【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第1話(2)似た物同士

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                  ♢

「……」

 楽土が藤花をじっと見つめる。

「なにか?」

「いえ、なんでもありません……」

「なんでもないということはないでしょう……」

「本当になんでもありません」

「またまた、分かった、当ててみましょうか?」

「え?」

 藤花は悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、楽土を指差す。

「私の美しさに見とれてしまったのでしょう?」

「違います」

 楽土は即座に否定する。

(そ、即答⁉)

 藤花は顔を赤らめる。

「え、えっと……」

「訂正します……」

「はい?」

「全然、違います」

「こ、殊更に言わなくても結構です!」

「大事なことなので……」

「ほ、本当は何か問いたいことがあるのではないですか⁉」

「え、いや……」

「嘘を吐いても無駄ですよ! さあ!」

 藤花が両手を大きく広げる。

「さ、さあ!って……」

「なんでも聞いてごらんなさいな!」

「な、なんでも……?」

「ただし、年齢と乳房、腹回り、尻の大きさについてはお答えしかねます!」

「そ、そんなことは聞きませんよ!」

 周囲がざわつき、視線が藤花たちに集中する。藤花は咳払いをひとつ入れる。

「お、おほん。し、失礼……少々取り乱しました……」

「大分取り乱していらっしゃいましたが……」

「それより! 聞きたいことはなんですか?」

「……さきほどはそれがしを試したでしょう?」

「……何故そうお思いに?」

「貴女なら、あれくらいの速さで走る馬にもすぐに反応して、避けるのはわけないはずです」

「本当に足がすくんだのですよ……なかなか経験出来ることではありませんから」

 藤花は首をすくめる。

「確かにそれはそうですが……」

「足が軋んだとでも言った方がよろしい?」

「!」

「大方似た物同士でしょう? 私たち……」

 藤花が笑みを浮かべる。楽土がため息をついてから頷く。

「……ええ、そうです」

「あら、てっきり否定するのかと思ったのですが……」

「ここで否定しても意味はありません……馬を弾き飛ばしたことで普通の人ではないということは馬鹿でも分かったでしょうから」

「ば、馬鹿……?」

「なにか?」

 楽土がきょとんとした顔になる。

「ま、まあ、それはそうですね」

「出来る限りは隠すつもりでしたが……やはり無理でしたね」

「私からも質問よろしいですか?」

 藤花が手を挙げる。

「え? ああ、どうぞ」

「楽土さん、貴方のお役目は?」

「‼」

 楽土が虚を突かれたような表情になる。

「ふふっ……」

 藤花がその反応を見て小さく笑う。

「え、えっと……」

「まさか聞かれるとは思いませんでしたか?」

「え、ええ……」

「私、なにぶん馬鹿正直なもので」

「はあ……」

「付け加えると……私、面倒なことは嫌いなのです。人形同士で腹の探り合いをしたって詮無きことでしょう?」

 藤花は小首を傾げる。楽土は戸惑い気味に頷く。

「そ、それはそうかもしれませんね……」

「貴方は私の監視役ですか?」

「……そういう類のものではありません」

「本当に?」

「ええ、それがしは藤花さんのことを『お守り』し、『破壊』任務の手伝いをするようにと仰せつかりました……」

「ふむ……」

 藤花が腕を組む。

「本当にそれだけです。ただし……」

「ただし?」

 藤花が首を捻る。

「それがしに命じた方の真意は別のところにあるかもしれません……」

「あ~そう来ましたか……」

 藤花が額に手を当てて苦笑する。

「それがしにお答え出来ることはそれだけです……」

「ふ~ん……」

「おい、あんたら……」

 老人男性が声をかけてくる。楽土が首を傾げる。

「なんでしょうか?」

「悪いことは言わん。ここから早く立ち去った方が良いぞ……」

「どういうことですか?」

 老人男性が倒れている男二人を指し示す。

「この二人……この辺を縄張りにしている、ならず者の一味だ……仲間がやられたとなったら、他の奴らが出張ってくるぞ」

「そ、それは厄介ですね……」

「ヒヒ~ン!」

「うわっ⁉」

 馬が起き上がりまた暴れ始める。

「……!」

「! ヒヒ~ン……」

 藤花が一睨みすると、途端に馬が大人しくなった。楽土が驚く。

「が、眼力で制した……?」

「良い子ね、よっと……おじいさん、そのならず者の根城はどこですか?」

 藤花が慣れた様子で馬に跨り、老人に尋ねる。

「ま、町の外れだ……山の方の……」

「と、藤花さん、どうするつもりですか?」

「ならず者を懲らしめついでに馬をもう一頭拝借しましょう」

「ええっ⁉」

 藤花の提案に楽土は驚く。
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