合魂‼

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
上 下
14 / 51
第1章

第4話(1)特別トレーニング

しおりを挟む
 邪王を討伐してからは、それなりに穏やかな日々が続いた。
 もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
 聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
 ……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。

 そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。

 月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
 最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。


「ユーカ、呼び出して悪かった」

「ごめんね、ユーカ」

「いえ、大丈夫です」


 ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。


「ジークさん? ハミルさん?」


 何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。


「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」

「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」


 まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。


「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」

「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」


 『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。


「俺達と」

「僕達と」

「「結婚してくださいっ」」


 しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
 私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。


「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」


 ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。








皇魔歴九千六十四年のある日。


「母さんっ! これ見て!」

「なぁに? ルーク?」


 ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
 彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。


「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」


 そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。

 邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。


(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)


 今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。

 その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。


「見ーつけたっ」

「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」

「うん」


 クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。


「ふふっ」

「? どうしたの? ユーカ?」

「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」


 もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。


「そうだったな」

「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」

「そうは見えなかったよ?」


 実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。


「ユーカ、愛してる」

「大好き。愛してるよ。ユーカ」


 同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。


「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」

「さぁ、部屋へ戻ろう」

「続きはベッドでゆっくり、ね?」


 最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。


「えっと、お、お手柔らかに?」


 深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。


(完)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

美人女子大生を放心状態にさせ最後は大満足させてあげました

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
若い女子達との素敵な実話です

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

交換した性別

廣瀬純七
ファンタジー
幼い頃に魔法で性別を交換した男女の話

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...