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第1章

第7話(2)富山の休み

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                  ♢

「ふむ、せっかくの休みだというのに、気が合うな。宙山隊員」

「ええ……」

 葉の言葉に雪は顔をしかめて応える。

「ろ、露骨に嫌そうな顔していないか⁉」

「いやいや、違いますよ……」

 雪が右手を左右に振る。

「え?」

「嫌なんです」

「はっきりと言ったな⁉」

「すみません。嘘はつけない性分なもので……」

「何故嫌がるんだ?」

 葉が尋ねる。

「何故と言われましても……」

「せっかく同じ部隊になったのだ。しかも女子隊員同士、親睦を深めたいと思うことはさほどおかしいことではないと思うのだが?」

「そうですね、その点に関しては同意見です。しかしですね、佐々美隊員……」

「なんだ?」

 葉が首を傾げる。

「わたしはオンとオフをしっかりと分けたいタイプなのです……!」

「ふ、ふむ……確かにトレードマークのポニーテールも解いているな……」

 葉が雪の髪型を見て、頷く。

「なので、ここで佐々美隊員と顔を合わせてしまったことに正直落胆を隠しきれません!」

「そ、そこまでか⁉」

 葉が面食らう。

「というわけで……今日のところはまったく無関係の他人でお願いします」

「い、いやいやちょっと待て!」

「……」

「早速無視をするな!」

「……なんですか?」

「古臭い言い方になるが、後輩は先輩の言うことを聞くものだ」

「いつの時代の価値観ですか?」

 雪が再び顔をしかめる。

「よって、貴官は本官との……」

「その言い方、オフっぽさが削がれます……」

 雪が肩を落とす。

「あ、ああ……き、君は自分との食事に付き合わなければならない」

「強制される意味がさっぱり分かりません」

「いつもすぐ売り切れる人気のメニュー……」

「!」

「美味しいドリンク飲み放題券もある……」

「‼」

「……当基地レストラン限定の高級スイーツ……」

「⁉」

「これを先輩がおごってくれるとしたら……君はどうする?」

「ごちそうさまです!」

 雪は満面の笑みで葉を見つめる。

「ま、眩しい!」

 その笑顔の輝きに葉は思わず顔を覆った。

「佐々美隊員……いや、先輩!」

「うん?」

「一生ついていきます!」

「いや、そ、それもちょっと極端だな!」

 雪の言葉に葉は戸惑う。

「それにしてもラッキーでした」

「ラッキー?」

「先輩はご実家の神社をお手伝いにいくと聞いておりましたので……」

「ああ、人手が間に合ったようでな、だから予定が急に空いたんだ」

「そうだったんですか」

「そうだ。このままだと退屈しそうだな、せっかくのオフをグダグダ過ごすことになるなというところに、レストランに入る君を見かけたってわけだ」

「はあ……」

「だから……その……あれだ、ガールズトークをしようじゃないか?」

 葉が恥ずかしがりながら、話を切り出す。

「ガ、ガールズトークですか?」

 雪が首を傾げる。

「なんだ、君もそういうのは苦手か?」

「あまり深く関わらないようにしてきました」

「ほお……」

「ここは先輩、お手本を見せて下さい」

「お、お手本⁉」

「はい」

「……」

「………」

 雪が黙って葉を見つめる。

「…………」

「先輩、黙っていては、トークになりません」

「……石川、福井隊の気になる男子~」

「ん? 今の声は……?」

 葉が周囲を見回す。雪が葉に尋ねる。

「え? 先輩、気になる男子とかいるんですか?」

「い、いや、まあ、強いて言うなら、福井の氷刃隊員と宇田川竜隊員だな」

「え~あの二人、今ひとつ頼りにならなそうじゃないですか?」

「そうか?」

「ちょっとなよなよしているかも~」

「ま、また、この声……ただ、やる時はやるということは任務で証明してみせた。気弱な部分はある程度改善してもらいたいものだが……その辺は経験と自信を積んでいけば、自ずと解決されていくことだろう」

「ふむ……先輩はてっきり古前田隊員を選ぶものだと……」

「あんな女たらしは論外だ。大体子供のころから落ち着きがない。ゲートバスターズで任務をこなして変わっていくかと思ったが、今のところはさっぱりだな……」

「はあ……」

「君はどうなのだ?」

「疾風隊員ですね。真面目な姿勢がとても好感が持てます」

「うむ……悪くないな……天の声ならぬ、テーブル下の声はどうだ?」

「もちろんお二人も素敵ですが、星野隊員のアクティブさ、志波田隊員のサディスティックさ、宇田川花隊員のロジカルさ……簡単には選べないですね~って、ええ⁉ あ、痛っ⁉」

 テーブルに頭をぶつけた天空が出てくる。

「妙な話題を振ってくるかと思えば、貴様か……」

「話がよりスムーズに進めば良いなと思いまして……」

「女の話に聞き耳を立てていたの? 信じられない!」

「いや、ちょっと、その場の流れっていうかさ……ごめん、許して!」

 天空が雪に向かって、両手を合わせて頭を下げる。葉が口を開く。

「二人分の食事代、おごってくれるならば許そう……」

「えっ⁉ 今はちょっと持ち合わせが心もとないというか……」

「おごってくれるよな……今後石川福井勢を含めた女子陣から孤立する恐れがあるぞ……」

「是非、おごらせて下さい!」

 天空は元気よく返事する。
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