上 下
43 / 50
第1章

第11話(2)集中力を乱す

しおりを挟む
「その調子でガンガン行きなさい!」

「頑張れ~!」

 フォーとななみの声援に応えるように、船橋が攻勢を強める。リンが内心舌打ちする。

(ちっ、このままだと相手に流れがいきかねんな……)

「流れを変える必要性があるね」

 リンにローが話しかける。背後からいきなり話しかけられたリンは驚く。

「どわっ⁉ な、なんだ、人の考えを読むな!」

「だから読んでいないって。考えていそうなことは大体の予想がつくって話だよ」

「ま、まあ、それはいい……流れを変えると言ったな?」

「ああ」

「どうすればいい?」

「単純なことさ。次にボールを拾ったら僕の指示に従ってくれ」

「分かった」

 リンが頷く。しばらくして、リンがこぼれ球を拾う。ローが声を出す。

「よし!」

「ロー!」

「いや、僕じゃない!」

「え⁉」

「センターサークルだ! そこにボールを!」

「わ、分かった!」

 リンがセンターサークルへボールを蹴り出す。そこにはラドがいた。ローが声を上げる。

「ラド、変身だ!」

「え? ゴール前じゃないけど良いの?」

「構わない!」

「分かった~♪」

 ラドが大きなドラゴンに変化し、ボールをキープする。ローが頷く。

「よし、振り向き様にシュートだ!」

「良いの~?」

「ああ! 撃て!」

「オッケー♪」

「!」

 ラドが振り向き様に放ったシュートは強烈で、クーオとレムを吹き飛ばした。しかし、惜しくもゴールポストに当たって跳ね返る。ゴブが慌ててそれをライン外へ蹴り出す。

「な……」

「ちっ……」

 絶句するななみの横でフォーが舌打ちする。

「あ~また入んなかった~」

「いや、上出来だよ……」

 頭を抱えるラドにローが声をかける。ラドが首を傾げる。

「へ?」

「その調子でこの位置からでも、どんどんシュートを撃っていってくれ」

「うん、分かった♪」

 ラドが笑顔で頷く。リンがそれを見て呟く。

「なるほど、布石を打ったというわけか……」

 そこから試合の流れは膠着状態になる。ななみが地団駄を踏む。

「う~ん、ペースが握れない!」

「あんな馬鹿みたいな位置からでもシュートがあるとなると、どうしても慎重にならざるを得ないわね……」

 フォーが腕を組む。ななみが問う。

「ど、どうすれば⁉」

「まあ、ピンチはチャンスとも言うわ……スラ! ルト!」

 フォーがスラとルトをライン際に呼び寄せ、小声で指示を送る。

「な、何を指示したの?」

 ベンチに戻ってきたフォーにななみが尋ねる。

「まあ、見てれば分かるわ……」

「? あ、スラちゃんとルトちゃんが皆に指示を伝達している……」

 それは当然、越谷側も見ている。リンがローに近づき、小声で囁く。

「守備陣形の見直しか?」

「こればっかりは様子を見てみないと分からないな」

 ローが肩をすくめる。

「やることは変わりないな?」

「ああ、頼むよ」

 リンの問いにローが頷く。

「……よし!」

 その後、こぼれたボールがリンに収まる。ローが再び声を上げる。

「リン、センターサークルだ!」

「! ああ!」

 リンがすぐさまボールをセンターサークルに送る。ラドがほぼフリーの状態でボールを受ける。ローが素早く指示を出す。

「ラド、またシュートだ!」

「うん! って⁉」

 ラドが驚く。振り向いた先にレムがいたからである。リンたちも驚く。

「そ、そんな位置にゴールキーパーが⁉ この為の情報伝達か⁉」

「マズい!」

 ローの危惧通り、ドラゴン化しようとしたラドが変化をやめてしまう。それを見たフォーが拳を強く握る。

「驚きで集中が乱れて、ドラゴン化出来なかった! 今よ、レム!」

「おおっ!」

「わあっ!」

 レムがラドからボールを奪う、フォーが指示を出す。

「そのまま突き進みなさい!」

「おおおっ!」

「な、なに⁉」

 虚を突かれた越谷は、レムの攻め上がりを止められない。フォーが再び指示を出す。

「そこよ!」

「うおおっ!」

 レムが脚を高々と上げ、シュート体勢に入る。

「そうはさせないんだから!」

 ドラゴンと化したラドが猛然と追いかけてくる。

「もらった!」

「止める!」

「待て! ラド!」

 ローが制止するが、ラドはスライディングタックルの体勢に入る。すると、レムがシュートを空振りする。ラドが戸惑う。

「ええっ⁉」

「⁉」

 ラドの大きな足がボールに当たり、ボールは物凄い勢いで飛んでいった……ただし、越谷ゴールの方に。まさか味方のシュートが飛んでくるとは予測出来なかったレイナの魔法は発動せず、ボールは越谷ゴールのネットに突き刺さった。

「う、うまくいった……!」

 レムが控えめにガッツポーズを取る。ななみが感心する。

「レムちゃん、タイミング良く空振りしたわね……」

「背中にかなりの圧を感じたんでしょ……」

「ああ、なるほど……」

 ななみが納得する。

「はあ、はあ……」

「してやられたな、ラドの体力がかなり消耗させられた。しばらく休ませないと……」

 肩で息をするラドを見て、ローが渋い顔になる。現在のスコアは4対7である。
しおりを挟む

処理中です...