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第1章
第10話(1)再・三県会議
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10
「……今日はわざわざ集まってもらって恐縮だね」
とある場所の会議室のようなスペースに入ってきた水仙が告げる。
「敬礼!」
三丸が立って敬礼する。深海はやや、夜塚はだいぶ遅れてそれに倣う。
「ご苦労様……座ってちょうだい」
水仙も敬礼を返す。
「はっ……」
三丸たちが座る。水仙も三人を見渡せる席に腰を下ろす。
「さっそく本題に入りましょう。計三日間行われた各隊、二隊同士の合同訓練についての報告をお願いします」
「ふあ~あ……リモートでは駄目だったんですか~」
夜塚が欠伸交じりで尋ねる。
「お前な……」
夜塚の対面に座る三丸が睨む。水仙が苦笑する。
「忙しいのは重々承知しているつもりなのだけれど……渡したいものもあるしね……」
「渡したいもの?」
「……」
深海が首を傾げる横で、夜塚が無言で顎をさする。視線は水仙が持ってきたやや大きめなキャリーバッグに向けられる。
「それについては後でね……まずは報告とそれを受けての総括を……日付順が良いかしらね。それでは、小松での石川隊と富山隊の訓練から……」
「はい……」
「ああ、破竹、それについてはボクが説明するよ。石川県エリアのことだしね」
「あ、はい、そうですか……それでは……」
立とうとした深海が座り、代わりに夜塚が立ち上がる。モニター画面に先の訓練の様子が映し出される。夜塚は咳払いをひとつして、話し始める。
「おほん……では失礼して……星野隊員と宙山隊員による『魔法跳躍』です」
「魔法で滞空時間を伸ばす……そういうことも出来るのか」
「ええ、これによって、星野隊員の両手はフリーになり、射撃を行うことが出来ます。一瞬ではなく、ある程度の時間を……」
「それは大きなメリットだね」
「続いては星野隊員と佐々美隊員による『神力降下』です」
「遠方の相手に対しても結界を張れるんだね……深海隊長はどう思う?」
「はい。もちろん、結界云々もメリットですが、空中から支援体制を構築出来るというのがより大きなメリットだと思います」
「それは確かに……」
「続いては古前田隊員と雷電隊員による『一槍一蹴』です」
「これは……極めてシンプルな攻撃だね……三丸隊長はどう思う?」
「両隊員の性格にもよく合っていて、良いのではないでしょうか」
「ふむ、なるほど、各々の性格ね……」
水仙が笑みを浮かべる。夜塚が話を続ける。
「続いては古前田隊員と宙山隊員による『魔槍突撃』です」
「てっきり槍のリーチを伸ばすかと思ったら、彼が相手との距離を詰めるとは……」
「古前田隊員の持ち前の突進力を魔法で強化する……逆転の発想ですが、良いと思います。最後になりますが……」
「最後?」
水仙の眼鏡がキラリと光る。夜塚は頷く。
「ええ」
「……まあいい、続けて」
「はい。疾風隊員と佐々美隊員による『神力剣士』です」
「剣に火の属性以外の属性を持たせることが……?」
「出来るとのことです」
「それは興味深い……」
水仙がうんうんと頷く。
「以上になります」
「それでは、小浜での訓練についての報告を……」
「はい。ワタシから……」
三丸が立ち上がる。水仙が促す。
「お願いします……」
「まずは、宇田川花隊員、宇田川竜隊員、星野隊員による『空之双眼』です」
「彼女にカメラを付けたんだね」
「ええ、それによって、宇田川姉弟の視野が大きく広がり、索敵・分析も広範囲に渡って行えるようになりました。姉弟からの指示で速やかに攻撃にも移れます」
「さながらドローンだね……」
水仙が微笑む。
「続いては志波田隊員、星野隊員による『鬼之爆弾』です」
「自らを投下させるとは思い切ったことをやるね。深海隊長はどう思う?」
「一見無茶苦茶なやり方にも思われますが、しっかりと戦況を見極めた上で行えば、こちらの想定する以上の戦果を得ることも可能だと思われます」
「戦況の見極めね……」
水仙が顎に手を当てる。
「続いては氷刃隊員と古前田隊員による『遠投射撃』です」
「はっはっは! まさか人を投げるとは! これは一本取られた!」
水仙が自らの額を軽く打つ。
「着地がネックだね~氷刃隊員、転がっていたし……」
「いきなり投げる方も問題だと思うが……まあ、氷刃隊員に関しては受け身などの訓練もより徹底させるとしよう……」
へらへらとする夜塚を睨みつけながら三丸が淡々と呟く。
「あれ? 怒ってる?」
「怒ってない……次は宇田川花隊員、宇田川竜隊員、古前田隊員による『分析希望』……」
「分析だけして後は坊主の彼の意外性に賭けると……なかなかのギャンブルだね」
水仙が腕を組む。
「良いんじゃないですか? 正確なデータだけでギャンブルに勝てるとは限らない」
「そもそもギャンブルにしてしまうのがどうかとは思いますが……」
夜塚の言葉に深海が反応する。
「最後は志波田隊員、疾風隊員による『鬼風之刃』です」
「鬼の彼女が起こした風に乗って、斬りかかるか。面白い攻撃方法だね」
水仙がふむふむと頷く。
「……報告は以上です」
「ご苦労様、三丸隊長。それでは最後は、高岡での訓練の報告をお願い……」
「は、はい、宙山隊員、宇田川花隊員、宇田川竜隊員による『魔之分析』を行いました」
「魔法とデータ分析を組み合わせたのか。これも面白い攻撃方法だね」
深海の報告に水仙は眼鏡のフレームを触りながら頷く。
「一見すると相反するようなものですが、組み合わせてみると、様々なパターンを編み出せるのではないかと思います」
「ふむ……」
「続いては、宙山隊員、志波田隊員による『魔之鬼神』です」
「鬼を巨大化させるとは……三丸隊長はどう思った?」
「発想はシンプルですが、非常に効果的だと思います。単純に考えてみても、攻撃力が増すわけですから……決定打が欲しい局面で有効かと」
「決定打ね……」
「続いては佐々美隊員、氷刃隊員による『神如射手』です」
「銃弾を分身させるとは……なんでもありだね……」
「佐々美隊員によれば、他にも色々出来るとの話です」
「神様のお力は末恐ろしいね……」
水仙が苦笑する。
「続いては佐々美隊員、志波田隊員による『鬼神之雷』です」
「雷まで落とすとは……」
「味方が巻き込まれないようにしなければならないな……」
水仙は感嘆として、三丸が冷静に感想を述べる。
「最後に雷電隊員、宇田川花隊員、宇田川竜隊員による『人事天命』……」
「これは……?」
水仙が首を傾げる。
「宇田川姉弟の分析結果を伝え、それを踏まえて雷電隊員が実行に移します」
「そ、そういうアプローチもあるんだ……」
「そうですね」
戸惑う水仙に対し、深海が頷く。水仙が問う。
「……夜塚隊長はどう思う?」
「まあ、雷電隊員は難しいことを考えるのが苦手そうだから、彼の性には合っているんじゃないでしょうか?」
「貴様と似ているな」
「ああ、イケメン具合が?」
三丸の言葉に夜塚がおどける。
「違う、難しいことを考えるのが苦手そうな点だ」
「あ、そっち……」
「但し、貴様よりは随分と聞き分けが良さそうだがな……」
「え? 松っちゃん……」
「それについては同意です」
「ええ? 破竹まで……」
夜塚がやや呆然とする。水仙が口を開く。
「深海隊長、報告は以上?」
「は、はい……」
「そう……ではこれを渡すから、各自持ち帰って」
水仙は大きめのキャリーバッグから三つのケースを取り出す。深海が首を捻る。
「それは?」
「とりあえず間に合ったから……各隊員たちに配って、人数分あるから」
「これは……例のですか?」
「そう、例の」
三丸の問いに水仙が頷く。
「………」
「……夜塚隊長、何か?」
「……いいえ、何も」
夜塚は静かに首を左右に振って、水仙からケースを受け取る。
「……今日はわざわざ集まってもらって恐縮だね」
とある場所の会議室のようなスペースに入ってきた水仙が告げる。
「敬礼!」
三丸が立って敬礼する。深海はやや、夜塚はだいぶ遅れてそれに倣う。
「ご苦労様……座ってちょうだい」
水仙も敬礼を返す。
「はっ……」
三丸たちが座る。水仙も三人を見渡せる席に腰を下ろす。
「さっそく本題に入りましょう。計三日間行われた各隊、二隊同士の合同訓練についての報告をお願いします」
「ふあ~あ……リモートでは駄目だったんですか~」
夜塚が欠伸交じりで尋ねる。
「お前な……」
夜塚の対面に座る三丸が睨む。水仙が苦笑する。
「忙しいのは重々承知しているつもりなのだけれど……渡したいものもあるしね……」
「渡したいもの?」
「……」
深海が首を傾げる横で、夜塚が無言で顎をさする。視線は水仙が持ってきたやや大きめなキャリーバッグに向けられる。
「それについては後でね……まずは報告とそれを受けての総括を……日付順が良いかしらね。それでは、小松での石川隊と富山隊の訓練から……」
「はい……」
「ああ、破竹、それについてはボクが説明するよ。石川県エリアのことだしね」
「あ、はい、そうですか……それでは……」
立とうとした深海が座り、代わりに夜塚が立ち上がる。モニター画面に先の訓練の様子が映し出される。夜塚は咳払いをひとつして、話し始める。
「おほん……では失礼して……星野隊員と宙山隊員による『魔法跳躍』です」
「魔法で滞空時間を伸ばす……そういうことも出来るのか」
「ええ、これによって、星野隊員の両手はフリーになり、射撃を行うことが出来ます。一瞬ではなく、ある程度の時間を……」
「それは大きなメリットだね」
「続いては星野隊員と佐々美隊員による『神力降下』です」
「遠方の相手に対しても結界を張れるんだね……深海隊長はどう思う?」
「はい。もちろん、結界云々もメリットですが、空中から支援体制を構築出来るというのがより大きなメリットだと思います」
「それは確かに……」
「続いては古前田隊員と雷電隊員による『一槍一蹴』です」
「これは……極めてシンプルな攻撃だね……三丸隊長はどう思う?」
「両隊員の性格にもよく合っていて、良いのではないでしょうか」
「ふむ、なるほど、各々の性格ね……」
水仙が笑みを浮かべる。夜塚が話を続ける。
「続いては古前田隊員と宙山隊員による『魔槍突撃』です」
「てっきり槍のリーチを伸ばすかと思ったら、彼が相手との距離を詰めるとは……」
「古前田隊員の持ち前の突進力を魔法で強化する……逆転の発想ですが、良いと思います。最後になりますが……」
「最後?」
水仙の眼鏡がキラリと光る。夜塚は頷く。
「ええ」
「……まあいい、続けて」
「はい。疾風隊員と佐々美隊員による『神力剣士』です」
「剣に火の属性以外の属性を持たせることが……?」
「出来るとのことです」
「それは興味深い……」
水仙がうんうんと頷く。
「以上になります」
「それでは、小浜での訓練についての報告を……」
「はい。ワタシから……」
三丸が立ち上がる。水仙が促す。
「お願いします……」
「まずは、宇田川花隊員、宇田川竜隊員、星野隊員による『空之双眼』です」
「彼女にカメラを付けたんだね」
「ええ、それによって、宇田川姉弟の視野が大きく広がり、索敵・分析も広範囲に渡って行えるようになりました。姉弟からの指示で速やかに攻撃にも移れます」
「さながらドローンだね……」
水仙が微笑む。
「続いては志波田隊員、星野隊員による『鬼之爆弾』です」
「自らを投下させるとは思い切ったことをやるね。深海隊長はどう思う?」
「一見無茶苦茶なやり方にも思われますが、しっかりと戦況を見極めた上で行えば、こちらの想定する以上の戦果を得ることも可能だと思われます」
「戦況の見極めね……」
水仙が顎に手を当てる。
「続いては氷刃隊員と古前田隊員による『遠投射撃』です」
「はっはっは! まさか人を投げるとは! これは一本取られた!」
水仙が自らの額を軽く打つ。
「着地がネックだね~氷刃隊員、転がっていたし……」
「いきなり投げる方も問題だと思うが……まあ、氷刃隊員に関しては受け身などの訓練もより徹底させるとしよう……」
へらへらとする夜塚を睨みつけながら三丸が淡々と呟く。
「あれ? 怒ってる?」
「怒ってない……次は宇田川花隊員、宇田川竜隊員、古前田隊員による『分析希望』……」
「分析だけして後は坊主の彼の意外性に賭けると……なかなかのギャンブルだね」
水仙が腕を組む。
「良いんじゃないですか? 正確なデータだけでギャンブルに勝てるとは限らない」
「そもそもギャンブルにしてしまうのがどうかとは思いますが……」
夜塚の言葉に深海が反応する。
「最後は志波田隊員、疾風隊員による『鬼風之刃』です」
「鬼の彼女が起こした風に乗って、斬りかかるか。面白い攻撃方法だね」
水仙がふむふむと頷く。
「……報告は以上です」
「ご苦労様、三丸隊長。それでは最後は、高岡での訓練の報告をお願い……」
「は、はい、宙山隊員、宇田川花隊員、宇田川竜隊員による『魔之分析』を行いました」
「魔法とデータ分析を組み合わせたのか。これも面白い攻撃方法だね」
深海の報告に水仙は眼鏡のフレームを触りながら頷く。
「一見すると相反するようなものですが、組み合わせてみると、様々なパターンを編み出せるのではないかと思います」
「ふむ……」
「続いては、宙山隊員、志波田隊員による『魔之鬼神』です」
「鬼を巨大化させるとは……三丸隊長はどう思った?」
「発想はシンプルですが、非常に効果的だと思います。単純に考えてみても、攻撃力が増すわけですから……決定打が欲しい局面で有効かと」
「決定打ね……」
「続いては佐々美隊員、氷刃隊員による『神如射手』です」
「銃弾を分身させるとは……なんでもありだね……」
「佐々美隊員によれば、他にも色々出来るとの話です」
「神様のお力は末恐ろしいね……」
水仙が苦笑する。
「続いては佐々美隊員、志波田隊員による『鬼神之雷』です」
「雷まで落とすとは……」
「味方が巻き込まれないようにしなければならないな……」
水仙は感嘆として、三丸が冷静に感想を述べる。
「最後に雷電隊員、宇田川花隊員、宇田川竜隊員による『人事天命』……」
「これは……?」
水仙が首を傾げる。
「宇田川姉弟の分析結果を伝え、それを踏まえて雷電隊員が実行に移します」
「そ、そういうアプローチもあるんだ……」
「そうですね」
戸惑う水仙に対し、深海が頷く。水仙が問う。
「……夜塚隊長はどう思う?」
「まあ、雷電隊員は難しいことを考えるのが苦手そうだから、彼の性には合っているんじゃないでしょうか?」
「貴様と似ているな」
「ああ、イケメン具合が?」
三丸の言葉に夜塚がおどける。
「違う、難しいことを考えるのが苦手そうな点だ」
「あ、そっち……」
「但し、貴様よりは随分と聞き分けが良さそうだがな……」
「え? 松っちゃん……」
「それについては同意です」
「ええ? 破竹まで……」
夜塚がやや呆然とする。水仙が口を開く。
「深海隊長、報告は以上?」
「は、はい……」
「そう……ではこれを渡すから、各自持ち帰って」
水仙は大きめのキャリーバッグから三つのケースを取り出す。深海が首を捻る。
「それは?」
「とりあえず間に合ったから……各隊員たちに配って、人数分あるから」
「これは……例のですか?」
「そう、例の」
三丸の問いに水仙が頷く。
「………」
「……夜塚隊長、何か?」
「……いいえ、何も」
夜塚は静かに首を左右に振って、水仙からケースを受け取る。
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