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第1章
第11話(3)形状変化
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(追い上げられてきたな、残り時間もまだまだある。嫌な流れだな……)
リンが考えを巡らせる。
「流れに任せるって手も……うおっ⁉」
リンが自らの背後に立つローに目つぶしを喰らわせる。ローは堪らずのたうち回る。
「だから人の背後に立つな、それに考えを読むな……」
「くうっ……」
「直接眼球を突いたわけではない、そう大げさに転がるな、審判が見ているから早く立て」
「よっと……」
ローが立ち上がる。リンが尋ねる。
「流れに任せるというのは?」
「流れを変えようとしたり、抗おうしたりすると、かえって良くないってことさ」
「……つまり?」
リンが首を傾げる。
「いつも通りやるってことだね」
「それで良いのか?」
「この展開を考えると、それが良いかなと思う」
「いつも通りか……」
リンが腕を組む。
「それにはリンのプレーが大事になってくるのさ」
「私の?」
「ああ、そうだ」
「どう大事になってくるんだ?」
「格闘家らしい反射神経と競り合いの強さを活かして中盤でこぼれ球を拾いまくること……イコール、相手にボールを渡さないということになるね」
「うむ……」
「ボールを保持出来なければ、攻撃出来ない。自然と流れも止まるっていうことさ」
「なるほどな」
「そういう感じで、これまで通り中盤を蹂躙してくれれば良いよ」
「蹂躙って、人聞きが悪いな……」
「席巻?」
「それも違うような……」
「じゃあ、制圧で」
「まあ、それで良い……」
「お願いするよ」
「ああ、任せろ」
試合はまたも膠着状態になる。ベンチでななみが腕を組む。
「くっ……流れがなかなかこっちに向いてこないわね」
「それもそうでしょう」
「え?」
ななみが隣のフォーを見る。
「分かっているでしょう……彼女の存在よ」
フォーがピッチ上のリンを指差す。
「ああ……」
「彼女のあの圧倒的なまでのデュエルの強さ……」
「デュエルって、パンチとかキックとか繰り出しているし……もはや彼女の場合、文字通りに『決闘』よね……」
「でも、ファウルは取られてないわ。パンチはショルダータックルと言われればそうだし、キックもちゃんとボールへ先に行っている……」
「それはそうかもしれないけど……」
「とにかく彼女とのデュエルをなんとかしないといけないわね……」
「主に対面するのはスラちゃんだけど……」
ななみがピッチ上のスラを見つめる。
「ここまで、わりと健闘している方ではあるけれどね……」
「ハーフタイムになんか言ってなかったっけ?」
「ええ、そろそろ頃合いね……スラ!」
フォーがスラに合図を送る。リンもそれに気が付く。
「なんだ?」
「リン! ボールが行ったぞ!」
「む!」
ボールがリンとスラのちょうど中間地点にこぼれる。フォーが声を上げる。
「スラ!」
「はいラ~!」
「そうはさせん!」
リンが先に足を伸ばし、ボールに先に触れようとする。
「そラ~!」
「なっ⁉」
スラが形状を変化させ、リンの長い脚に絡みつく。
「そラ!」
「うおっ⁉」
スラが体を回す。リンの体が糸に引っ張られた独楽のように回転し、地面に倒れ込む。
「もらったラ~!」
形状を元に戻したスラがボールを拾う。受け身を取ったリンがすぐさま体勢を立て直しながら、審判に抗議する。
「審判! ファールだろう!」
「……ノー!」
「なっ……!」
首を振る審判にリンが驚く。ローが声をかける。
「正当な競り合いと見たんだ! リン、切り替えだ!」
リンが視線を向けると、スラがボールをドリブルで運んで越谷陣内をヌルヌルと進んでいく姿が見える。
「ちいっ!」
リンが舌打ちしながら、スラを追いかける。フォーが指示を送る。
「スラ! そのまま行けるところまで行きなさい!」
「わ、分かったラ~!」
スラがゴール前まで一気に進む。ななみが驚く。
「スラちゃん、速いわね⁉」
(くっ、パスを考えてないのか⁉ 多少は減速するかと思ったが当てが外れた!)
リンが懸命に追いかける。ローがさらに声をかける。
「大丈夫だ! 追いつくぞ!」
「よしっ!」
リンがスラに並びかける。スラが慌てる。
「ラ~!」
「もらった! ……なに⁉」
リンがショルダータックルを仕掛けるが、そのタイミングに合わせ、スラがまたも形状を変化させる。リンの肩と肘がスラの体の柔らかくなった部分にめり込む。ある程度の反発を予想していたリンだが、タックルを吸い込まれたようなかたちになり、バランスを崩して、そのままスラを乗り越えるかのように転がってしまう。
「う、上手くいったラ~!」
「お、おのれ!」
またも受け身を取ったリンが体勢を立て直し、ボールに向かって足を伸ばす。スラにも引っかかったようになり、スラが転がる。
「ラ、ラ~!」
「な、なんだと⁉」
スラが三度形状を変化させる。今度は球体だ。ボールを包み込むように転がり、ゴールネットに向かってそのまま転がり込む。リンのファウルか、スラのハンドか、審判の判定に注目が集まる。審判が宣告する。
「ゴール!」
審判の下した判定にリンは唖然とし、スラは喜ぶ。現在、スコアは5対7である。
リンが考えを巡らせる。
「流れに任せるって手も……うおっ⁉」
リンが自らの背後に立つローに目つぶしを喰らわせる。ローは堪らずのたうち回る。
「だから人の背後に立つな、それに考えを読むな……」
「くうっ……」
「直接眼球を突いたわけではない、そう大げさに転がるな、審判が見ているから早く立て」
「よっと……」
ローが立ち上がる。リンが尋ねる。
「流れに任せるというのは?」
「流れを変えようとしたり、抗おうしたりすると、かえって良くないってことさ」
「……つまり?」
リンが首を傾げる。
「いつも通りやるってことだね」
「それで良いのか?」
「この展開を考えると、それが良いかなと思う」
「いつも通りか……」
リンが腕を組む。
「それにはリンのプレーが大事になってくるのさ」
「私の?」
「ああ、そうだ」
「どう大事になってくるんだ?」
「格闘家らしい反射神経と競り合いの強さを活かして中盤でこぼれ球を拾いまくること……イコール、相手にボールを渡さないということになるね」
「うむ……」
「ボールを保持出来なければ、攻撃出来ない。自然と流れも止まるっていうことさ」
「なるほどな」
「そういう感じで、これまで通り中盤を蹂躙してくれれば良いよ」
「蹂躙って、人聞きが悪いな……」
「席巻?」
「それも違うような……」
「じゃあ、制圧で」
「まあ、それで良い……」
「お願いするよ」
「ああ、任せろ」
試合はまたも膠着状態になる。ベンチでななみが腕を組む。
「くっ……流れがなかなかこっちに向いてこないわね」
「それもそうでしょう」
「え?」
ななみが隣のフォーを見る。
「分かっているでしょう……彼女の存在よ」
フォーがピッチ上のリンを指差す。
「ああ……」
「彼女のあの圧倒的なまでのデュエルの強さ……」
「デュエルって、パンチとかキックとか繰り出しているし……もはや彼女の場合、文字通りに『決闘』よね……」
「でも、ファウルは取られてないわ。パンチはショルダータックルと言われればそうだし、キックもちゃんとボールへ先に行っている……」
「それはそうかもしれないけど……」
「とにかく彼女とのデュエルをなんとかしないといけないわね……」
「主に対面するのはスラちゃんだけど……」
ななみがピッチ上のスラを見つめる。
「ここまで、わりと健闘している方ではあるけれどね……」
「ハーフタイムになんか言ってなかったっけ?」
「ええ、そろそろ頃合いね……スラ!」
フォーがスラに合図を送る。リンもそれに気が付く。
「なんだ?」
「リン! ボールが行ったぞ!」
「む!」
ボールがリンとスラのちょうど中間地点にこぼれる。フォーが声を上げる。
「スラ!」
「はいラ~!」
「そうはさせん!」
リンが先に足を伸ばし、ボールに先に触れようとする。
「そラ~!」
「なっ⁉」
スラが形状を変化させ、リンの長い脚に絡みつく。
「そラ!」
「うおっ⁉」
スラが体を回す。リンの体が糸に引っ張られた独楽のように回転し、地面に倒れ込む。
「もらったラ~!」
形状を元に戻したスラがボールを拾う。受け身を取ったリンがすぐさま体勢を立て直しながら、審判に抗議する。
「審判! ファールだろう!」
「……ノー!」
「なっ……!」
首を振る審判にリンが驚く。ローが声をかける。
「正当な競り合いと見たんだ! リン、切り替えだ!」
リンが視線を向けると、スラがボールをドリブルで運んで越谷陣内をヌルヌルと進んでいく姿が見える。
「ちいっ!」
リンが舌打ちしながら、スラを追いかける。フォーが指示を送る。
「スラ! そのまま行けるところまで行きなさい!」
「わ、分かったラ~!」
スラがゴール前まで一気に進む。ななみが驚く。
「スラちゃん、速いわね⁉」
(くっ、パスを考えてないのか⁉ 多少は減速するかと思ったが当てが外れた!)
リンが懸命に追いかける。ローがさらに声をかける。
「大丈夫だ! 追いつくぞ!」
「よしっ!」
リンがスラに並びかける。スラが慌てる。
「ラ~!」
「もらった! ……なに⁉」
リンがショルダータックルを仕掛けるが、そのタイミングに合わせ、スラがまたも形状を変化させる。リンの肩と肘がスラの体の柔らかくなった部分にめり込む。ある程度の反発を予想していたリンだが、タックルを吸い込まれたようなかたちになり、バランスを崩して、そのままスラを乗り越えるかのように転がってしまう。
「う、上手くいったラ~!」
「お、おのれ!」
またも受け身を取ったリンが体勢を立て直し、ボールに向かって足を伸ばす。スラにも引っかかったようになり、スラが転がる。
「ラ、ラ~!」
「な、なんだと⁉」
スラが三度形状を変化させる。今度は球体だ。ボールを包み込むように転がり、ゴールネットに向かってそのまま転がり込む。リンのファウルか、スラのハンドか、審判の判定に注目が集まる。審判が宣告する。
「ゴール!」
審判の下した判定にリンは唖然とし、スラは喜ぶ。現在、スコアは5対7である。
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