上 下
35 / 50
第1章

第9話(2)勇者チーム分析

しおりを挟む
「はい、皆、注目! フォーちゃんの分析が始まるよ~!」

「ななみ、アンタちょっと黙ってなさい!」

「はい!」

「返事はいいわね……それじゃあ、明日対戦する『リュミエール越谷』の分析を始めるわ。モニターを見てちょうだい」

 モニターに茶髪のショートボブの女性が映る。レイブンが目を細める。

「この娘は見たことがあるな……」

「そうよ、前回こっちに乗り込んできた内の一人よ。名前はレイナ。勇者パーティーの賢者を務めているわ」

「賢者……なかなかの魔法を使っていたわよね?」

 ななみが尋ねる。フォーが答える。

「そうね。人間にしては……」

「人間にしては?」

「そうよ、本気を出したアタシには到底及ばないわ」

「でも、フォーちゃん、この世界じゃあ、魔力が安定しないんだよね」

「……そうよ」

「見た感じ、このレイナちゃんの方が安定してそうだけど……」

「くっ……それはあれよ」

「あれ?」

 ななみが首を傾げる。

「こっちの世界出身だから、空気とかフィーリングが合うんでしょ」

「ホームとアウェイみたいなもの?」

「そうそう、そういうものよ」

 フォーが頷く。

「レイナって名前とこの見た目で越谷がホームってわけでもないんじゃ……」

「う、うるさいわね!」

 ななみに対し、フォーが声を上げる。レイブンが口を開く。

「……分析を頼む」

「ああ、失礼……」

「一人だけ違うユニフォームということは、この娘はキーパーか」

「そうよ、こないだも見たように、魔法を使ってどんな強烈なシュートもストップしてしまうわ。こんな華奢な見た目だけど、まさに難攻不落の砦ね」

「ど、どうするにゃあ……?」

 トッケが不安そうな声を上げる。

「完璧な魔法というものはまず存在しないわ。必ずどこかしらに穴がある」

「そ、それはどこにゃあ?」

「こればかりはこの目で直に見てみないとなんともね……明日見破ってみせるわ」

「わ、分かったにゃ……」

 フォーの言葉にトッケが頷く。

「次はこの選手……」

 モニターに大柄で赤髪ショートカットの女性が映る。ルトが少し驚く。

「お、大きいっすね……」

「彼女の名前はヒルダ。勇者パーティーではタンクを務めていたわ」

「タンク……壁ってこと?」

 ななみの問いにフォーが頷く。

「そう、このチームでも守備陣の柱を担っているわ。人間離れした当たりの強さに注意が必要よ。タックルを喰らったら、アンタたちでも無事じゃすまないわ」

「おおう……」

 ルトが震え上がる。モニターに次の選手が映る。小柄で青髪ミディアムヘアの女性である。フォーが説明する。

「彼女はピティ……ポジションはサイドに位置する傾向が多いわね」

「はっ、こいつは小柄だな、大したことなさそうだ」

 ゴブが笑う。フォーがジト目でゴブを見つめる。

「アンタよりは大きいけど……まあ、問題はそこじゃないわ」

「え?」

「彼女は勇者パーティーで主にヒーラーを務めていたの。回復役ね」

「主に……?」

 首を捻るななみにフォーが説明する。

「バッファー兼デバッファーでもあるのよ」

「それって……」

「そう、味方を有利な状態にする――バフ効果ってやつ――相手を不利な状態にする――デバフ効果ってやつ――そういう魔法を使えるのよ。ある意味一番厄介かもね」

「ど、どんなデバフ効果を?」

「その日の調子によって違うみたいだから、これも明日になってみないと分からないわね」

 ゴブの問いにフォーが首をすくめる。モニターに次の選手が映る。黒いおさげ髪の女性である。レイブンが顎をさすりながら呟く。

「この娘も見覚えがあるな……」

「そう。こっちに来たわね、格闘家のリン。身のこなしが軽いし、長い脚を活かしたボールキープとボール奪取が得意だわ。この娘を自由にさせると危険ね」

「むう~」

「スラ、アンタとマッチアップする機会が多いと思うわ。負けないで」

「が、頑張るラ~」

 スラが頷く。モニターに次の選手が映る。金髪でロングヘアーの凛々しい顔立ちの女性である。フォーが説明する。

「彼女はビアンカ。女騎士よ」

「お、女騎士……ゴクリ」

「……声に出ているわよ、クーオ」

「お、おっと、これははしたなかったべ……」

 クーオがよだれをふき取る。

「強気な性格で攻撃の要の一人よ。調子づかせるとマズいわね。さて、次は……」

 モニターに次の選手が映る。小柄な赤毛の女の子が映る。レイブンが苦々しい顔になる。

「この娘……」

「ええ、前回も来たわね。名前はラド。人竜族の末裔よ」

「巨大なドラゴンに変化したわよね……」

 ななみの呟きにフォーが応じる。

「ええ、だけど、これまでの試合を見る限り、変化の頻度は少ないわね」

「何故?」

「さあ?」

 ななみの問いに対し、フォーが両手を広げる。ななみが困惑する。

「さあ?って……」

「冗談よ。推測だけど、変化は体に負担がかかるんじゃないの?」

「負担……」

「ええ、極力無理はさせたくないんじゃないかしら。ただ……」

「ただ?」

「明日は決勝だし……出し惜しみするというのは考えにくいわ」

「あのシュートは強烈かつ凄いスピードだった……」

 レムが淡々と振り返る。

「シュートを撃たせないのが一番なわけだけど、残念ながらそういうわけにもいかないでしょうね。レム、集中しておきなさい」

「了解……」

「さて、最後は……」

 モニターに金髪で赤色の額当てをした選手が映る。レイブンがモニターを睨み付ける。

「こやつ……」

「ご存知の通り、勇者ローよ。サッカープレーヤーとしても技術が高いわ。この男を止めなければ、こちらの勝利は遠くなるでしょうね……」

「ふん、この間は不覚を取ったが、明日はそうはいかん! ワシが完膚なきまでに叩きのめしてくれるわ!」

 レイブンが高らかに宣言する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
「アタシをボランチしてくれ!」  突如として現れた謎のヤンキー系美少女、龍波竜乃から意味不明なお願いをされた、お団子頭がトレードマークのごくごく普通の少女、丸井桃。彼女の高校ライフは波乱の幕開け!  揃ってサッカー部に入部した桃と竜乃。しかし、彼女たちが通う仙台和泉高校は、学食のメニューが異様に充実していることを除けば、これまたごくごく普通の私立高校。チームの強さも至って平凡。しかし、ある人物の粗相が原因で、チームは近年稀にみる好成績を残さなければならなくなってしまった!  桃たちは難敵相手に『絶対に負けられない戦い』に挑む!  一風変わった女の子たちによる「燃え」と「百合」の融合。ハイテンションかつエキセントリックなJKサッカーライトノベル、ここにキックオフ!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

★駅伝むすめバンビ

鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……? みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-

橋暮 梵人
青春
幼少の頃から日本サッカー界の至宝と言われ、各年代別日本代表のエースとして活躍し続けてきた片桐修人(かたぎり しゅうと)。 順風満帆だった彼の人生は高校一年の時、とある試合で大きく変わってしまう。 悪質なファウルでの大怪我によりピッチ上で輝くことが出来なくなった天才は、サッカー漬けだった日々と決別し人並みの青春を送ることに全力を注ぐようになる。 高校サッカーの強豪校から普通の私立高校に転入した片桐は、サッカーとは無縁の新しい高校生活に思いを馳せる。 しかしそんな片桐の前に、弱小女子サッカー部のキャプテン、鞍月光華(くらつき みつか)が現れる。 「どう、うちのサッカー部の監督、やってみない?」 これは高校生監督、片桐修人と弱小女子サッカー部の奮闘の記録である。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...