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第一章

第13話(2) 凄かった、赤かった

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「山牙!」

「恋夏!」

「姉さんたち! 先に行って下さい!」

「すまん!」

 御剣たちは天狗と山牙の脇を素早くすり抜けていく。

「しまった!」

「余所見している余裕あんの⁉」

 山牙の鋭い槍が天狗の頬を掠める。天狗は舌打ちする。

「ちっ!」

「へえ、よく躱したね」

「……そういや、この先には奴らがいるな。そう焦ることは無えか……」

「ああん、何だって?」

「何でもねえよ、てめえをさっさと片付けて、連中に追い付いて始末する! そうすりゃ全部チャラだ!」

「はっ、出来るものならやってみな!」

 山牙は鋭い突きを間断なく繰り出す。天狗はこれを回避するのに精一杯である。

「くっ!」

「人のこと、ウインドウショッピングしてくれちゃって! 許せない!」

「……マインドコントロールだろ⁉」

「そう、それ!」

 山牙の怒りが込められた渾身の一突きを天狗は宙に舞って躱し、大手門の上に着地し、やれやれといった表情で告げる。

「洗脳したのは俺じゃねえぞ? 大体、簡単に洗脳される方が悪いだろ」

「この際どっちでも良い! 降りてこい!」

「滅茶苦茶だな……」

 天狗は呼吸を整えつつ、考えを巡らせる。

(怒りに身を任せているようで、槍さばきは実に冷静だ……俺の小太刀と奴の槍ではどうしてもリーチ差が生じる……ならば!)

 天狗が飛び降りると同時に両手に持つ二本の小太刀を振り、斬撃を飛ばす。

「風刃!」

「ぐっ!」

 飛んできた風の刃を防ぎ切れず、山牙は右肩と左膝に傷を負う。

「ははっ! どんどん行くぜ!」

「ちぃ!」

 山牙は舌打ちをしながら側転などを織り交ぜて何とか風の刃の連撃を躱す。

「はっ! 身軽なもんだな! ただ、いつまで続くかな⁉」

「はあ……はあ……」

 山牙は肩で息をしながら考える。

(リーチ差を埋められるどころか逆に差をつけられてしまった……さて、どうする?)

「そろそろ終わりにするぜ!」

「跳山(ちょうざん)!」

 山牙は地面を槍で叩くとその周囲が山のように勢い良く隆起し、その勢いを利用して上に大きく飛び、天狗との間合いを一気に詰める。

「何だと⁉」

「おりゃ!」

「ぐはっ!」

 山牙は天狗の胸部に強烈な飛び蹴りを喰らわせる。天狗がなんとかその場に踏み留まったところに山牙が追い打ちをかける。

「とどめ!」

「どおっ!」

 天狗は自身の腹部を狙った山牙の槍を小太刀で受け止めようとするが、衝撃を吸収し切れず、後方に吹っ飛び、崖から転落する。

「! ……」

 山牙はゆっくりと崖際に近づき下を見下ろすが、天狗の姿を確認することが出来ない。

「え? ひょっとしてくたばった?」

 反応はない。山牙は気持ちを切り替え、大手門に向かって歩き出す。

(あれで終わりとは思えないけど……今は皆との合流を優先しよう)

 山牙は痛む傷口を抑える。

(悔しいが差を感じた。到着前の姉さんの『鼓武』が無かったら、ヤバかったかも……)

 山牙は自嘲気味な笑みを浮かべながら大手門をくぐる。



「虎口も抜けた! 三つの曲輪を抜ければ、本丸だ!」

 走る御剣に三人が続く。二つ目の曲輪に差し掛かったところ、紫色の巨体が二体、猛然と襲い掛かってくる。

「⁉」

 人に似た巨体が繰り出した拳を御剣はすんでの所で躱す。「

「『剛力』か!」

「なんか、以前に見たのよりは若干小柄なような……」

 愛の疑問に御剣が答える。

「恐らく剛力の半妖だ! 力は本来のそれよりは劣るはずだ」

「しかし、それでも二体もいるとは厄介じゃの!」

 それぞれ刀と軍配を構える御剣と御盾に対し、勇次が口を開く。

「御二人とも先に行って下さい……」

「は? まさか其方一人で相手するつもりか⁉」

「ここは俺に任せて下さい」

「……分かった、勇次! 貴様に任せる! 愛、援護しろ!」

「りょ、了解!」

 勇次の目を見た御剣は頷き、二体の剛力の間を駆け抜ける。御盾もそれに続く。

「勇次君……」

「大丈夫だ、愛……俺はこんな奴らに負けねえ!」

 勇次が叫ぶと、その体全体を包むように赤い気が充満し、頭部に角が生える。うなり声を上げて、二体の剛力がその太い腕を勇次に向かって振り下ろす。

「うおおおっ! 『一閃!』」

 勇次が金棒を横向きに薙ぐと、赤い光が閃き、二体の剛力はあっという間に消滅する。

「す、凄い、一撃で……」

 感嘆する愛に勇次が尋ねる。

「どうだった?」

「え? あ、赤かったかな……」

「見たまんまじゃねえか!」



「この曲輪を抜ければ本丸だ!」

「見つけたっチュウ!」

「くっ⁉」

 走っていた御剣にコート姿の男が斬り掛かる。御剣はなんとかその攻撃を防ぐ。

「大丈夫か⁉」

「武枝! 後ろだ!」

「何⁉ どわっ⁉」

 立ち止まった御盾の背後から白黒のビキニ姿の女が棍棒を振り下ろしてくるが、御盾は間一髪で横に飛んで躱す。御盾が軍配を構えながら御剣に尋ねる。

「宿敵よ、まさかとは思うがこやつらは……」

「そのまさかだ、干支妖の子日と丑泉だ」

「くっ、こんな時に!」

「今、貴様らに構っている暇はない……私と戦いたいなら日を改めてくれないか?」

 子日が静かに口を開く。

「以前言ったチュウ……『次会う時が君らの最後だけど』と……」

「そうだったな、まあいい、行きがけのなんとやらだ、貴様らはここで絶やす!」

 御剣は刀を構える。
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