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第一章
第11話(4)零号対弐号
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「なっ⁉ ど、どうやって⁉」
楽土が驚く。
「丸太で来た」
大樹が答える。
「そ、それは見れば分かりますが!」
「適当にデカい木を切った」
「適当に⁉」
「大雑把にそれを川に投げた」
「大雑把に⁉」
「なんとなくそれに飛び乗った」
「なんとなく⁉」
「ふ、ふわっとした説明ね……」
驚く楽土の横で技師が頭を抱える。
「というわけで追いついたぜ!」
「……見逃してくれないかしら?」
「ははっ! おいおい、何を言うかと思えば!」
藤花の言葉を大樹は笑い飛ばす。
「駄目かしらね?」
「少し考えてみろよ……」
大樹が自らの側頭部をトントンと叩く。
「うん?」
「お前ら、おらをぶっ壊しに来たんだろう?」
「ええ」
「そんな相手を黙って見逃す道理が一体どこにあるんだ?」
大樹が大げさに両手を広げる。
「……無いわね」
「そうだろう」
「そこをなんとか」
「駄目だ」
「今なら……このからくり牛を差し上げるわ」
藤花がポンポンとからくり牛を叩く。技師が戸惑う。
「い、いや、そんなんで……」
「ほう……」
大樹が興味深そうに顎をさする。
「く、食いついた⁉」
技師が驚く。
「悪くねえ提案だな……」
「そうでしょう?」
藤花が笑う。
「その牛は一度乗ってみてえなと思ったんだ」
「ああ……」
「なんかこう、惹かれるもんがあるというか……」
「分かるわ。なんだか不思議な魅力があるわよね」
大樹と藤花が頷き合う。
「ただ……」
「ただ?」
「もっと良い考えがある……」
「へえ……それは何かしら?」
藤花が首を捻る。
「お前らを始末して、その牛をいただく……!」
大樹が斧を構える。
「交渉失敗ね……」
藤花がため息交じりで呟く。
「交渉になっていたのか?」
技師が首を傾げる。
「あともう少しだったのだけど……」
「何を以ってもう少しだったのさ……」
技師が呆れ気味に呟く。
「藤花さん……」
「楽土さんはいかだを漕いでいてください。もっと速度が上がるように」
「!」
「こちらは私がどうにかします……」
藤花が大樹の方に近づく。
「へえ、一対一でやる気かい?」
「そうだと言ったら?」
「彼我の実力差が分からないほど馬鹿ではねえだろう?」
「それくらい承知の上よ」
「ああん⁉」
「天竺をご存知かしら?」
「天竺だあ?」
「天竺の人が零というものを初めに見つけたそうよ」
「それがどうした?」
「仏法の教えだったり、色々なものが日ノ本に伝わってきたのは、天竺や唐の国からよ」
「……それがなんだ?」
「これは零というものがとても崇高なものであるということを示しているの」
「うん……?」
大樹が首を傾げる。
「分からないかしら?」
「さっぱり分かんねえな」
「つまり、零号である私が弐号のあなたに負けるわけがないということよ!」
藤花がビシっと指を差す。
「……」
「………」
「よく分からねえが、おらを舐め腐っているっていうのはよく分かったぜ……!」
大樹が斧を振りかざす。技師が慌てる。
「ま、まずいぞ! あの斧による攻撃は!」
「大丈夫よ」
「なにを以って大丈夫なんだよ!」
「向こうはアンタの命まで奪いたくはないようだし……」
「え……」
「利用価値があると踏んでいるんでしょ」
「そ、そうか……?」
「そうよ、だから無茶な攻撃はしてこないはず。例えばこのいかだをぶっ壊すような……」
「……ぶっ壊すつもりだが?」
大樹が何を今さらといった感じで呟く。
「え?」
「その眼鏡は川に落とした後、拾えば良いだけのこった……」
「…………」
「お、おい……?」
技師が黙る藤花に声をかける。
「やっこさん、どうやら本気のようね……」
「最初からそうだよ!」
藤花に対して技師が声を上げる。
「ふん……」
大樹が斧を振り下ろそうとする。
「ちっ!」
「おおっと!」
「‼」
藤花が針を飛ばしたが、大樹が上半身をのけ反らせてかわす。
「ま、丸太から落ちないとは! な、なんという平衡感覚⁉」
楽土が驚愕する。体勢を立て直した大樹が笑う。
「ははっ、根を張っているからな」
「根?」
「さながら体幹とでも言った方が良いか?」
「体幹……体に一本の幹が通っているということか」
「そういうこった……」
大樹が再び斧を振りかざす。技師がさらに慌てる。
「ま、ま、まずい⁉」
「それならば……!」
「むっ⁉」
藤花の手から蔓が生え、大樹の体に巻き付く。技師がびっくりとする。
「ふ、藤の花の蔓⁉」
「楽土さん、手伝ってください!」
「! わ、分かりました! ふん!」
「なっ⁉」
藤花と楽土が力強く引っ張り、大樹をいかだの方まで引き寄せる。技師が困惑する。
「い、いや、接近させてどうすんだよ⁉」
「ははっ! 手間が省けたってもんだぜ!」
「それはこちらの台詞よ……」
「なにっ⁉」
「食らえ!」
藤花が肘を大樹の腹にくっつけて、肘鉄砲を発射する。
「ぐはっ⁉」
あまりの威力に大樹が斧を手放して、川に落ちる。藤花が呟く。
「これはそうね……さながら零距離射撃とでも言った方が良いかしら?」
「な、なんて威力……」
「うおおっ!」
「⁉」
川から顔を出した大樹が丸太を掴んで思い切り振り回す。それが藤花に直撃する。
「と、藤花さん⁉ の、乗ってきた丸太を武器にするとは……」
唖然とする楽土に対し、藤花が腹部を抑えてうずくまりながら声を絞り出す。
「ぐっ……いかだを漕いでください……奴から離れます。とにかく海へ……!」
「くそ! 逃がさねえぞ! 絶対に仕留めてやっかんな!」
川に流されながら大樹が叫ぶ。広瀬川の上での戦いは痛み分けに終わった。
楽土が驚く。
「丸太で来た」
大樹が答える。
「そ、それは見れば分かりますが!」
「適当にデカい木を切った」
「適当に⁉」
「大雑把にそれを川に投げた」
「大雑把に⁉」
「なんとなくそれに飛び乗った」
「なんとなく⁉」
「ふ、ふわっとした説明ね……」
驚く楽土の横で技師が頭を抱える。
「というわけで追いついたぜ!」
「……見逃してくれないかしら?」
「ははっ! おいおい、何を言うかと思えば!」
藤花の言葉を大樹は笑い飛ばす。
「駄目かしらね?」
「少し考えてみろよ……」
大樹が自らの側頭部をトントンと叩く。
「うん?」
「お前ら、おらをぶっ壊しに来たんだろう?」
「ええ」
「そんな相手を黙って見逃す道理が一体どこにあるんだ?」
大樹が大げさに両手を広げる。
「……無いわね」
「そうだろう」
「そこをなんとか」
「駄目だ」
「今なら……このからくり牛を差し上げるわ」
藤花がポンポンとからくり牛を叩く。技師が戸惑う。
「い、いや、そんなんで……」
「ほう……」
大樹が興味深そうに顎をさする。
「く、食いついた⁉」
技師が驚く。
「悪くねえ提案だな……」
「そうでしょう?」
藤花が笑う。
「その牛は一度乗ってみてえなと思ったんだ」
「ああ……」
「なんかこう、惹かれるもんがあるというか……」
「分かるわ。なんだか不思議な魅力があるわよね」
大樹と藤花が頷き合う。
「ただ……」
「ただ?」
「もっと良い考えがある……」
「へえ……それは何かしら?」
藤花が首を捻る。
「お前らを始末して、その牛をいただく……!」
大樹が斧を構える。
「交渉失敗ね……」
藤花がため息交じりで呟く。
「交渉になっていたのか?」
技師が首を傾げる。
「あともう少しだったのだけど……」
「何を以ってもう少しだったのさ……」
技師が呆れ気味に呟く。
「藤花さん……」
「楽土さんはいかだを漕いでいてください。もっと速度が上がるように」
「!」
「こちらは私がどうにかします……」
藤花が大樹の方に近づく。
「へえ、一対一でやる気かい?」
「そうだと言ったら?」
「彼我の実力差が分からないほど馬鹿ではねえだろう?」
「それくらい承知の上よ」
「ああん⁉」
「天竺をご存知かしら?」
「天竺だあ?」
「天竺の人が零というものを初めに見つけたそうよ」
「それがどうした?」
「仏法の教えだったり、色々なものが日ノ本に伝わってきたのは、天竺や唐の国からよ」
「……それがなんだ?」
「これは零というものがとても崇高なものであるということを示しているの」
「うん……?」
大樹が首を傾げる。
「分からないかしら?」
「さっぱり分かんねえな」
「つまり、零号である私が弐号のあなたに負けるわけがないということよ!」
藤花がビシっと指を差す。
「……」
「………」
「よく分からねえが、おらを舐め腐っているっていうのはよく分かったぜ……!」
大樹が斧を振りかざす。技師が慌てる。
「ま、まずいぞ! あの斧による攻撃は!」
「大丈夫よ」
「なにを以って大丈夫なんだよ!」
「向こうはアンタの命まで奪いたくはないようだし……」
「え……」
「利用価値があると踏んでいるんでしょ」
「そ、そうか……?」
「そうよ、だから無茶な攻撃はしてこないはず。例えばこのいかだをぶっ壊すような……」
「……ぶっ壊すつもりだが?」
大樹が何を今さらといった感じで呟く。
「え?」
「その眼鏡は川に落とした後、拾えば良いだけのこった……」
「…………」
「お、おい……?」
技師が黙る藤花に声をかける。
「やっこさん、どうやら本気のようね……」
「最初からそうだよ!」
藤花に対して技師が声を上げる。
「ふん……」
大樹が斧を振り下ろそうとする。
「ちっ!」
「おおっと!」
「‼」
藤花が針を飛ばしたが、大樹が上半身をのけ反らせてかわす。
「ま、丸太から落ちないとは! な、なんという平衡感覚⁉」
楽土が驚愕する。体勢を立て直した大樹が笑う。
「ははっ、根を張っているからな」
「根?」
「さながら体幹とでも言った方が良いか?」
「体幹……体に一本の幹が通っているということか」
「そういうこった……」
大樹が再び斧を振りかざす。技師がさらに慌てる。
「ま、ま、まずい⁉」
「それならば……!」
「むっ⁉」
藤花の手から蔓が生え、大樹の体に巻き付く。技師がびっくりとする。
「ふ、藤の花の蔓⁉」
「楽土さん、手伝ってください!」
「! わ、分かりました! ふん!」
「なっ⁉」
藤花と楽土が力強く引っ張り、大樹をいかだの方まで引き寄せる。技師が困惑する。
「い、いや、接近させてどうすんだよ⁉」
「ははっ! 手間が省けたってもんだぜ!」
「それはこちらの台詞よ……」
「なにっ⁉」
「食らえ!」
藤花が肘を大樹の腹にくっつけて、肘鉄砲を発射する。
「ぐはっ⁉」
あまりの威力に大樹が斧を手放して、川に落ちる。藤花が呟く。
「これはそうね……さながら零距離射撃とでも言った方が良いかしら?」
「な、なんて威力……」
「うおおっ!」
「⁉」
川から顔を出した大樹が丸太を掴んで思い切り振り回す。それが藤花に直撃する。
「と、藤花さん⁉ の、乗ってきた丸太を武器にするとは……」
唖然とする楽土に対し、藤花が腹部を抑えてうずくまりながら声を絞り出す。
「ぐっ……いかだを漕いでください……奴から離れます。とにかく海へ……!」
「くそ! 逃がさねえぞ! 絶対に仕留めてやっかんな!」
川に流されながら大樹が叫ぶ。広瀬川の上での戦いは痛み分けに終わった。
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