これが落ち着いていられますか⁉ ……って私も反省点ありですか⁉」
「いや、貴様には特に言うことはない……強いていうならば、貴様の用いる術は体力の消耗が激しい……基礎体力をもっとつけるようにしろ」
「は、はい……」
やや落ち着きを取り戻した愛は席に座る。
「まあ、とりあえずはこんなところだな、色々と言ったが、各人の働きぶりには概ね満足はしている。これからもその調子で頼むそ。それでは、今日のところは以上で解散だ」
御剣がそう告げて、各自がそれぞれ部屋を出る。
「俺は……どうやら忘れられているな……」
部屋の隅に残された一人の男が悲し気にため息をつく。黒駆三尋(くろがけみひろ)、上杉山隊所属の忍びである。忍びとして優れた腕を持ってはいるのだが、かえってそれが仇となって、皆からその存在を忘れられがちな男である。
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