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第1章

第2話(2)商店街へ

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「6軍団長がいれば、なにも恐れるものはない」

「そ、そんなに強力なの……?」

「ああ」

 レイブンが自慢気に頷く。

「ど、どういう人たちなの?」

「人というか……」

「というか?」

「モンスターじゃな」

「モ、モ、モンスター⁉」

 ななみが目を丸くする。

「ああ、ワイバーンなどがおるぞ」

「ワ、ワ、ワイバーン⁉」

「うむ……」

「思いっきりファンタジーの世界ね……」

「忘れていた、人もおるぞ」

「ああ、そうなんだ……」

 ななみはホッとする。それを見て、レイブンはニヤリとする。

「ただし、一つ目の巨人じゃがな」

「きょ、巨人⁉」

「サイクロプスという奴じゃ」

「サ、サイクロプス……」

「あやつに『ゴールキーパー』とやらを任せよう」

「ええ……」

「まさに鉄壁を誇るはずじゃ、なんせゴールが隠れてしまうからな」

 レイブンがいたずらっぽく笑う。ななみが呆然とする。

「それはもはや鉄壁ってレベルじゃないでしょう……」

「11名揃わんでも、この世界で後れは取らんじゃろうな……」

「まあ、そういう方々がいるなら……」

「むしろ、頭数が少ないのがハンデじゃ」

「ハンデありで世界に挑むの?」

「ああ、負けることはまず考えられんからな。違うか?」

「それはそうかもしれないけど……」

「ああ、そうじゃ」

 レイブンが両手をポンと叩く。

「ん?」

「チーム名もこの際、『船橋モンスターズ』に変更したらどうじゃ?」

「それは却下」

 ななみは即答する。

「な、何故じゃ?」

「ダサいから」

「ダ、ダサい……」

「チーム名は変えないわよ。アウゲンブリック船橋! これだけは譲れないわ」

「何故に?」

「名前を変えたら、それはもはや別のチームじゃないの」

「そういうものか」

「そういうものよ」

「まあいい……さっさと連中と合流せねばな。しかし……」

 レイブンが顎に手を当てる。ななみが尋ねる。

「どうしたの?」

「いや、ひとつ気になるのが……」

「気になるのが?」

「発している魔力が微弱なことじゃな……」

「微弱?」

「ワシと同様、この世界に転移した影響で魔力が弱まっているのかもしれんな……」

「大丈夫なの?」

「なに、それくらいでちょうどよかろう」

「そう……それでその軍団長諸君はどこにいらっしゃるの?」

「……この辺の地図はあるか?」

「え? ええ……」

「それを持ってくるんじゃ」

 ななみがクラブハウス周辺の地図を持ってきて、机に広げる。

「……はい」

「ふむ……」

「ちなみにここが、私たちが今いるクラブハウスね」

 ななみが地図を指差す。

「……ここは?」

 地図を眺めていたレイブンが地図のある地点を指差す。

「え? そこは商店街よ」

「ここに三名いるな」

「ええっ⁉ 急がないと!」

 レイブンの言葉にななみがびっくりする。

「何をそんなに慌てている?」

「ワイバーンやサイクロプスが商店街にいたらパニックでしょう⁉ 回収しに行くわよ!」

「回収とは随分な言いぐさだな……」

 約十分後、レイブンたちは商店街に到着する。

「ここだけど……巨人や飛竜の姿は見えないわね……」

「だが、魔力は確かに感じる……行くぞ」

「あっ、ま、待ってよ!」

 レイブンとななみが商店街に入る。

「む……?」

「ほら! もっと腹から声出して!」

「え~いらっしゃい、いらっしゃい、安いよ安いよ……」

「声が小さいって! そんなんじゃお客さん寄ってこないよ!」

「な、なんでオイラがこんなことを……」

「あいつは……」

 レイブンたちは八百屋の店先でおばさんに怒られている小柄で鼻が高く、ギョロとした目、尖った耳、そして全身緑色の肌をした者を見つける。ななみが首を傾げながら呟く。

「あれって……ゴブリン?」

「あ! ま、魔王さま!」

「……」

「ウギャ⁉」

 小柄なものが魔王に抱き着こうとしたが、レイブンはそれをかわして小声で呟く。

「魔王違いだ……」

「ま、魔王違いって! そんなに魔王さまがいるわけないじゃないですか! 我らが魔王のレイブンさまでしょう⁉」

「知り合いなの?」

「知り合いどころの話じゃねえぜ! オイラは偉大なるレイブンさまの忠実なる配下、ゴブリン軍団の軍団長、『ゴブ』だ!」

 ゴブと名乗った者はななみに向かって胸を張る。

「ゴブリンのゴブ……?」

「おう! こちらのレイブンさまが名付けて下さったんだぜ!」

「安直なネーミングね……」

「うるさいな……」

 ななみの言葉にレイブンは反発する。ゴブはレイブンに哀願する。

「レイブンさま、どうかお助け下さい! この異世界?に来て、戸惑っていたら。訳も分からずにそこの店で働かされて……」

「え? 働かされていたの?」

「ああ、腹が減ったんで、ちょっとばかり野菜を拝借したら……食った分だけしっかり働けとか言われてよ……」

「それはあなたが悪いわね」

「そ、そんな……レイブンさま、お助けを……」

「……ななみ、野菜代を立て替えてやれ」

「え?」

「食い逃げ犯に魔王だ、レイブンだと連呼されたら、ワシの立場というものがなくなる」

「わ、分かったわ……」

 ななみは野菜代を八百屋に支払う。自由の身となったゴブはもみ手をしながら、レイブンに対して語りかける。

「へへっ、さすが、持つべきものは偉大なる魔王さまでございます!」

「ふん……」

「ゴブリンももみ手とかするのね……」

 ななみが変なところで感心する。レイブンが歩き出す。

「魔力を感知した、こっちだ……ん?」

 すると、肉屋の前でなにやら言い争っている者たちがいる。

「だから、オラがここの店番をするだ! おめえは魚屋に行けよ!」

 ブタ顔の腹の出た太った体型でやや大柄な者が声を上げる。

「ブタ顔が豚肉を売るとはなんの冗談っすか? ここはオレがやるっす」

 犬顔のやややせ細った者が反発する。

「おめえは、余った肉をもらう気だろう⁉ 卑しい奴だな⁉」

「ブタの共食いよりマシっす」

「ああん⁉」

「なんすか?」

 ブタ顔と犬顔が睨み合う。ななみが首を捻りながら呟く。

「あれはひょっとして……オークとコボルト?」

「よく知っているな、姉ちゃん、あいつらもオイラと同じレイブンさまの配下、オーク軍団の軍団長、『クーオ』と、コボルト軍団の軍団長、『ルト』だ」

「ふ、ふーん……店番をやらされているのは?」

「あの店の肉を拝借したんだ」

「……ななみ、立て替えてやれ」

 レイブンが額を軽く抑えながら、ななみに告げる。クーオとルトが解放される。

「魔王さまのお陰ですだ!」

「助かったっす」

「ゴブリン、オーク、コボルト……強力?」

「くっ、次だ、次!」

 ななみの視線から目を逸らして、レイブンが再び歩き出す。
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