超一流ヴィランの俺様だが貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!

阿弥陀乃トンマージ

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チャプター1

第7話(3)善悪とは

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 十六夜と名乗った女性が斬り掛かり、近くにいた生物を一匹斬り捨てる。

「グギャアア!」

 斬られた生物は悲鳴を上げて、たちまち消え失せる。残った生物たちが十六夜から距離を取りながら、各々武器を構える。舞が尋ねる。

「こ、この生物たちは?」

「オークという魔界で跳梁跋扈するモンスターです」

 十六夜は剣を構えながら冷静に答える。

「ま、魔界とは?」

「魔法が使える世界です。わかりやすく言えば、異世界ですね」

「い、異世界?」

「そうです。私は『ツマクバ』という魔界に召喚されました」

「しょ、召喚?」

「私は元々気の合う仲間たちと結成した映像クリエイター集団『新誠組』として活動していたのですが……夕張で撮影している時に、不思議な光に包まれて……」

「その世界に転移したというわけか」

「そうなります」

 ジンライの言葉に十六夜は頷く。ジンライが重ねて尋ねる。

「その恰好は?」

「どうやら私や仲間たちは魔法少女として、極めて高い適性があったようで……ツマクバの平穏を守るために魔法少女『ビルキラ』として治安維持活動をしていました」

「ビルキラ?」

 ジンライが首を傾げる。

「邪悪な存在を滅殺する……エビルキラー……略してビルキラです」

「ええっ⁉」

 十六夜の解説に舞が驚く。

「そして、私たちは『邪悪・即座・滅殺』を合言葉に、日々活動に励んでいました」

「物騒!」

「当然です。殺るか殺られるかの世界でしたから……」

「殺伐としている!」

 舞が両手で頭を抑える。ジンライが尋ねる。

「その刀は?」

「武器ですが?」

「それは分かっている。ただ貴様は魔法少女と言っただろう……少女?」

 ジンライが自分で自分の発言に首を捻る。

「ちょ、ちょっと、失礼よ!」

 舞がジンライを注意する。十六夜は怒るでもなく淡々と語る。

「まあ、その辺りは自覚していますが、『自分ら、今日から魔法少女やから、一つよろしゅう頼んまっせ!』とある方から言われたもので……」

「だ、誰ですか! その人は⁉」

「人と言うか……私たちをその世界に召喚したフェアリーですね」

「フェアリー……妖精か。そいつの名前は?」

「名前は……そういえば、分かりませんね」

 ジンライの問いに十六夜が首を捻る。

「分からないのか?」

「『気軽にフェアリーのおやっさんって呼んでや!』と言われました。皆面倒なので、最終的には『フェアっさん』と呼んでいましたが……」

「略している!」

「……そのフェアっさんから魔法少女としての力を授けられたのだろう?」

「細かく言うと違いますが……まあ、そう考えてもらって差支えないと思います」

「話は戻るが、つまり魔法が使えるのだろう?」

「まあ、そうですね……はっ!」

「ウギャ!」

 十六夜が左手をかざすと、炎が放たれ、接近してきたオークが一瞬で炎に包まれる。それを見て、舞が驚きの声を上げる。

「す、すごい! ……あら?」

「だ、大丈夫か⁉」

「あ、ああ、なんとかな……」

 炎が消え、オークは体勢を立て直し、味方に無事をアピールする。

「……耐えられたぞ。多少は効いているようだが」

「はあ……そう、問題は……そこなのです!」

 ジンライの指摘に十六夜は軽くため息をつきながら、あらためて襲い掛かってきたオークを一刀の下に切り捨てる。

「ウギャアア!」

「魔法が当たり前の世界なので、モンスターもある程度の耐性がついてしまっていて……結局一番有効なのが、刀なのです」

 十六夜が刀をくるっと回す。

「魔法少女の適性が云々と言っていたのは……まあ近接武器が確実ではあるな……」

「くっ、キラソーンめ!」

「キラソーン?」

 オークの言葉にジンライが首を捻る。

「向こうでの私の別名……そうですね、ニックネームのようなものでしょうか。他の皆も『キラ~~』と呼ばれていました」

「ソーンとは?」

「茨の意味です。触れると怪我をするような危険な存在と思われていたようで……」

「ど、どんな存在ですか……」

 舞が戸惑い気味に呟く。一番立派な鎧を着たリーダー格と思われるオークが叫ぶ。

「お前らは負けたのだ! これ以上俺たち『シンクオーレ連合』の邪魔をするな!」

「負けたのか?」

「……それぞれの捉え方ですね」

 ジンライの問いに十六夜は落ち着いて答える。

「シンクオーレ連合とは奴らの勢力名か?」

「ええ、人ではなくモンスターを主体とした連中で、ツマクバの政権掌握を狙って暗躍していました。それを私たち新誠組が片っ端から切り捨てていたのですが……」

「ですが?」

「戦い自体は私たちが終始優勢に進めていました……しかし、元老院と貴族院を抑えた奴らが政権を握り、私たちは賊軍ということとなりました」

「ふん、搦め手を使って、クーデター成功……モンスターたちにしてやられたわけだ」

「そ、そんなことってあるの?」

 舞が呟く。十六夜が構え直す。

「しかし、まだ私は生きています。戦いは終わっていません!」

「諦めが悪いぞ!」

「そうだそうだ!」

「黙れ! 奸賊ども! 貴方たちを一匹残らずこの刀の錆にしてくれるわ!」

「くっ……」

 十六夜の一喝にオークたちは怯む。リーダーが声をかける。

「お、お前ら、怯むな! 奴らにやられた同胞を思い出せ!」

「……思い出す必要はないわ。同じところに送ってあげるから……」

「! お、おのれ! お前らかかれ! NSPとやらの前にこいつを倒せ!」

「ど、どっちが正義なのかしら……」

「吹けよ、疾風! 轟け、迅雷! 疾風迅雷、参上!」

「え⁉」

「貴様らの邪な野望は俺様が打ち砕く‼」

 戸惑う舞の横でジンライが疾風迅雷となる。

「き、貴様らってことは……十六夜さんの味方につくの?」

「美人とモンスターなら誰だって美人を助けるだろう。全銀河共通の感情だ」

「は?」

「半分冗談だ! NSPを狙っているならそれを守るまでだ!」

 疾風迅雷がオークの群れに向かって駆け出す。
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