19 / 50
第一章
第5話(2)楽土反撃
しおりを挟む
♢
「動かないな……」
眼鏡の女が呟く。
「そりゃあ当然さ、あたしの渾身の一撃を食らわせたからね」
老人が腕まくりする。
「……」
「なんだい、黙って?」
「渾身の一撃なら体に風穴の一つくらい開けてごらんよ……」
「いやいや、そりゃ無理だって!」
老人が手をぶんぶんと左右に振る。
「何が無理なのさ?」
「こいつの体、馬鹿みたいに硬いんだよ!」
老人が楽土を指差す。
「たしかに硬度にはこだわったとかなんとか、そういう噂話は耳に挟んだな……」
眼鏡の女が腕を組みながら頷く。
「というわけでこれ以上は無理だよ」
「いや、安心出来ん……」
「だから阿保みたいに硬いんだって」
「そこをなんとかしなよ」
「なんとか出来ないよ」
「どうにかしなよ」
「だからどうにも出来ないって。本当に硬いんだから、触ってみてごらんよ」
老人が眼鏡の女を促す。
「それが怖いから言っているんだろう……!」
「とにかく動かなくなったんだから良いだろう」
「なんで動かないんだ?」
「それを聞くかい? そっちの方が詳しいだろう」
「くっ……」
眼鏡の女が遠巻きに楽土を見つめる。
「……もっと近づかなきゃよく分からないだろう」
「うるさいな、アンタ見えないんじゃないのか?」
「雰囲気で位置は分かるよ」
「しょうがないな……」
眼鏡の女は二、三歩、楽土に近づく。
「どうだい?」
「……ふむ」
「ふむじゃあ分からないよ」
「駆動域を司る箇所に故障が発生したようだね」
「もっと分からないよ」
老人が苦笑する。
「詳しく言ったんだよ」
「それが分からないんだよ」
「まあ、とにかく動きは止まったようだ」
「そうかい」
「じゃあ、こいつを運んでくれ」
「冗談だろう。これ以上年寄りをこき使う気かい?」
「年寄りも何もないだろうが」
「そんな重いやつ運びたくないよ。アンタが運びなよ」
「それこそ冗談だろう。か弱い女の細腕じゃあ無理だ」
「自分でか弱いって言うかね……」
「いいから早くしろ」
「え~……」
「え~じゃない」
「……ご心配には及びませんよ」
「!」
楽土がゆっくりと立ち上がる。
「察するに……刺客の類ですか……」
「う、動けるのか?」
「ええ、自分でもよく分かりませんがね……」
楽土は両手を広げる。
「予備の歯車を回したのか……どんな造りをしている?」
眼鏡の女が顎に手を添えながら呟く。
「技術に関しては分かりかねます……」
「おい、任せたぞ!」
眼鏡の女が老人に声をかける。
「やれやれ、仕方ないね……」
老人が手首をこきこきとさせる。
「?」
「ほっ!」
「む!」
老人が素早く楽土の懐に入る。
「はああっ!」
「‼」
老人が素早く拳を繰り出し、連続攻撃を楽土の体に食らわせる。
「……『石礫』だ、どうだい?」
「技名なんて心底どうでも良い!」
眼鏡の女が叫ぶ。
「か~分かっちゃあいないねえ……男の浪漫ってやつを……」
老人が呆れ気味に首を振る。
「そんなのはどうだって良い!」
「この連撃を食らって立ってられる奴はまずいないよ……ん?」
「……何かしましたか?」
楽土はきょとんとしている。
「はあっ⁉」
「む、無傷⁉」
「くっ! はああっ!」
老人がさらに連続攻撃を加える。
「………」
「ふふっ! これだけ連撃を食らえば……!」
「う~ん……」
楽土が首を捻る。老人が愕然とする。
「ば、馬鹿な⁉」
「も、もっと攻撃を加えろ!」
眼鏡の女が声を上げる。
「む、無茶を言うな! これ以上はあたしが保たない!」
「壊れても修理してやる! 安心しろ!」
「くっ! し、仕方がない! はあああっ!」
「……………」
「ど、どうだ!」
「……ふん!」
「⁉」
楽土が盾を手に取り、思い切り横に振る。それを食らった老人は壁を突き破り、宿の外へと吹っ飛ばされる。
「お、おい⁉」
眼鏡の女がそれを慌てて追いかける。
「宿を壊してしまった……弁償代が高くつきそうだな……いや、今はそれよりもとどめを刺さないといけないか……」
楽土が後頭部をぽりぽりと掻く。
「動かないな……」
眼鏡の女が呟く。
「そりゃあ当然さ、あたしの渾身の一撃を食らわせたからね」
老人が腕まくりする。
「……」
「なんだい、黙って?」
「渾身の一撃なら体に風穴の一つくらい開けてごらんよ……」
「いやいや、そりゃ無理だって!」
老人が手をぶんぶんと左右に振る。
「何が無理なのさ?」
「こいつの体、馬鹿みたいに硬いんだよ!」
老人が楽土を指差す。
「たしかに硬度にはこだわったとかなんとか、そういう噂話は耳に挟んだな……」
眼鏡の女が腕を組みながら頷く。
「というわけでこれ以上は無理だよ」
「いや、安心出来ん……」
「だから阿保みたいに硬いんだって」
「そこをなんとかしなよ」
「なんとか出来ないよ」
「どうにかしなよ」
「だからどうにも出来ないって。本当に硬いんだから、触ってみてごらんよ」
老人が眼鏡の女を促す。
「それが怖いから言っているんだろう……!」
「とにかく動かなくなったんだから良いだろう」
「なんで動かないんだ?」
「それを聞くかい? そっちの方が詳しいだろう」
「くっ……」
眼鏡の女が遠巻きに楽土を見つめる。
「……もっと近づかなきゃよく分からないだろう」
「うるさいな、アンタ見えないんじゃないのか?」
「雰囲気で位置は分かるよ」
「しょうがないな……」
眼鏡の女は二、三歩、楽土に近づく。
「どうだい?」
「……ふむ」
「ふむじゃあ分からないよ」
「駆動域を司る箇所に故障が発生したようだね」
「もっと分からないよ」
老人が苦笑する。
「詳しく言ったんだよ」
「それが分からないんだよ」
「まあ、とにかく動きは止まったようだ」
「そうかい」
「じゃあ、こいつを運んでくれ」
「冗談だろう。これ以上年寄りをこき使う気かい?」
「年寄りも何もないだろうが」
「そんな重いやつ運びたくないよ。アンタが運びなよ」
「それこそ冗談だろう。か弱い女の細腕じゃあ無理だ」
「自分でか弱いって言うかね……」
「いいから早くしろ」
「え~……」
「え~じゃない」
「……ご心配には及びませんよ」
「!」
楽土がゆっくりと立ち上がる。
「察するに……刺客の類ですか……」
「う、動けるのか?」
「ええ、自分でもよく分かりませんがね……」
楽土は両手を広げる。
「予備の歯車を回したのか……どんな造りをしている?」
眼鏡の女が顎に手を添えながら呟く。
「技術に関しては分かりかねます……」
「おい、任せたぞ!」
眼鏡の女が老人に声をかける。
「やれやれ、仕方ないね……」
老人が手首をこきこきとさせる。
「?」
「ほっ!」
「む!」
老人が素早く楽土の懐に入る。
「はああっ!」
「‼」
老人が素早く拳を繰り出し、連続攻撃を楽土の体に食らわせる。
「……『石礫』だ、どうだい?」
「技名なんて心底どうでも良い!」
眼鏡の女が叫ぶ。
「か~分かっちゃあいないねえ……男の浪漫ってやつを……」
老人が呆れ気味に首を振る。
「そんなのはどうだって良い!」
「この連撃を食らって立ってられる奴はまずいないよ……ん?」
「……何かしましたか?」
楽土はきょとんとしている。
「はあっ⁉」
「む、無傷⁉」
「くっ! はああっ!」
老人がさらに連続攻撃を加える。
「………」
「ふふっ! これだけ連撃を食らえば……!」
「う~ん……」
楽土が首を捻る。老人が愕然とする。
「ば、馬鹿な⁉」
「も、もっと攻撃を加えろ!」
眼鏡の女が声を上げる。
「む、無茶を言うな! これ以上はあたしが保たない!」
「壊れても修理してやる! 安心しろ!」
「くっ! し、仕方がない! はあああっ!」
「……………」
「ど、どうだ!」
「……ふん!」
「⁉」
楽土が盾を手に取り、思い切り横に振る。それを食らった老人は壁を突き破り、宿の外へと吹っ飛ばされる。
「お、おい⁉」
眼鏡の女がそれを慌てて追いかける。
「宿を壊してしまった……弁償代が高くつきそうだな……いや、今はそれよりもとどめを刺さないといけないか……」
楽土が後頭部をぽりぽりと掻く。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
不屈の葵
ヌマサン
歴史・時代
戦国乱世、不屈の魂が未来を掴む!
これは三河の弱小国主から天下人へ、不屈の精神で戦国を駆け抜けた男の壮大な物語。
幾多の戦乱を生き抜き、不屈の精神で三河の弱小国衆から天下統一を成し遂げた男、徳川家康。
本作は家康の幼少期から晩年までを壮大なスケールで描き、戦国時代の激動と一人の男の成長物語を鮮やかに描く。
家康の苦悩、決断、そして成功と失敗。様々な人間ドラマを通して、人生とは何かを問いかける。
今川義元、織田信長、羽柴秀吉、武田信玄――家康の波乱万丈な人生を彩る個性豊かな名将たちも続々と登場。
家康との関わりを通して、彼らの生き様も鮮やかに描かれる。
笑いあり、涙ありの壮大なスケールで描く、単なる英雄譚ではなく、一人の人間として苦悩し、成長していく家康の姿を描いた壮大な歴史小説。
戦国時代の風雲児たちの活躍、人間ドラマ、そして家康の不屈の精神が、読者を戦国時代に誘う。
愛、友情、そして裏切り…戦国時代に渦巻く人間ドラマにも要注目!
歴史ファン必読の感動と興奮が止まらない歴史小説『不屈の葵』
ぜひ、手に取って、戦国時代の熱き息吹を感じてください!

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる