【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第7話(2)藤花の力

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「藤花さん!」

「ふん!」

 藤花が爪で弾く。手裏剣が地面に突き刺さる。

「これは……!」

「忍びのお出ましか……」

「し、忍び⁉」

 技師が驚く。

「隠れてないで出てきたらどうだい?」

「……」

 藤花の呼びかけに応じ、男が数人、藤花たちの下に進み出てくる。藤花は男たちの脛の部分に巻かれた布に注目する。

「黒い脚絆……黒脛巾組(くろはばきぐみ)か」

「!」

 黒脛巾組と呼ばれた男たちが身構える。

「そんなに驚くことじゃないよ。良い男たちの噂は自然と聞こえてくるもんさ」

「………」

 黒脛巾組は微動だにしない。

「あれ? 褒めたつもりだったのだけど……」

 藤花が首を傾げる。楽土が口を開く。

「藤花さん、軽口を叩いている場合では……」

「別に軽口というつもりではないですけどね。名の知れた方たちとはお話してみたいものじゃないですか」

「……そういう和やかな雰囲気ではなさそうですよ」

 楽土が周囲を見回す。

「分かっていますよ」

「分かっているのではないですか」

「だから和まそうと思ったのですけどね……」

 藤花は首をすくめる。

「……無理だと思いますよ」

 黒脛巾組たちが距離をじりじりと詰めてくる。

「はあ……」

 藤花がため息をつく。

「ため息をついている場合では……」

「まあ、試すには良い機会か……」

 藤花がぽつりと呟く。

「え?」

「楽土さん」

「は、はい……」

「お馬さんとついでに技師さんをよろしく……」

「つ、ついでに⁉」

 技師が面食らう。

「分かりました」

「分かっちゃった⁉」

 楽土の反応に技師がさらに面食らう。

「さて……」

 藤花が馬から降りて、数歩歩き出す。

「! ……」

 黒脛巾組がその周りを取り囲む。

「よく訓練された動きだ……ね!」

 藤花が髪を勢いよくかき上げる。仕込み針が周囲の黒脛巾組に向かって飛ぶ。

「はっ!」

 黒脛巾組がそれをかわす。

「ほう、今のをかわすかい……」

「……己の手の内は分かっている!」

「手の内……ねえ?」

 藤花は自らの掌を広げ、そちらに視線を落とす。

「もらった!」

「おっと!」

 斬りかかってきた黒脛巾組の一人が振るった刀を藤花はかわし、勢いよく走り出す。

「! 逃げた⁉」

「追え!」

 囲みを突破した藤花を黒脛巾組が追いかける。

「聞いていたより速い!」

「着物姿だというのに信じられん!」

「だが、追いつけないほどではない!」

「む!」

 藤花が再び囲まれる。

「さきほどは包囲網のわずかな綻びをよくぞ見抜いて突破してみせたな……しかし、我々は同じヘマはせんぞ……」

「ふふっ……」

 藤花が笑う。

「なにがおかしい?」

「いや、そっちは全然見抜けていないからさ……」

「なんだと?」

 藤花が両手を広げる。

「わざと追いつかせたんだよ」

「なにっ⁉」

「試したいことがあるからね……」

「ほざけ!」

「ほっ!」

「なっ⁉」

 黒脛巾組の一人が再び斬りかかるが、藤花が両手で受け止める。

「真剣白刃取り……久々にやったね……」

「くっ、なんという反応の速さだ……」

「速さはこの際どうでも良いのさ」

「え?」

「……むん!」

 藤花が腕を捻り、刀を折る。

「なっ……!」

「そらっ!」

「がはっ⁉」

 藤花が拳を振るう。黒脛巾組の首が反対側に回る。

「それっ!」

「ぐはっ⁉」

 距離を詰めた藤花が飛び上がり、もう一人の黒脛巾組の顔面に膝蹴りを食らわせる。男の顔面が粉砕される。

「! くっ!」

「……遅いよ」

 逃げ出そうとした残りの黒脛巾組の先に藤花が回り込む。

「ち、ちぃっ!」

 男が刀を振るうが、藤花はそれをかわし、男の背後から抱き着き、首に手をまわす。

「こんな綺麗なお姉さんの腕に抱かれて……理想的な最期じゃないかい?」

「お、お姉さんだと⁉」

「……そりっ!」

「ごはっ⁉」

 鈍い音がしたかと思うと、首が折れ曲がった男がその場に崩れ落ちる。藤花が呟く。

「ふむ、力が上がっている……良い調子だ」
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