【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第6話(4)料理屋にて

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「……」

 楽土がむすっとした状態で座っている。

「そんな顔をしないで、楽土さん」

 藤花が声をかける。

「………」

「……もしかして、怒っています?」

「……それは誰だって怒りますよ」

 楽土が口を開く。

「結果的に走ることが出来たから良かったじゃありませんか」

「なにが良いんですか!」

「剛脚を試すことが出来ましたから。ねえ?」

 藤花は隣に座る技師に声をかける。

「ああ、良い試験になりましたよ」

 技師が頷く。

「こちらの許可なく、勝手に試さないで下さい!」

「う~ん……」

「それは……」

 藤花と技師が揃って腕を組み、首を捻る。

「なんで首を捻るんですか!」

「抜き打ちでないと意味があまりありませんから」

「……と、技師さんはおっしゃっております」

「聞こえていますよ」

「いや、少々専門的なお話かなと……」

「おっしゃっている意味もちゃんと理解していますから」

 楽土が冷ややかな視線を藤花に向ける。

「あら、そうですか」

「何故に抜き打ちでないと意味がないのですか?」

 楽土が技師に尋ねる。

「咄嗟の状況でも対応出来るか、可動するのかというのを見たかったので」

「ふむ……」

 技師の説明に楽土が頷く。

「見たところ……とりあえずは問題なさそうですね」

「問題ない?」

「ええ」

「それは何より……」

 藤花がうんうんと頷く。

「問題あるでしょう……!」

「え?」

「ええ?」

 楽土の言葉に技師と藤花が揃って首を傾げる。

「こちらがえ?ですよ……」

「何か問題が?」

「大柄な男が走る馬二頭に苦も無くついていったのですよ?」

「それが何か?」

「目立って目立ってしょうがないでしょう!」

「そうですかね?」

「そうですよ」

「大丈夫だと思いますよ」

「何を根拠にそんなことを?」

「だって……ねえ?」

「うん……」

 藤花と技師が頷き合う。

「そちらだけで分かり合わないで下さい」

「ん?」

「ん?じゃなくて、説明を求めます」

「……人って案外気にしないものですよ」

「そ、そうでしょうか?」

「いや、そういうものです」

 技師が頷く。楽土が戸惑う。

「ええ……」

「世の中、皆、それぞれ懸命なわけですから、他の事をあまり気にしてもいられません」

「と、おっしゃっています」

「だから、聞こえています……」

「かくいう私も一度からくりのことに夢中になると、他事はほとんど一切、目に入らなくなってしまいますから……」

「それはなんとなくですが分かるような気がします……」

 楽土が自らの体を抑えながら、何故か恥ずかしそうに呟く。藤花が微笑む。

「どうやらご理解頂けたようで……」

「それでも目についてしまったのではないですか?」

「それはそれで……」

「良いのですか⁉」

「まあまあ……」

「また刺客が差し向けられたら……」

「その時はその時です」

「そんな……」

「それよりご飯を食べましょう。ちょうど来たようです」

 藤花たちのもとに料理が届く。楽土が尋ねる。

「これは……魚の煮物ですか?」

「鯉の煮物です」

「鯉⁉」

「ええ、このあたりでは、鯉の養殖が盛んだそうなので」

「鯉を食べるとは……」

「唐の国では、薬魚として食べられてきたそうですよ。健康に良いそうです」

「ほう……」

「ありがたくいただきましょう。滅多に食べられるものではありませんから」

「は、はい……! お、美味しい……」

「柔らかい、骨まで食べられる……」

 楽土と技師がそれぞれほっぺたを抑えながらうっとりとする。

「……で?」

 楽土たちが舌鼓を打っている中、藤花が自らと背中合わせに座る、小柄な男に尋ねる。

「……このまま北上して問題ないですよ」

「私のお目当ては?」

「基本、お城からは動かないようですね」

「そう……なにか動きがあったら知らせて頂戴」

「へい……」

「ああ、ついでにこれを……」

 藤花が小さく折りたたんだ紙を渡す。男が紙に書かれた内容を確認する。

「これは……」

「念のために用意しておいてくれる?」

「お安い御用です」

「いつも悪いわね」

「なんのなんの。姉さんには爺様の代から世話になっておりますので……」

「余計なことは言わない」

「これは失礼しました……それでは……」

 男が席を立つ。楽土たちがそれに気づきそうになったので、藤花が声を上げる。

「そうだ! ……次は逆立ち歩きを試してみましょうか?」

「本当に目立ちますって!」

 藤花の言葉に楽土が困惑する。
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