3 / 50
第一章
第1話(2)似た物同士
しおりを挟む
♢
「……」
楽土が藤花をじっと見つめる。
「なにか?」
「いえ、なんでもありません……」
「なんでもないということはないでしょう……」
「本当になんでもありません」
「またまた、分かった、当ててみましょうか?」
「え?」
藤花は悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、楽土を指差す。
「私の美しさに見とれてしまったのでしょう?」
「違います」
楽土は即座に否定する。
(そ、即答⁉)
藤花は顔を赤らめる。
「え、えっと……」
「訂正します……」
「はい?」
「全然、違います」
「こ、殊更に言わなくても結構です!」
「大事なことなので……」
「ほ、本当は何か問いたいことがあるのではないですか⁉」
「え、いや……」
「嘘を吐いても無駄ですよ! さあ!」
藤花が両手を大きく広げる。
「さ、さあ!って……」
「なんでも聞いてごらんなさいな!」
「な、なんでも……?」
「ただし、年齢と乳房、腹回り、尻の大きさについてはお答えしかねます!」
「そ、そんなことは聞きませんよ!」
周囲がざわつき、視線が藤花たちに集中する。藤花は咳払いをひとつ入れる。
「お、おほん。し、失礼……少々取り乱しました……」
「大分取り乱していらっしゃいましたが……」
「それより! 聞きたいことはなんですか?」
「……さきほどはそれがしを試したでしょう?」
「……何故そうお思いに?」
「貴女なら、あれくらいの速さで走る馬にもすぐに反応して、避けるのはわけないはずです」
「本当に足がすくんだのですよ……なかなか経験出来ることではありませんから」
藤花は首をすくめる。
「確かにそれはそうですが……」
「足が軋んだとでも言った方がよろしい?」
「!」
「大方似た物同士でしょう? 私たち……」
藤花が笑みを浮かべる。楽土がため息をついてから頷く。
「……ええ、そうです」
「あら、てっきり否定するのかと思ったのですが……」
「ここで否定しても意味はありません……馬を弾き飛ばしたことで普通の人ではないということは馬鹿でも分かったでしょうから」
「ば、馬鹿……?」
「なにか?」
楽土がきょとんとした顔になる。
「ま、まあ、それはそうですね」
「出来る限りは隠すつもりでしたが……やはり無理でしたね」
「私からも質問よろしいですか?」
藤花が手を挙げる。
「え? ああ、どうぞ」
「楽土さん、貴方のお役目は?」
「‼」
楽土が虚を突かれたような表情になる。
「ふふっ……」
藤花がその反応を見て小さく笑う。
「え、えっと……」
「まさか聞かれるとは思いませんでしたか?」
「え、ええ……」
「私、なにぶん馬鹿正直なもので」
「はあ……」
「付け加えると……私、面倒なことは嫌いなのです。人形同士で腹の探り合いをしたって詮無きことでしょう?」
藤花は小首を傾げる。楽土は戸惑い気味に頷く。
「そ、それはそうかもしれませんね……」
「貴方は私の監視役ですか?」
「……そういう類のものではありません」
「本当に?」
「ええ、それがしは藤花さんのことを『お守り』し、『破壊』任務の手伝いをするようにと仰せつかりました……」
「ふむ……」
藤花が腕を組む。
「本当にそれだけです。ただし……」
「ただし?」
藤花が首を捻る。
「それがしに命じた方の真意は別のところにあるかもしれません……」
「あ~そう来ましたか……」
藤花が額に手を当てて苦笑する。
「それがしにお答え出来ることはそれだけです……」
「ふ~ん……」
「おい、あんたら……」
老人男性が声をかけてくる。楽土が首を傾げる。
「なんでしょうか?」
「悪いことは言わん。ここから早く立ち去った方が良いぞ……」
「どういうことですか?」
老人男性が倒れている男二人を指し示す。
「この二人……この辺を縄張りにしている、ならず者の一味だ……仲間がやられたとなったら、他の奴らが出張ってくるぞ」
「そ、それは厄介ですね……」
「ヒヒ~ン!」
「うわっ⁉」
馬が起き上がりまた暴れ始める。
「……!」
「! ヒヒ~ン……」
藤花が一睨みすると、途端に馬が大人しくなった。楽土が驚く。
「が、眼力で制した……?」
「良い子ね、よっと……おじいさん、そのならず者の根城はどこですか?」
藤花が慣れた様子で馬に跨り、老人に尋ねる。
「ま、町の外れだ……山の方の……」
「と、藤花さん、どうするつもりですか?」
「ならず者を懲らしめついでに馬をもう一頭拝借しましょう」
「ええっ⁉」
藤花の提案に楽土は驚く。
「……」
楽土が藤花をじっと見つめる。
「なにか?」
「いえ、なんでもありません……」
「なんでもないということはないでしょう……」
「本当になんでもありません」
「またまた、分かった、当ててみましょうか?」
「え?」
藤花は悪戯っぽい笑みを浮かべつつ、楽土を指差す。
「私の美しさに見とれてしまったのでしょう?」
「違います」
楽土は即座に否定する。
(そ、即答⁉)
藤花は顔を赤らめる。
「え、えっと……」
「訂正します……」
「はい?」
「全然、違います」
「こ、殊更に言わなくても結構です!」
「大事なことなので……」
「ほ、本当は何か問いたいことがあるのではないですか⁉」
「え、いや……」
「嘘を吐いても無駄ですよ! さあ!」
藤花が両手を大きく広げる。
「さ、さあ!って……」
「なんでも聞いてごらんなさいな!」
「な、なんでも……?」
「ただし、年齢と乳房、腹回り、尻の大きさについてはお答えしかねます!」
「そ、そんなことは聞きませんよ!」
周囲がざわつき、視線が藤花たちに集中する。藤花は咳払いをひとつ入れる。
「お、おほん。し、失礼……少々取り乱しました……」
「大分取り乱していらっしゃいましたが……」
「それより! 聞きたいことはなんですか?」
「……さきほどはそれがしを試したでしょう?」
「……何故そうお思いに?」
「貴女なら、あれくらいの速さで走る馬にもすぐに反応して、避けるのはわけないはずです」
「本当に足がすくんだのですよ……なかなか経験出来ることではありませんから」
藤花は首をすくめる。
「確かにそれはそうですが……」
「足が軋んだとでも言った方がよろしい?」
「!」
「大方似た物同士でしょう? 私たち……」
藤花が笑みを浮かべる。楽土がため息をついてから頷く。
「……ええ、そうです」
「あら、てっきり否定するのかと思ったのですが……」
「ここで否定しても意味はありません……馬を弾き飛ばしたことで普通の人ではないということは馬鹿でも分かったでしょうから」
「ば、馬鹿……?」
「なにか?」
楽土がきょとんとした顔になる。
「ま、まあ、それはそうですね」
「出来る限りは隠すつもりでしたが……やはり無理でしたね」
「私からも質問よろしいですか?」
藤花が手を挙げる。
「え? ああ、どうぞ」
「楽土さん、貴方のお役目は?」
「‼」
楽土が虚を突かれたような表情になる。
「ふふっ……」
藤花がその反応を見て小さく笑う。
「え、えっと……」
「まさか聞かれるとは思いませんでしたか?」
「え、ええ……」
「私、なにぶん馬鹿正直なもので」
「はあ……」
「付け加えると……私、面倒なことは嫌いなのです。人形同士で腹の探り合いをしたって詮無きことでしょう?」
藤花は小首を傾げる。楽土は戸惑い気味に頷く。
「そ、それはそうかもしれませんね……」
「貴方は私の監視役ですか?」
「……そういう類のものではありません」
「本当に?」
「ええ、それがしは藤花さんのことを『お守り』し、『破壊』任務の手伝いをするようにと仰せつかりました……」
「ふむ……」
藤花が腕を組む。
「本当にそれだけです。ただし……」
「ただし?」
藤花が首を捻る。
「それがしに命じた方の真意は別のところにあるかもしれません……」
「あ~そう来ましたか……」
藤花が額に手を当てて苦笑する。
「それがしにお答え出来ることはそれだけです……」
「ふ~ん……」
「おい、あんたら……」
老人男性が声をかけてくる。楽土が首を傾げる。
「なんでしょうか?」
「悪いことは言わん。ここから早く立ち去った方が良いぞ……」
「どういうことですか?」
老人男性が倒れている男二人を指し示す。
「この二人……この辺を縄張りにしている、ならず者の一味だ……仲間がやられたとなったら、他の奴らが出張ってくるぞ」
「そ、それは厄介ですね……」
「ヒヒ~ン!」
「うわっ⁉」
馬が起き上がりまた暴れ始める。
「……!」
「! ヒヒ~ン……」
藤花が一睨みすると、途端に馬が大人しくなった。楽土が驚く。
「が、眼力で制した……?」
「良い子ね、よっと……おじいさん、そのならず者の根城はどこですか?」
藤花が慣れた様子で馬に跨り、老人に尋ねる。
「ま、町の外れだ……山の方の……」
「と、藤花さん、どうするつもりですか?」
「ならず者を懲らしめついでに馬をもう一頭拝借しましょう」
「ええっ⁉」
藤花の提案に楽土は驚く。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
妖刀 益荒男
地辻夜行
歴史・時代
東西南北老若男女
お集まりいただきました皆様に
本日お聞きいただきますのは
一人の男の人生を狂わせた妖刀の話か
はたまた一本の妖刀の剣生を狂わせた男の話か
蓋をあけて見なけりゃわからない
妖気に魅入られた少女にのっぺらぼう
からかい上手の女に皮肉な忍び
個性豊かな面子に振り回され
妖刀は己の求める鞘に会えるのか
男は己の尊厳を取り戻せるのか
一人と一刀の冒険活劇
いまここに開幕、か~い~ま~く~
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
奇妙丸
0002
歴史・時代
信忠が本能寺の変から甲州征伐の前に戻り歴史を変えていく。登場人物の名前は通称、時には新しい名前、また年月日は現代のものに。if満載、本能寺の変は黒幕説、作者のご都合主義のお話。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
ふたりの旅路
三矢由巳
歴史・時代
第三章開始しました。以下は第一章のあらすじです。
志緒(しお)のいいなずけ駒井幸之助は文武両道に秀でた明るく心優しい青年だった。祝言を三カ月後に控え幸之助が急死した。幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされた志緒と駒井家の人々。一周忌の後、家の存続のため駒井家は遠縁の山中家から源治郎を養子に迎えることに。志緒は源治郎と幸之助の妹佐江が結婚すると思っていたが、駒井家の人々は志緒に嫁に来て欲しいと言う。
無口で何を考えているかわからない源治郎との結婚に不安を感じる志緒。果たしてふたりの運命は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる