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第1章

第2話(4)魔王、メンバーを集める

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「……それでは始めるぞ!」

「お、おおう……」

「なんじゃ、なんじゃ、そのテンションの低さは⁉」

「いや、そう言われても……なあ?」

「ああ……」

 ゴブとクーオが顔を見合わせる。

「何を戸惑うことがあるというのじゃ?」

「えっと、確認なんすけど……」

「なんじゃ、ルト?」

「今から何をするんすか?」

 ルトの問いにレイブンがガクッとなる。

「昨夜も説明したであろう……」

「はい、もちろん聞いていたっすけど……」

「『サッカー』をするのじゃ!」

「!」

「以上! それでは!」

「ちょ、ちょっと待って下さいっす!」

「はあ……なんだ?」

「いや、それではと言われても……なあ?」

「うむ……」

 ルトとクーオが顔を見合わせる。

「サッカーの詳細に関しては、ななみから説明を受けたじゃろう?」

「あ、あれ、凄かったですね、姉さん!」

「人が動いていたべ!」

「姉さん、魔法使いなんすか⁉」

「い、いや、違うよ……あれはビデオ映像、魔法じゃないよ」

 ゴブたちに囲まれ、ななみは戸惑いながら答える。レイブンが声を上げる。

「いちいち感心するな! 大体昨日もやったであろう、そのやりとり!」

「あ、はい……」

「とにかく練習を始めるぞ」

「練習ってなんのです?」

「サッカーのじゃ」

 ゴブの問いにレイブンがうんざりしながら答える。

「な、なんの為にやるんだべか?」

「クーオ、説明したであろう……」

「いや、なんかこういまいち頭に入らなくて……」

「はあ……もう一度だけ言うぞ? ワシらは何らかの事故で、このジパングという国などがある世界……ワシらにとっては異世界に転移してきてしまった」

「ええ~⁉」

「スラ、昨日も聞いただろう……」

「い、いや、レム、一応リアクションしといた方が良いかなって……」

「……続けるぞ」

「は、はいラ~」

「……元の世界に戻る方法は今のところは分からん……しかし、ワシは魔王、貴様らはその魔王の配下……となると、やることは一つじゃ」

「一つ?」

 トッケが首を傾げる。姿形は猫だが、二足で立つことが出来る。

「『世界征服』……! ワシらはサッカーでこの世界を制する!」

「だ、だからどうしてそういう発想になるのかが分からないみゃあ……」

「……ななみ」

 レイブンがななみに説明を促す。

「あ、は、はい……サッカーはこの世界でもっとも人気のあるスポーツです。大きな大会ともなれば、世界の大多数が注目します」

「ふむ……」

「サッカーの試合や結果は多くの人々に影響を与えます」

「そういうことだ……ワシらはサッカーでこの世界に殴り込みをかける!」

「ちょ、ちょっと待つみゃあ!」

 トッケが声を上げる。レイブンが首を傾げる。

「……なんだ?」

「魔王、戦うという選択肢は?」

「今のところ、転移してきたことが確認されるのはここにいる我々のみ……さすがに数十億人を相手するのはさすがのワシでも骨が折れる……」

「ふ、ふむ……」

「あまり大きな声では言いたくないが、魔力の大半も失われているであろう?」

「た、確かに……」

 トッケが自らの手を見る。

「だからこそ、サッカーで勝つことによってこの世界の連中を心服させる」

「な、なるほど……」

「王道とは言えん、邪道じゃがな……って、昨日も同じことを言ったのじゃが?」

「~♪」

「貴様、寝ておったな……」

 口笛を吹くトッケをレイブンが睨む。ななみが声を上げる。

「ま、まあ! そういうわけで練習を始めましょう!」

「む……」

「それじゃあ、ウオーミングアップよ! グラウンドの周りを走りましょう!」

「おおっ!」

 皆がななみの指示に応じる。

「……はい、ウオーミングアップ終了ね! それじゃあ簡単に動いてもらうわ、みんなの運動能力を確認したいし!」

 ななみの指示に従い、皆、走ったり、飛んだりする。

「ゴブちゃん、さすがにすばっしこいわね!」

「へへっ! 常日頃の悪戯で鍛えましたから!」

 ゴブは鼻をこする。

「クーオちゃん、筋肉結構凄いじゃない!」

「ふへへっ、ぜい肉ばかりだと誤解されがちなんだけども……さすがは姉さん」

 クーオは嬉しそうに腹をさする。

「ルトちゃん、良いダッシュね!」

「まあ、それが取り柄みたいなもんっすから……」

 言葉とは裏腹にルトは照れくさそうにする。

「スラちゃん、人型にもなれるのね!」

「ははっ、これくらいなんてことないラ~」

 人型になったスラが後頭部をかく。

「レムちゃんはパワーが凄いわね!」

「それが自分のアイデンティティなので……」

 レムが朴訥とした口調ながらどことなく嬉しそうにする。

「トッケちゃんは抜け目がないわね!」

「そ、それ、褒めているみゃ⁉」

「褒めているわよ、サッカーは相手をいかに出し抜くのかが大事なんだもの!」

「そ、そうか……いや~照れるみゃあ……」

 トッケが頭を抑える。

「みんな、流石に軍団長だけあるわね! これなら十分戦えるわよ!」

「ほ、本当だべか⁉」

「ええ、私の目に狂いはないわ!」

「さすが姉さん!」

「さあ、この調子でガンガン行きましょう!」

「おおっ‼」

「……あやつら、ワシよりもななみに懐いていないか?」

 レイブンが訝しげに呟く。
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