上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
37 / 123
第一章

第9話(4) 両隊、衝突

しおりを挟む
「ふん!」

 御剣が斜めに振り下ろした刀を御盾が軍配で巧みに受け流す。すぐさま返す刀で斬りかかるが、これも難なく受け止める。又左が舌を巻く。

「これは相当腕を上げているにゃ!」

「はははっ! こんなものか、宿敵! ちなみに此方は全然本気を出しておらんぞ!」

「……私もまだまだ序の口に過ぎん」

「どちらも負けず嫌いだにゃ……」

 又左が呆れる。

「乗り手が力を出し切れていないのはお前が不甲斐ないからではないか?」

「!」

 尚右の突然の発言に又左は顔をしかめる。

「……どういう意味かにゃ」

「そのままの意味だが? 低能な妖猫には難しかったか?」

「シャ―――! 忠犬気取りの駄犬が調子に乗るにゃ!」

「! ま、待て、又左、少し落ち着け!」

 相手に噛み付かんとする又左を落ち着かせようとする御剣を尻目に御盾は距離を取る。



「オラオラァ!」

 千景がパンチを数発繰り出すが、火場がそれを紙一重で躱す。

「一撃一撃が速くかつ重い……まともに喰らってしまってはマズいな―――!」

「どぉっ!」

 火場は千景の腕を掴み一本背負いを決める。電光石火の早業に千景は受け身を満足に取ることが出来ずに、地面に容赦なく叩き付けられる。火場はすぐさま絞め技に入る。

「大人しくしていてもらおう!」

「ぐぬぬ……!」

 しばらくジタバタと抵抗していた千景だったがそれも虚しく失神する。



「せい!」

 万夜が鞭を振るうが、林根は事もなげに躱してみせる。

「な⁉ 何故当たりませんの⁉」

「……鞭の軌道自体は不規則ですが、腕の向きや振りなどを見ればある程度の予測がつきます。回避行動をとるのは然程難しいことではありません」

「!」

 林根があっという間に万夜に接近する。

「この距離では鞭は満足に使えないでしょう」

「ならば、こちらをどうぞ! 『リサイタル』!」

「……」

「ぐはっ! な、何故……?」

 声を発して林根の動きを止めようとした万夜だったが、林根は微動だにせず、強烈な左ストレートを万夜の腹部に叩き込む。まともに受けた万夜は膝から崩れ落ちる。

「……シャットダウンモードを起動させていました。貴女の怪音波は通用しません」



「次は……貴女です」

 林根が愛に視線を向ける。火場が自ら両の拳を突き合わせて呟く。

「朔月、助太刀するぞ」

「無用だと言いたいが……一度負けただけになにも言えんな」

 愛に三人が襲い掛かる。愛は4枚の形代を手に取って投げ付ける。

「朔月望……宿り給へ!」

「火場!」

「春暁!」

「!」

 火場の繰り出した火を纏った拳により、形代は燃えてしまう。朔月はふっと笑う。

「思った通りだな、自分が燃やされている様で少々複雑だが……」

「くっ……」

「曲江愛さん、観念して頂きます」

「しばらく眠っていてもらう!」

「そういうわけには……!」

「させんぞ!」

 三人と愛の間に又左に跨った御剣が割って入り、刀を振る。

「上杉山流奥義……『凍土』」

「「「⁉」」」

 御剣が刀を振るうと、三人が一瞬にして凍りついた。

「一人一人相手をするのは面倒だ、しばらく凍っていてもらう」



「それでこそ我が宿敵!」

 尚右に跨った御盾が上から襲い掛かる。愛が前に進み出る。

「ここは私が! 火場桜春……宿り給へ!」

「⁉ 火場まで出せるのか⁉」

「名前を知って直接会話すれば、具現化出来ます!」

 四体の火場が御盾を取り囲む。

「なんの! 『風林火山・火の構え・火炎』!」

「!」

 御盾が軍配を振るうと、大きな火の渦が起こる。

「形代を用いているのはもうネタが割れておるぞ! ……何じゃと⁉」

 御盾が驚く。燃やしたと思った四体の火場が、燃えずに攻撃してきたからである。

「ど、どういうことじゃ⁉」

「あらかじめある程度水に湿らせておいた形代を用いました!」 

「小癪な真似を……!」

 四体の火場の繰り出す鋭い攻撃をなんとか躱しながら御盾は忌々し気に呟く。

「火場さんは火系統の術者です! 耐性も強い為、簡単には燃やせません!」

「……『風林火山・風の構え・疾風』!」

「⁉」

 御盾が再び軍配を振るうと、今度は強い突風が巻き起こり、その直撃を喰らった四体の火場は哀れにも体が千切れてしまう。

「ふん、燃えにくい代わりに破れやすいの……味方を引き千切る様で後味は悪いが……」

「そ、そんな……」

「其方ら呑気に凍っておる場合か! 溶かせばまだ戦えよう!」

 御盾が後方に振り返り、軍配を振るおうとする。

「氷を溶かす気か、そうはさせん!」

 御剣が素早く回り込み、振り下ろそうとした軍配を刀で受け止める。

「隊長! 援護します!」

「待て! 私のことは良い! 勇次を助けろ!」

「! 了解!」

 愛が少し離れた勇次の所へと急ぐ。御盾が笑う。

「回復要員なしで良いのか⁉」

「ハンデだ! 喜べ!」

「! ふざけたことを!」



「勇次君!」

 愛が駆けつけた時、そこには山牙のみが立っていた。

「! 勇次君は⁉」

「……さっきよりもヤル気にはなってくれたんだけど、足踏み外しちゃってさ……」

 山牙がため息を突きながら槍で崖を指し示す。

「まだ妖力は感じるし、そんな高い崖じゃないからその内戻ってくるでしょ。そしたら、アタシの槍で貫いてあげるんだ♪」

「! そんなことはさせない!」

「……何なの、アンタ……ウザ……決めた、アンタから先に始末して上げる……」

 笑顔から真顔に変わった山牙が槍を構える。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

生まれ変わっても一緒にはならない

小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。 十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。 カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。 輪廻転生。 私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...