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第1章

第4話(1)サプライズ感

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「いやあ、たまにはこうして移動というのもいいものだね、そう思わないかい古前田隊員?」

「はあ……」

 夜塚の問いに慶は小さく頷く。

「車窓からの景色の変化もまた楽しみだよねえ、星野隊員?」

「は、はあ……」

 夜塚からの言葉に月は戸惑いながら答える。

「こういう何気ない時間というものを大切にしたいよねえ、疾風隊員?」

「そうですね……」

 夜塚の発言に対し、大海はいつもより低い声色で応じる。

「なんだい、なんだい? 三人ともノリが悪くないかい?」

「そうですか?」

「そうだよ、揃いも揃って」

「……そのようにお感じになられていますか?」

「ああ、そうだよ」

「それならば明確な理由があります」

「ええ? なんだい?」

「ずっと目隠しを強要されていれば、楽しむどころの話ではありません」

「あ……」

 助手席の夜塚が振り返る。大海たちが目隠しをされてじっと座っている。

「……それに加えて長時間の車での移動、不安や心配の方が強くなります」

「景色を楽しめるわけがないじゃないですか……」

「行先も不明だしな……」

 大海に月と慶も同調する。

「あ~こりゃ、失礼……」

 夜塚が自らの頭をポンと叩く。月が首を捻る。

「えっと……?」

「いやいや、目隠し取っていいって言うのを忘れていたよ。ごめんごめん、目隠し取って」

「ふう……」

 三人が目隠しを外す。

「……どこだ?」

 慶が車窓から外を眺めて呟く。

「当ててごらん♪」

「当ててごらんって……極秘任務とかじゃないんですか?」

「極秘というか任務ならば君たちにずっと目隠しをさせるのはかえって意味がない」

「意味がないって……じゃあ、これは?」

 慶は自らが着用していたアイマスクを夜塚に示す。

「いわゆる一つのサプライズ感を出したくてね」

「サプライズ感?」

「そ。演出だよ、演出」

「演出……」

「はあ……」

 慶が頬杖を、月がため息をつき、それぞれ車窓の外に目をやる。

「あ、あれ?」

 夜塚が大海に目をやる。大海はじっと黙っている。

「……」

「疾風隊員、怒っている?」

「いいえ、もとからこういう顔つきですから……」

「そ、そう……」

「ただ、多少不愉快に思ってはいます」

「やっぱり怒ってるんじゃん!」

「夜塚隊長、逆の立場ならばどうですか?」

「え? 逆?」

「ちょっと考えてみてください」

「う~ん……隊長といえど、ボコボコにしちゃうかもなあ~」

「そういうことです」

「はっ⁉」

 夜塚が気付くと、大海たち三人が夜塚を睨んでいる。夜塚が目を見開く。

「………」

「あ、今からボコボコにされる系⁉」

 夜塚が身構える。

「……私たちは隊長よりも大人なので、そんなことは致しません」

「あ、そう……」

 夜塚が胸をなでおろす。慶が顔をしかめる。

「白々しいな、負ける気なんてしない癖に……」

「いやいや、さすがのボクも三対一は骨が折れるよ~」

「それでも負ける気はしないってことじゃないですか……」

 月がジト目で見つめる。

「まあ、君たちは良いモノを持っているとは思うけど、まだまだ発展途上だからね~」

 夜塚が両手を大げさに広げる。

「ぐっ……」

「ちっ、ストレートにムカつくな……」

 大海が唇を噛み、慶が舌打ちする。月が俯きがちにボソッと呟く。

「……梅太郎、ムカつく」

「んん? 今なんか言った、星野隊員?」

 月が顔を上げて口を開く。

「梅太郎、ムカつく、と言いました」

「そんなにはっきり梅太郎って言うなよお! やんのか、小僧ども!」

 夜塚が激昂する。運転席の男性が声をかける。

「よ、夜塚隊長!」

「なんだい⁉ 今、それどころじゃないんだ!」

「それどころです!」

「ああん⁉」

「まもなく目的地に着きます!」

「ああ、そう……」

 夜塚が一瞬にして落ち着く。

「な、なんなんだ……」

 大海が戸惑う。

「……それじゃあ、降りようか♪」

 夜塚が笑顔で呼びかけ、大海たちが車を降りる。

「ここは……山?」

「良い空気だろう?」

 夜塚が伸びをしながら大海に尋ねる。

「そ、そうですね……」

「こ、ここは……?」

「立山だな」

 月の問いに慶が答える。月が驚く。

「立山⁉ 富山県じゃないですか?」

「古前田隊員、よく気が付いたね♪」

「以前ここらで山ごもりの修行をしたことがありますので……」

「なるほど……」

「っていうのは半分冗談ですよ。看板など見ていれば気が付きます」

「ああ、車の窓も覆っておくべきだったかな?」

「勘弁してくださいよ……」

「それで、富山の山中まで来て何を?」

「疾風隊員、良い質問だ、これから合同訓練を行う」

「「「えっ⁉」」」

 夜塚の唐突な言葉に三人が驚く。
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