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第1章
第6話(1)勇者の会見
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6
「……もう一度確認させていただきます。あなたは……」
「勇者です」
記者の問いに対し、金髪に赤い額当てをして、銀色の鎧を着た男性が答える。
「ゆ、勇者……」
「はい」
「お、お名前は……?」
「ローと言います」
「ローさんはどういう経緯で勇者に?」
ローと呼ばれた男性が説明を始める。
「ある時気が付いたら、ここではない世界……いわゆる異世界に転移していました」
「異世界……」
「はい、モンスターや人間以外の種族も大勢存在するような世界です」
「そこで勇者になられたのですか?」
「そうです、そういう素質というか、適性があるということでしたので」
「適性ですか?」
「ええ」
ローが頷く。
「その適性というのはどなたが見極めたのですか?」
「妖精ですね」
「ああ、小さいかわいらしい女の子の姿をした……」
「いえ」
「え?」
「おっさんでしたね」
「お、おっさん?」
「はい、太った禿頭のおっさんがいきなり『お前ひょっとしたら勇者とちゃうんか?』とおっしゃったので……」
「関西弁だったのですか?」
「関西弁……でしたね、今思えば」
「そういう方なのですか、妖精って?」
「なんとも言えませんが、僕がお会いした方はそうでしたね」
「関西出身なのですか?」
「僕の耳にはそのような口調に聞こえました」
「なんという名前の方なのですか?」
「特にお名前は伺っていませんね……」
「そうなのですか?」
「はい、そうです」
「それではなんと呼んでおられたのですか?」
「呼んでおられたというのは?」
ローは首を傾げる。
「いや、その妖精の方のことをです」
「ああ、『妖精のおっさん』と呼んでいましたね」
「妖精のおっさん……」
「ええ」
「その方のなにを以って妖精だと判断したのですか?」
「……背中に羽が生えていましたね」
「羽?」
「はい、羽です」
「羽が生えていた……」
「わりと短めでしたけどね……」
「短めだった?」
「はい、大分飛びづらそうにしていましたね」
「飛んでいたのですか?」
「はい、こう……バタバタって感じで……」
ローが両手をばたつかせてみせる。
「そのように飛行していたのですね?」
「まあ、わりと低空飛行でしたが……」
「それだけで妖精と判断できますか?」
「う~ん……あとは……」
「あとは?」
「……半裸でしたかね」
「半裸?」
「はい、結構な薄着で……」
「薄着?」
「薄着というか……こう、布を身に纏っているような……」
「布を身に纏っていた?」
「はい、わりと露出していましたね」
「おっさんが露出ですか?」
「ええ、でも……」
「でも?」
「不思議と不快感みたいなものは無かったですね」
「不快感はなかった……」
会見場がざわつく。
「……そんなことはどうでもいいだろう!」
「!」
ローの隣に座った白い拳法着に身を包んだ黒いおさげ髪の女性がバンと机を叩く。
「……ローも本題に戻れ」
「あ、ああ……魔王と戦っている途中で眩い光に包まれた僕たちはまたこの世界へと戻ってきました」
「眩い光?」
「はい、恐らく転移の力を持った光だと思うのですが……」
「どうしてそのようなことに?」
「それについてはよく分かりません……ひとまずはこの世界に戻ってこられたことを喜んだのですが……」
「ですが?」
「なんと、この世界にあの恐ろしい魔王レイブンが転移してきているではありませんか!」
「ああ、あの魔王……」
「これは由々しき事態です。僕らは奴の野望を打ち砕かなければなりません!」
「そ、そうですか……」
「よって僕らはサッカークラブ、『リュミエール越谷』に加入し、奴らを打倒することにしました!」
「サ、サッカーで戦うのですね⁉」
「ええ、それがなにか?」
ローが首を捻る。
「い、いや、剣や魔法で戦うのかなと……」
「ははっ、ここジパングでそんなことをしたら犯罪じゃないですか……」
ローが笑う。
「そ、それはそうですけど……」
「奴がサッカーをするというなら、僕らも同じフィールドに上がるまでです……」
「そろそろ会見を終わりにさせてもらいたいのだが……」
おさげ髪の女性が口を開く。記者が慌てて問う。
「ず、ずばり、勝算は⁉」
「勇者が魔王に後れを取るわけがありません!」
ローが立ち上がって力強く拳を握る。シャッターがいくつも切られる。
「勇者め、奴もこの世界に来ていたとは……」
「それはこちらの台詞だよ、魔王」
「⁉」
テレビを見ていたレイブンが振り返ると、そこにはローたちが立っていた。
「……もう一度確認させていただきます。あなたは……」
「勇者です」
記者の問いに対し、金髪に赤い額当てをして、銀色の鎧を着た男性が答える。
「ゆ、勇者……」
「はい」
「お、お名前は……?」
「ローと言います」
「ローさんはどういう経緯で勇者に?」
ローと呼ばれた男性が説明を始める。
「ある時気が付いたら、ここではない世界……いわゆる異世界に転移していました」
「異世界……」
「はい、モンスターや人間以外の種族も大勢存在するような世界です」
「そこで勇者になられたのですか?」
「そうです、そういう素質というか、適性があるということでしたので」
「適性ですか?」
「ええ」
ローが頷く。
「その適性というのはどなたが見極めたのですか?」
「妖精ですね」
「ああ、小さいかわいらしい女の子の姿をした……」
「いえ」
「え?」
「おっさんでしたね」
「お、おっさん?」
「はい、太った禿頭のおっさんがいきなり『お前ひょっとしたら勇者とちゃうんか?』とおっしゃったので……」
「関西弁だったのですか?」
「関西弁……でしたね、今思えば」
「そういう方なのですか、妖精って?」
「なんとも言えませんが、僕がお会いした方はそうでしたね」
「関西出身なのですか?」
「僕の耳にはそのような口調に聞こえました」
「なんという名前の方なのですか?」
「特にお名前は伺っていませんね……」
「そうなのですか?」
「はい、そうです」
「それではなんと呼んでおられたのですか?」
「呼んでおられたというのは?」
ローは首を傾げる。
「いや、その妖精の方のことをです」
「ああ、『妖精のおっさん』と呼んでいましたね」
「妖精のおっさん……」
「ええ」
「その方のなにを以って妖精だと判断したのですか?」
「……背中に羽が生えていましたね」
「羽?」
「はい、羽です」
「羽が生えていた……」
「わりと短めでしたけどね……」
「短めだった?」
「はい、大分飛びづらそうにしていましたね」
「飛んでいたのですか?」
「はい、こう……バタバタって感じで……」
ローが両手をばたつかせてみせる。
「そのように飛行していたのですね?」
「まあ、わりと低空飛行でしたが……」
「それだけで妖精と判断できますか?」
「う~ん……あとは……」
「あとは?」
「……半裸でしたかね」
「半裸?」
「はい、結構な薄着で……」
「薄着?」
「薄着というか……こう、布を身に纏っているような……」
「布を身に纏っていた?」
「はい、わりと露出していましたね」
「おっさんが露出ですか?」
「ええ、でも……」
「でも?」
「不思議と不快感みたいなものは無かったですね」
「不快感はなかった……」
会見場がざわつく。
「……そんなことはどうでもいいだろう!」
「!」
ローの隣に座った白い拳法着に身を包んだ黒いおさげ髪の女性がバンと机を叩く。
「……ローも本題に戻れ」
「あ、ああ……魔王と戦っている途中で眩い光に包まれた僕たちはまたこの世界へと戻ってきました」
「眩い光?」
「はい、恐らく転移の力を持った光だと思うのですが……」
「どうしてそのようなことに?」
「それについてはよく分かりません……ひとまずはこの世界に戻ってこられたことを喜んだのですが……」
「ですが?」
「なんと、この世界にあの恐ろしい魔王レイブンが転移してきているではありませんか!」
「ああ、あの魔王……」
「これは由々しき事態です。僕らは奴の野望を打ち砕かなければなりません!」
「そ、そうですか……」
「よって僕らはサッカークラブ、『リュミエール越谷』に加入し、奴らを打倒することにしました!」
「サ、サッカーで戦うのですね⁉」
「ええ、それがなにか?」
ローが首を捻る。
「い、いや、剣や魔法で戦うのかなと……」
「ははっ、ここジパングでそんなことをしたら犯罪じゃないですか……」
ローが笑う。
「そ、それはそうですけど……」
「奴がサッカーをするというなら、僕らも同じフィールドに上がるまでです……」
「そろそろ会見を終わりにさせてもらいたいのだが……」
おさげ髪の女性が口を開く。記者が慌てて問う。
「ず、ずばり、勝算は⁉」
「勇者が魔王に後れを取るわけがありません!」
ローが立ち上がって力強く拳を握る。シャッターがいくつも切られる。
「勇者め、奴もこの世界に来ていたとは……」
「それはこちらの台詞だよ、魔王」
「⁉」
テレビを見ていたレイブンが振り返ると、そこにはローたちが立っていた。
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