【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第4話(3)藤花襲撃

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「お風呂の準備が整いました……」

 宿の者が食事を終えた藤花たちに声をかける。

「……」

「………」

 藤花と楽土が見つめ合う。

「楽土さん、お先に」

「いえいえ、藤花さん、どうぞ」

「へえ……」

「な、なんですか?」

「こういうのは『一番風呂だぜ! ヒャッハー!』っていう類の方かと思っていたので……」

「い、今の今まで、そういう素振りを見せたことあります⁉」

「違うのですか?」

「違いますよ!」

「そうですか、それではお先してよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「では、失礼して……」

 藤花が席を立つ。

「…………」

「あ、楽土さん」

 部屋から出ようとした藤花が楽土に声をかける。

「なんですか?」

「やっぱり一緒に入ります?」

「! は、入りませんよ!」

 楽土が慌てる。

「そうですか」

「そ、そうですよ!」

「それでは……」

「え?」

「覗かないで下さいね?」

「の、覗きませんよ!」

 楽土がさらに慌てる。

「戯言ですよ~」

「……こちらになります」

「は~い」

「ったく……」

 藤花が出て行ったのを見て、楽土は頬杖をつく。

「……ごゆっくりどうぞ」

「は~い、分かりました~」

「何か不都合があればお声がけ下さい……」

「はい」

「失礼します……」

 宿の者が出て、藤花は服を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になって、風呂場に入る。

「へえ、ここは外が見える造りになっているんだ、風情があるわね……」

 藤花は体を洗う。

「……………さてと」

 体を流すと、藤花は湯舟につかる。

「あ~」

 藤花はお風呂の気持ちよさに思わず声を上げる。

「生き返ったような気持ちだわ~」

「……死んでいるようなものだものね……」

「!」

 藤花が声のした方に振り返る。緑を基調とした着物を着た女性が立っていた。

「せっかくのご入浴中、恐縮するわ……」

「いつの間に……」

「気配を消していたからね……」

「ちっ……」

「まさかここまで油断してくれるとは思わなかったわ」

「くっ!」

「させない!」

「ぐっ!」

 藤花が髪をかき上げようとするが、緑の着物を着た女が何かを伸ばし、藤花の両腕を一瞬で縛り付ける。女性が笑う。

「ふふん……」

「これは……蔦⁉」

 藤花は自らの両腕に絡まるものを確認する。

「そうよ」

「くっ、こんなもの……!」

 藤花が引きちぎろうとする。

「無駄よ、鉄なみの硬さだもの、下手すれば貴女の腕がちぎれるわよ」

「む、むう……」

「髪から針を飛ばすというのは聞いているわ……でも髪をかき上げないといけないのよね? だから両の腕を縛らせてもらったわ」

「ぐぬっ……」

「それに手の爪も……手癖が大分悪いようだからね……」

「なんの……まだ足が!」

「はっ!」

「ぐうっ⁉」

 湯船から勢い良く飛び出そうとした藤花の両足を、女性が先ほどと同じ要領で縛り付け、藤花の体は風呂の壁に打ち付けられる。

「ふふっ……」

「ぐぬぬっ……」

 女性は藤花の体をまじまじと見つめる。

「……思ったよりも綺麗な体をしているわね」

「……見世物じゃないわよ」

「びた一文払う気はないわ」

 藤花の軽口に女性が冷たい反応を示す。

「あらら? 嫉妬しちゃったかしら?」

「そんなわけがないでしょう……ただ、本当に綺麗ではあるわね。同じからくり人形とはとても思えない……」

 女性が自らの体に手を当てる。

「手入れを怠ってないからね、それに……」

「それに?」

「元々の出来が違うのよ、アンタとは」

「‼」

「怒った?」

「……そうやって冷静さを失わせようとしても無駄なことよ……」

「ふん、確かに冷静ではあるわね。ただし、幾分か詰めが甘い!」

「はあっ!」

「がはっ⁉」

 藤花の首に蔦が絡みつく。女性が頷く。

「すっかり忘れていたわ。首をちょっと振るだけでも髪の毛に仕込んだ針を飛ばせるのよね。危ない危ない……」

「が……がはっ!」

「このまま締め落としてあげるわ……」

「ぐうっ……」

 藤花が苦しげな表情を浮かべる。

「ふん、零号とやらも案外大したことがないわね……」

 女性は拍子抜けしたように呟く。
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