【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第5話(1)藤花反撃

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                  伍

「……」

 首を絞められた藤花がぐったりとする。

「ふん、くたばったようだね……」

 緑の着物の女性が笑みを浮かべる。

「………」

「って、言うと思ったかい?」

 女性が首をすくめる。

「…………」

「はっ、聞こえないふりをしているのか? まさか、天下の零号がこれくらいでくたばるわけはないよね」

「……………」

「体ごと捻り潰す……!」

 女性が蔦に力を込める。

「ぐっ……」

 藤花の声が漏れる。女性が笑う。

「やはりまだくたばってなかったか。首をねじり切ってやる……!」

 女性がさらに力を込める。

「うぐっ!」

 藤花が顔を引っ張り上げられるような形になる。

「ふふっ……」

「ぐうっ……」

「へえ、苦しさは感じるのか……」

「ぐうう……」

 藤花の顔が歪む。

「ははっ、その顔、いいじゃないか!」

「ぐぐっ……」

「女ぶりが上がっているよ!」

「うぐっ……」

「さっきから、ぐぐっとか、うぐっとか……なにか気の利いたことは言えないのかい?」

「あぐっ……」

 女性がややずっこける。

「そういうことじゃないんだよ」

「………………」

「まあいい、お遊びはそろそろおしまいにするかね」

「……ならばこちらの番だね」

「!」

「……ふん!」

「がはっ⁉」

 女性の体や片目に針が突き刺さる。思わぬことに女性は体勢を崩してしまい、蔦に込めた力が一気に緩まる。

「ふん!」

「むうっ⁉」

 藤花が首や手足を縛っていた蔦を振りほどき、自由になる。藤花は首や手首を抑えながら低い声で呟く。

「好き勝手にやってくれたね……」

「ぐっ……な、なにをした⁉」

 女性が片目を抑えながら叫ぶ。

「針を飛ばしたんだよ、それくらい分かるだろう?」

 藤花が首をすくめながら答える。

「そ、そんな! 髪の毛は振り乱せなかったはず!」

「毛は他にもある……」

「え……」

 女性の視線が藤花の下半身に向く。

「ち、違う、そこじゃない!」

 藤花は慌てて下半身を隠す。

「ど、どういうこと?」

「これだよ、これ!」

「?」

「これ!」

「……?」

 女性が首を傾げる。

「察しが悪いね~! これだって!」

 藤花は自らの目を指差す。目を多くまばたきさせる。女性はハッとなる。

「ま、まつ毛⁉」

「そういうこと」

「まばたきでまつ毛に仕込んだ針を飛ばしたのか……そんなことが……」

「出来るんだな、これが」

 藤花は笑みを浮かべる。

「ば、馬鹿な……」

「馬鹿はこっちの台詞だよ」

「む……」

「アンタとはくぐってきた修羅場の数が違うんだ」

 藤花が胸を張る。

「むう……」

「詰めが甘かったね、私に顔を上げさせるべきじゃなかった」

「むうう……」

「更に言えば、痛めつけて楽しんだりせず、さっさと仕留めるべきだった」

「ちっ……」

 女性が舌打ちする。

「所詮、アンタのような新米からくり人形さんとは役者が違うってことだ」

「な、舐めるな!」

 女性が声を上げる。藤花がため息をつく。

「はあ……」

「な、なんだ⁉」

「だから、それもこっちの台詞……舐めてかかったのはそっちでしょ。相手の台詞を喋っちゃうなんて、そもそも舞台に上がる資格すらないね」

「く、くそっ!」

「ははっ、その捨て台詞は良い感じだね」

「おのれ!」

「‼」

 女性が両手をかかげると、蔦が伸びて、藤花に襲いかかる。

「今度こそ仕留める! 油断はしない!」

「……分かっていないな」

「⁉」

 蔦を藤花の鋭く伸びた爪が切り裂く。

「私らの世界で、次や今度こそって言葉は無いも同じなんだよ……!」

「つ、蔦を切った⁉」

「これくらい造作もないことだ……さて!」

「うっ!」

「反撃といこう……!」

 藤花が一瞬で女性との距離を詰め、爪で首を切ろうとする。

「『草生える』!」

「むっ!」

 床に大量の草が生え、それに藤花は足を取られる。女性は素早く後退する。

「ここは撤退だ!」

「逃がすか! ……その前に服を着るとするかな」

 藤花は自分の体を抑える。
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