【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第8話(1)技師の気まぐれ強化

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                  捌

「……あの廃村は作られたものだってこと?」

 ある団子屋で、技師が腕組みしながら呟く。

「なんだい、今さら……」

 藤花が呆れ気味に応える。

「いや、気になって……」

「もうそんなことどうでもいいだろう」

「どうでもいいことはないでしょう」

「あの廃村に誘い込むのも忍術だったのかもしれないね」

「そうなの?」

 技師が首を傾げる。

「いや、知らないけど」

 藤花も首を傾げる。

「し、知らないの……」

「まあ、忍術というか、心理を巧妙に利用されたものなのかもね……」

「心理を……」

「からくり人形が二体も揃っていたのにねえ……なんとも皮肉なものだ」

 藤花は自嘲気味に笑う。

「そ、それにしても……!」

 技師が話題を変える。

「ん?」

「忍者って初めて見たよ」

「そうかい」

「普段は見かけないから……」

「それはそうだろう、忍んでいるんだから」

「あ、そうか……」

「まあ、私も黒脛巾組のことは初めて見たけどね」

「初めて見たのによく分かったね」

「黒い脚絆をしているのが奴らの目印だ」

「へえ……」

「江戸の世になる前はそれなりに有名だった」

「うん?」

「ああ、それなりにっていうのは、私ら裏の者にとってはね」

「そうじゃなくて、江戸の世になる前?」

「え?」

「ええ?」

「えええ?」

「誤魔化そうとしたって無駄だよ」

「ええええ?」

「しつこいな」

「最近耳が遠くてねえ……」

「誤魔化せてないじゃないか」

「まあ、それはどうでも良いとして……なかなかの強敵だったよ、黒脛巾組……」

「強引に話を変えたね」

 技師が苦笑する。

「手練れ揃いだったね」

「なんだかんだ、楽勝に見えたけど」

「へえ、見えたのかい?」

「……ほとんど一瞬で、何がなにやらって感じだったよ……」

「それはそうだろうね」

 藤花は頷く。

「とにかく苦戦はさほどしてなかったんじゃないかい?」

「多少は手こずったさ」

「多少?」

「お馬さんのついでにアンタを守らなきゃいけなかったからね」

「またついでって言った……!」

 技師がムッとする。藤花はそれを無視して話を進める。

「それもあってね。それでもあの兄妹とかはそれなりに出来る奴らだったよ」

「でも勝ったじゃないか」

「アンタのお陰だ」

 藤花が技師を指差す。

「私の?」

「修理だけでなく、改良を施してくれた……私も楽土さんもかなり強化されたよ」

「う~ん?」

 技師が首を捻る。

「そこで首を捻るところかい?」

「別に狙って強化したわけじゃないけどね」

「えっ?」

「気が付いたらああなったって感じで……」

「天才か!」

「まあね」

「否定しなよ」

「でもなんとなく、気まぐれでああなったっていうか……」

「技師の気まぐれ強化⁉」

 藤花は愕然とする。

「いや、気まぐれは冗談だけどさ……」

 技師は笑いながら手を左右に振る。

「冗談かい」

「それぞれの不足している部分を補おうかと思ったんだよ」

「不足している部分……」

 藤花が自らの胸元を抑える。技師が戸惑う。

「いやいや、どのくらいで満足するか知らないけど……」

「冗談さ。そんなに不足しているかね?」

「もちろん、優れたからくり人形だとは思うよ。ただ、高い基準で考えてみたらの話さ」

「高い基準ね……私の場合は力が足りないと?」

「そうだね、速さなどは申し分ないから、力をより出せるようにしようと思って……」

「ふむ……」

 藤花が自らの掌を広げたり、閉じたりする。技師が尋ねる。

「どうだった?」

「いつもより、骨を折るのに、骨を折らなかったよ」

「や、ややこしいな……」

「悪くはない」

「速さが鈍った感じは?」

「う~ん、特に感じないね」

「それはなにより……」

 技師が満足気に頷く。

「……で、楽土さんは速さを強化したってわけだね……」

「あの体で素早く動き回ったら厄介だろう?」

「軽々と木登りしていたからね……」

「ところで楽土さんは? さっきから姿が見えないのだけど」

 技師が周囲を見回す。

「ちょっとお使いをね……」

「……只今戻りました」

 楽土が馬を一頭連れて戻ってくる。

「お、噂をすれば……馬をもう一頭確保出来ましたね。重畳、重畳」

「信じられないくらい格安で手に入りましたよ……藤花さん、なにか手を回しましたか?」

「まあまあ、それは良いじゃないですか……あ、ずんだ餅食べます? 美味しいですよ」

 藤花はずんだ餅を楽土に差し出す。
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