【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第5話(2)楽土反撃

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                  ♢

「動かないな……」

 眼鏡の女が呟く。

「そりゃあ当然さ、あたしの渾身の一撃を食らわせたからね」

 老人が腕まくりする。

「……」

「なんだい、黙って?」

「渾身の一撃なら体に風穴の一つくらい開けてごらんよ……」

「いやいや、そりゃ無理だって!」

 老人が手をぶんぶんと左右に振る。

「何が無理なのさ?」

「こいつの体、馬鹿みたいに硬いんだよ!」

 老人が楽土を指差す。

「たしかに硬度にはこだわったとかなんとか、そういう噂話は耳に挟んだな……」

 眼鏡の女が腕を組みながら頷く。

「というわけでこれ以上は無理だよ」

「いや、安心出来ん……」

「だから阿保みたいに硬いんだって」

「そこをなんとかしなよ」

「なんとか出来ないよ」

「どうにかしなよ」

「だからどうにも出来ないって。本当に硬いんだから、触ってみてごらんよ」

 老人が眼鏡の女を促す。

「それが怖いから言っているんだろう……!」

「とにかく動かなくなったんだから良いだろう」

「なんで動かないんだ?」

「それを聞くかい? そっちの方が詳しいだろう」

「くっ……」

 眼鏡の女が遠巻きに楽土を見つめる。

「……もっと近づかなきゃよく分からないだろう」

「うるさいな、アンタ見えないんじゃないのか?」

「雰囲気で位置は分かるよ」

「しょうがないな……」

 眼鏡の女は二、三歩、楽土に近づく。

「どうだい?」

「……ふむ」

「ふむじゃあ分からないよ」

「駆動域を司る箇所に故障が発生したようだね」

「もっと分からないよ」

 老人が苦笑する。

「詳しく言ったんだよ」

「それが分からないんだよ」

「まあ、とにかく動きは止まったようだ」

「そうかい」

「じゃあ、こいつを運んでくれ」

「冗談だろう。これ以上年寄りをこき使う気かい?」

「年寄りも何もないだろうが」

「そんな重いやつ運びたくないよ。アンタが運びなよ」

「それこそ冗談だろう。か弱い女の細腕じゃあ無理だ」

「自分でか弱いって言うかね……」

「いいから早くしろ」

「え~……」

「え~じゃない」

「……ご心配には及びませんよ」

「!」

 楽土がゆっくりと立ち上がる。

「察するに……刺客の類ですか……」

「う、動けるのか?」

「ええ、自分でもよく分かりませんがね……」

 楽土は両手を広げる。

「予備の歯車を回したのか……どんな造りをしている?」

 眼鏡の女が顎に手を添えながら呟く。

「技術に関しては分かりかねます……」

「おい、任せたぞ!」

 眼鏡の女が老人に声をかける。

「やれやれ、仕方ないね……」

 老人が手首をこきこきとさせる。

「?」

「ほっ!」

「む!」

 老人が素早く楽土の懐に入る。

「はああっ!」

「‼」

 老人が素早く拳を繰り出し、連続攻撃を楽土の体に食らわせる。

「……『石礫』だ、どうだい?」

「技名なんて心底どうでも良い!」

 眼鏡の女が叫ぶ。

「か~分かっちゃあいないねえ……男の浪漫ってやつを……」

 老人が呆れ気味に首を振る。

「そんなのはどうだって良い!」

「この連撃を食らって立ってられる奴はまずいないよ……ん?」

「……何かしましたか?」

 楽土はきょとんとしている。

「はあっ⁉」

「む、無傷⁉」

「くっ! はああっ!」

 老人がさらに連続攻撃を加える。

「………」

「ふふっ! これだけ連撃を食らえば……!」

「う~ん……」

 楽土が首を捻る。老人が愕然とする。

「ば、馬鹿な⁉」

「も、もっと攻撃を加えろ!」

 眼鏡の女が声を上げる。

「む、無茶を言うな! これ以上はあたしが保たない!」

「壊れても修理してやる! 安心しろ!」

「くっ! し、仕方がない! はあああっ!」

「……………」

「ど、どうだ!」

「……ふん!」

「⁉」

 楽土が盾を手に取り、思い切り横に振る。それを食らった老人は壁を突き破り、宿の外へと吹っ飛ばされる。

「お、おい⁉」

 眼鏡の女がそれを慌てて追いかける。

「宿を壊してしまった……弁償代が高くつきそうだな……いや、今はそれよりもとどめを刺さないといけないか……」

 楽土が後頭部をぽりぽりと掻く。
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