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第一章

第5話(2) ハイスクールに通ってみた

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「どうした? 鬼ヶ島、曲江。座りなさい」

「は、はい……」

「……」

「……では上杉山さんの席はあの二人の間の席で」

「分かりました」

 御剣が席に座るやいなや、愛が手を挙げる。

「先生!」

「ん? どうした?」

「隊、い、いえ、どうやら上杉山さんの体調があまり優れないようなので、保健室に連れていっても宜しいでしょうか?」

「そうか? ならば保健委員の井上が……」

「いえ、ここは私が!」

「そうは言ってもだな……」

「ご心配なく! こう見えても小学校の頃、いきものがかりでしたから!」

「心配はしていないが……まあいい、頼むぞ」

 愛の剣幕に押され、担任は愛に任せることにした。愛が勇次に目配せし、それを受けて勇次もすかさず手を挙げる。

「先生! 二人に何かあるといけないので、俺も行きます!」

「いや、何かって、ただ保健室に行くだけだろう……」

「お願いします! こう見えても小学校の頃、ベルマーク回収委員でしたから!」

「だからどう見えるかなんて知らん!」

「ここは行かせて下さい! 実は俺もちょっとまだ体調が……病み上がりなので!」

「元気そうだがな……まあいい、二人で連れていってやれ」

「はい!」

 勇次と愛は御剣を連れて、一階の保健室へと向かった。御剣はベッドに静かに腰を下ろして、二人に尋ねる。

「……どういうことだ?」

「「それはこっちの台詞です!」」

 勇次と愛は一言一句、大声で同じセリフを叫ぶ。御剣が両耳を抑えながらウンザリした様子で呟く。

「いきなり大声で叫ぶな……養護教諭がいたら注意されるところだぞ……」

「叫びたくもなりますよ!」

「そうです! どうして隊長がここにいらっしゃるんです⁉」

「ふむ、話せば長くなるのだが……」

 腕を組む御剣に勇次たちは息を呑む。

「私も急遽非番になったのでな……ヒマだから来てみた」

「話短っ⁉」

「ヒ、ヒマだからって……」

「付け加えるのならば、ハイスクールライフというのを体験してみたくなった」

「そ、そんな……」

「心配するな。貴様らに迷惑を掛けるつもりは無い」

 そう言って御剣は立ち上がり、スタスタと保健室を出ていく。勇次が追いかける。

「あ、ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

「余計な心労が掛かりそうなんですけど……」

 愛が頭を抑えて呟く。

「……このように、平安時代の貴族たちは自作の歌を送り合ってお互いの愛を育んでいたのです。ロマンチックだと思いませんか、皆さん。えっと、上杉山さんはどうかしら?」

「まだるっこしいことこの上ないですね」

「はい?」

「好きだと思ったのなら、すぐにその思いを伝えるべきです」

「は、はあ……」

「戦場においては一瞬の判断が生死を分けます」

「せ、戦場……?」

「ぶほっ、ぶほっ、うぉっほん!」

 御剣の隣に座る愛がわざとらしく大きく咳き込む。古文の女性教師が戸惑う。

「だ、大丈夫? 曲江さん?」

「大丈夫です。それより先生」

「な、なにかしら?」

「上杉山さんは恋愛を戦いに置き換えて考えていらっしゃるのだと思います」

「あ、ああ、なるほど、それなら合点が行きます……行くかしら?」

 女性教師は首を傾げながらもその話題を打ち切った。愛は溜息をつく。そして放課後、女子生徒たちに囲まれて、質問攻めにあう御剣。

「上杉山さんって何か趣味とかあるの?」

「趣味? そうだな……強いて言うなら、鍛錬だな」

「た、鍛錬?」

「ああ、絶え間ない研鑚だ、あれはいいぞ、自己を高めてくれる」

「スマホでメールとかやらないの?」

「メール? ああ、文のことか、ちょっと違うが写経は毎晩欠かさずしているな」

「しゃ、写経?」

「ああ、あれもいいぞ、心を落ち着かせてくれる」

「よく分かんないけど、いわゆる意識高い系ってやつ~? それも良いけどさ~良かったらウチらとカラオケとか行かない?」

「空……桶……?」

「そう、みんなで楽しく歌うの」

「空の桶に敵将の首を詰めて、勝利の凱歌を上げるわけだな! どうしてなかなか見上げた心意気ではないか!」

「あ――‼」

 愛が突如叫んで立ち上がり、御剣たちに向き直る。

「ごめんなさい、上杉山さんのことは私と勇次君が先に誘っていたの。だから申し訳ないんだけど、カラオケはまた今度にしてもらえる?」

 愛は両手を合わせて、女子生徒たちに謝罪する。

「曲江さんはともかく……鬼ヶ島は何の関係があんの?」

「ん?」

 女子生徒たちの視線が勇次に集中する。愛が目配せする。なにか気の利くことを言えということであろう。勇次は頭を撫でながら、答えを絞り出す。

「い、いや、上杉山、さんがさ、愛の実家の神社に結構興味があるみたいでな、俺らで案内しようって話になったんだよ。な、そうだよな?」

「そ、そう! そういうことなの!」

 愛が同調する。女子生徒たちが互いの顔を見合わせる。

「それってつまりさ……」

「そういうことだよね?」

「そうだよ、曲江さんの実家にご挨拶ってこと!」

「「え?」」

 間の抜けた表情をする勇次と愛の肩を女子生徒たちがポンポンと叩く。

「いや~とうとう決心したんだな、お二人さん」

「ご挨拶が上手くいくように健闘を祈る!」

「後は籍入れるだけだな。いや~お互い休みがちの間にそこまで進展していたとは……」

「ち、違うわよ! そんなんじゃなくて!」

 何やら誤解をしている三人組に対し、抗議しようとする愛だったが、三人組は笑顔で無言のサムズアップを返してくるだけだった。これ以上なにを言っても無駄だと思った愛は、鞄を取り、勇次たちに声を掛ける。

「もう帰ろう、勇次君! 上杉山さん!」

「お、おう……」

 勇次たちも続く。

「全く……皆で家に行くってだけで、なんでそんなことになるのよ! 本当に困っちゃうわよね、勇次君?」

「あ、ああ……」

「何よ、その生返事は」

「い、いや、久々に俺のことを勇次君って呼んでくれたな~って思って、何だかうれしくなってさ」

 そう言って、勇次は満面の笑みを浮かべる。愛は顔を赤らめて早歩きで歩き出す。

「おい、どうしたんだよ、急に」

「何でもないわよ!」

「お二人さん、いちゃついている所大変申し訳ないのだが……」

「「いちゃついてません‼」」

 またも二人の大声が揃う。御剣はまた両手で両耳を抑えながら呟く。

「今日の私と勇次の泊まる宿なんだが……」

「ああ、それならウチにどうぞ、一応この辺りではそれなりに大きい神社ですから、客間の一つや二つ……って、ええっ⁉」

 愛が驚きの声を上げる。

「どうした?」

「と、泊まる?」

「やはり宿泊代を出した方が良いか。後で隊の経理の方から……」

「そ、そうではなくて! いやそれも大事ですが!」

「だからどうした?」

 愛が震えながら尋ねる。

「私と勇次の泊まる宿とおっしゃいましたか?」

「ああ、言ったな」

「勇次君は自分の家に帰れば良いじゃないですか!」

「ああ、そう言われると、それもそうだな。すっかり失念していた。それでは勇次、貴様の部屋に泊まらせてもらうことにするぞ」

 ペットボトルの水を飲んでいた勇次が水を吹き出す。

「けほっ、けほっ、な、なんでそうなるんですか⁉」

「トレーニングをつけて欲しいと言っていただろう? 最近任務続きで互いの時間がなかなか合わなかったからちょうど良い、夜のトレーニングだ」

「だから、誤解を招く言い方!」

 御剣を諌めながら、愛の方に恐る恐る視線を向ける。愛が俯いて小刻みに震えている。

「あ、愛……?」

「破廉恥警報最大級……青少年の皆様は一夜の間違いにご注意下さい……」

「お。おい。なにをブツブツ言ってんだ……?」

 すると愛はバッと顔を上げて、こう宣言する。

「お二人とも、今日は私と三人で仲良く寝ましょう!」

「ええっ⁉」

 愛の突拍子もない提案に勇次は驚く。
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