上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第11話(2) 色とりどりの授業模様

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「勇次君、登校しても大丈夫なの?」

 通学路で愛が勇次に心配そうに尋ねる。

「ああ、三日も休んだんだから、もう充分だろう」

「そう……でも家にいた方が安全じゃない?」  

「三尋と同じ屋根の下っていうのがどうにも落ち着かねえんだよ」

「あ、やっぱり押し入れが定位置なんだ、黒駆さん……」

 勇次は自分の体をベタベタと触る。

「ど、どうしたの?」

「いや、家を出ることとこうして学校に行くことに関して、今の所、妖絶講から全然NGが出てねえなあと思ってさ」

「なんで体をベタベタ触るのよ?」

「なんか、封印の術とかそういうのを掛けられるんじゃねえかと思ってさ」

「何よそれ……大体登校のことはちゃんと報告したの?」

「勿論報告したさ、臨時で来ている他の隊の人が代わりに対応してくれたな。又左にちゃんと伝えてくれるってさ」

「そう……」

 教室に入り、二人は座席に座る。

「ってか、億千万トリオはまだ入院中なのか?」

「退院したとは聞いているけど、一日か二日は静養じゃないのかしら? あの人たちも流石に底なしのタフネスってわけじゃないだろうし」

「ああ、それならもうしばらく落ち着けそうだ」

 勇次は満足気に頷く。愛が冷ややかな視線を送る。

「……破廉恥騒ぎが出来なくてむしろ寂しいんじゃないの?」

「なんだよ、それは……」

「別に……」

 愛がプイと視線を逸らす。

「何怒ってんだか……」

 勇次は頬杖をつきながら、ため息をこぼす。そこに声が掛かる。

「おはよう、二人とも」

「おはよう……って⁉」

「はよ……ええっ⁉」

 挨拶を返した愛と勇次は驚く。そこに御剣が立っていたからである。

「な、何やってんすか⁉」

「登校だ」

「い、いや、それは分かりますけど……」

 あっけにとられる勇次を尻目に御剣が席に着く。愛が小声で尋ねる。

「勇次君を守る為ですか?」

「……それもある」

「それも?」

「先生が来たぞ、ホームルームの時間だ」

 御剣は会話を打ち切る。ホームルームが終わり、一限目の授業となる。科目は地学である。

「今日は代わりの先生が来るって話だけど……」

「あっどうも……皆さんおはようございます……本日代理で参りました、赤目億葉です」

「えっ⁉」

「億葉⁉」

 勇次たちが驚く。教室に億葉が入ってきたからである。周囲から視線が集中したため、勇次たちは黙る。愛が再び御剣に小声で囁く。

「億葉さんまで来るって、どういうことですか?」

「普通の高校生活というのを体験してみたくなったんじゃないか?」

「普通は教壇には立ちませんよ!」

 生徒たちが授業開始の挨拶をすると億葉が口を開く。

「えっと、地学の授業ですが……皆さん、教科書とノートをしまって下さい」

 教室がザワつく。愛が首を捻る。

「どういうこと……?」

「皆さん、私の真似をして下さい」

 億葉は床に寝そべる。教室が更にザワつく。愛が尋ねる。

「お、億葉さん⁉ い、いえ、赤目先生、何をなさっているのですか⁉」

「……見て分かりませんか?」

「さっぱり!」

「地学という学問分野は地球で生じる様々な現象のしくみを解き明かしたり、地球の構造と歴史、地球の将来の姿を研究する学問です」

「はあ……」

「よって、教科書や参考書とにらめっこするよりも、このようにまず、地球と一体化し、地球の鼓動を感じることが重要なのです」

「ええ……」

「皆さんも騙されたと思ってやってみて下さい」

 戸惑いながらも皆、それぞれ床に寝そべり始める。愛が叫ぶ。

「み、みんなそれで良いの⁉」

「ほ、本当だ!」

「地球の鼓動を感じるな……!」

 勇次と御剣が感嘆した声を上げる。

「まんまと騙されているわよ、二人とも!」

 こうしている内に億葉の授業は終わる。

「次は体育、男女一緒とは珍しいな……」

 ジャージに着替えた勇次が呟きながら体育館に向かい、整列する。

「おっし! 時間だな! 授業始めんぞ!」

「ええっ⁉」

「何⁉」

 愛と勇次は再び驚く。ジャージ姿で竹刀を持った千景が現れたからである。

「臨時教師の樫崎千景だ! ビシビシ行くから覚悟しろ!」

 千景は竹刀を床に叩き付ける。愛が呆れる。

「なんとも時代錯誤な……」

「よし! まずは体育館を50周だ!」

 生徒から戸惑いの声が漏れる。千景が一喝する。

「うるせえ! これからてめえらは受験だ、就職だなんだと社会の激しい荒波に揉まれることになるんだ! それに比べたら50周がなんだ! ほれ! 分かったら走れ!」

 千景のあまりの迫力に圧され、生徒たちは走り始める。愛が御剣に囁く。

「まさか千景さんも普通の高校生活に憧れて……ですか?」

「あいつは中退だが一応高校に通った経験はあるからな。なんとなくノリだと思うぞ」

「ノリで授業しないで欲しいわ……」

 怒涛の勢いのまま千景の授業は終わる。

「お次は音楽か、嫌な予感が……」

「皆様、ごきげんよう」

 勇次の嫌な予感は的中する。眼鏡にスーツ姿の万夜が音楽室に入ってきたからである。

「うわ……」

「本日は臨時教師を勤めさせて頂きます、苦竹万夜です。宜しくお願いします」

「まさかここで万夜さんが来るとは……」

 愛が顔をしかめる。万夜がピアノの前に座る。

「余計な言葉は不要! 皆様には音楽の楽しさを感じて頂きます! 教科書の10ページを開いて下さい。一緒に歌いましょう! ジョン・レノンで『イマジン』!」

「! いきなりかよ! 皆、気を付けろ!」

「! 皆、耳を塞いで!」

 勇次と愛が周囲に呼び掛けるも時既に遅く、万夜の発する声、否、怪音波によって、生徒たちは皆バタバタと倒れ込んでいく。演奏が終わると皆の様子を見て万夜が首を傾げる。

「あら? 皆様どうされたのですか? わたくしの美声に聞き惚れてしまったのかしら?」

「はははっ、そうかもしれませんね……」

「ヨーコ・オノが殴り込みにくるレベルだな……」

 愛が苦笑し、御剣が腕を組んで静かに呟く。
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