上 下
20 / 50
第1章

第5話(3)住

しおりを挟む
                  ⚽

「こちらになります……」

「ふむ……」

「いかがでしょうか?」

「日当たりも良くていい感じっすね!」

「ありがとうございます」

 不動産会社の社員がルトに向かって頭を下げる。

「……ここにしようと思うっす!」

「それでは……」

 社員がななみに目配せする。

「う~ん……」

 ななみが首を傾げる。ルトが問う。

「なにか問題があるっすか?」

「ルトちゃん……」

「はい?」

「やっぱりあそこじゃダメなの?」

「あそこ?」

「クラブハウスの敷地内の……」

「いやいや、あそこは狭いっすよ!」

「片付ければ結構な広さのはずよ」

「片付ければって……そもそもあそこって……」

「予備の物置小屋よ。あ……」

 ななみが口元を抑える。

「いや、犬顔だからって、小屋に住まわせておけば良いとでも思っているっしょ⁉」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

「ここもクラブハウスから近いから良いじゃないっすか!」

「結構割高なのよね……」

 ななみがぼそっと呟く。

「駅や商業施設からも近く、人気が高いので……」

 社員が笑みを浮かべる。

「う~む……」

 ななみが腕を組む。

「クラブハウスで雑魚寝はもう嫌っす!」

「むう……」

「クーオの奴、寝相が悪いわ、いびきはかくわで、もう大変なんすよ!」

「まあ、その辺はなんとか改善したいとは思っていたけど……」

「その為の引っ越しっす!」

「そうなると、他の皆も自分も自分もと言い出しそうだからねえ……」

「そこをなんとか!」

「ちょっと考えさせて……」

「……」

「……うん、やっぱり今回は無しで」

「ええっ⁉」

「すみませんが……」

「……そうですか、またご検討のほど、お願いいたします」

 社員は頭を下げる。ななみたちはクラブハウスに戻る。

「……納得いかないっすよ!」

「計画ではすぐ近くに選手寮を建設するはずだったんだけどね……」

「それは?」

「色々騒動があって、結局計画そのものが頓挫したわ……」

「そ、そんな⁉」

「えっと……もうしばらく我慢してくれる?」

「そりゃないっすよ!」

「う~ん、選手に良い住環境を提供するのもクラブの務めだと思うけど……」

 ななみが頭を抱える。

「……あの辺のスペースはなんだみゃあ?」

 トッケが窓の外を指差して問う。ななみが答える。

「え? ああ、駐車場をもうちょっと拡張するって話があったんだけど、今は必要ないわね。車で通勤する人がそもそもいないんだし……」

「じゃあ、ちょちょいっと♪」

「!」

 トッケが指を振ると、そこに立派な建物が出来上がった。トッケが満足そうに頷く。

「今日は魔力の調子が比較的良いみゃあ、良いものが出来たみゃあ……」

「おおっ、良い感じっす! あそこに住んでも良いっすか⁉」

「構わんみゃあ。ワシもここで雑魚寝は飽き飽きしていたので……」

「やったっす!」

「トッケちゃん、天才!」

 ななみがトッケに抱き着く。

「ふふん……」

「私も使っていい?」

「それなら家賃が欲しいところだみゃあ……ふみゃあ⁉」

 ななみはトッケの顎を撫でて誤魔化す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

アタシをボランチしてくれ!~仙台和泉高校女子サッカー部奮戦記~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
「アタシをボランチしてくれ!」  突如として現れた謎のヤンキー系美少女、龍波竜乃から意味不明なお願いをされた、お団子頭がトレードマークのごくごく普通の少女、丸井桃。彼女の高校ライフは波乱の幕開け!  揃ってサッカー部に入部した桃と竜乃。しかし、彼女たちが通う仙台和泉高校は、学食のメニューが異様に充実していることを除けば、これまたごくごく普通の私立高校。チームの強さも至って平凡。しかし、ある人物の粗相が原因で、チームは近年稀にみる好成績を残さなければならなくなってしまった!  桃たちは難敵相手に『絶対に負けられない戦い』に挑む!  一風変わった女の子たちによる「燃え」と「百合」の融合。ハイテンションかつエキセントリックなJKサッカーライトノベル、ここにキックオフ!

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

バスケットボールくすぐり受難

ねむり猫
大衆娯楽
今日は女子バスケットボール県大会の決勝戦。優勝候補である「桜ヶ丘中学」の前に決勝戦の相手として現れたのは、無名の学校「胡蝶栗女学園中学」であった。桜ヶ丘中学のメンバーは、胡蝶栗女学園の姑息な攻撃に調子を崩され…

High-/-Quality

hime
青春
「…俺は、もう棒高跳びはやりません。」 父の死という悲劇を乗り越え、失われた夢を取り戻すために―。 中学時代に中学生日本記録を樹立した天才少年は、直後の悲劇によってその未来へと蓋をしてしまう。 しかし、高校で新たな仲間たちと出会い、再び棒高跳びの世界へ飛び込む。 ライバルとの熾烈な戦いや、心の葛藤を乗り越え、彼は最高峰の舞台へと駆け上がる。感動と興奮が交錯する、青春の軌跡を描く物語。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話

赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。 前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)

処理中です...