上 下
9 / 50
第1章

第2話(4)雷電の如き肉弾、そして……

しおりを挟む
「お願いします」

「はい!」

 天空が海に向かって走り出す。

「ブオオッ!」

「おりゃっ!」

「!」

「うりゃっ!」

「‼」

「どりゃっ!」

「⁉」

 天空が向かってきた漁船を派手に蹴り飛ばす。漁船は次々と転覆する。

「僕の拳はどうだ!」

「パンチじゃなくてどう見てもキックだったかと思うのですが……なるほど、恐るべき近接戦闘能力ですね……」

 胸を張る天空の背中を深海が感心しながら見つめる。

「はあ……」

 天空がため息をつく。

「ブオオオッ!」

「おっ、まだ来るか⁉」

 壁に空いた穴を突破した漁船が何隻か突っ込んでくる。

「えいっ!」

「ブオッ!」

「ていっ!」

「ブオッ‼」

「せいっ!」

「ブオッ⁉」

 天空が再び向かってきた漁船を豪快に殴り飛ばす。漁船は次々と転覆する。

「僕の蹴りはどうだ!」

「ふむ、興奮しているのか、パンチとキックを取り違えているのがやや気になるところですが……漁船が転覆して浮いた魚のようになっている……まさに雷電の如き肉弾……」

 深海が再び感心する。

「はあ、はあ、はあ……」

「とはいえ、彼にだけ頼り過ぎるのは危険ですね……」

 肩で息をする天空を見て、深海が頷く。

「ブオッ!」

「む……」

 止まっていた漁船が徐々に動き始める。

「くっ、すみません、深海隊長……これ以上制止させ続けることは出来ません」

 両手をかざしていた雪が苦しそうに口を開く。

「ふむ、広範囲ですからね……それでは……」

「本官にお任せ下さい!」

 葉が声を上げる。

「……お願いします、佐々美隊員」

「はい! 掛けまくも畏き……恐み恐み申す……!」

「ブオオッ⁉」

 海が荒れ、波が起こり、漁船がそれに巻き込まれていく。

「ほう、そういうことも可能なのですか……」

「海の神様にお願い申し上げました……」

 深海の呟きに葉が反応する。

「ブオッ!」

「ブオッ! ブオッ!」

「……なんでしょうか?」

 葉が首を傾げる。

「……悪機同士で呼びかけ合っている?」

「な、何をですか?」

 深海の言葉に雪が戸惑う。

「それはもうすぐ分かると思います……!」

「ブオオオッ‼」

 漁船同士が接近し、黒い光に包まれたかと思うと、一隻の巨大なタンカー船に変貌した。

「なっ⁉」

「が、合体した⁉」

 葉と雪が驚く。深海も目を丸くする。

「これは……珍しいパターンですね……ん?」

 深海の下に通信が入る。

「深海隊長、危険度の上昇を確認しました」

「いくつですか?」

「Aです」

「一気に跳ね上がりましたね……分かりました」

 深海が通信を切る。

「ブオオオオッ‼」

「弱い奴ほどなんとやらってね! かかってこいや!」

「まあ、少し落ち着きなさい……」

「うおっ⁉ た、隊長、いつの間にここまで……」

 自分の軍服の襟を引っ張られた天空が戸惑う。

「君はアドレナリンが出過ぎですね……戦いをどこか楽しんでいるような……」

「興奮しているのは否定できませんが、このにやけ顔は元からです」

「まあ、戦いを恐れ過ぎるのも問題なので、それはそれで良いと思いますが……」

 深海がゆっくりと前に進み出る。天空が慌てる。

「た、隊長! 丸腰では危険です!」

「君にそんなことを言われるとは……」

 深海が思わず苦笑する。

「い、いえ、しかし……」

「戦場には似つかわしくありませんか?」

 深海が自身の白衣の襟を引っ張ってみせる。

「ま、まあ、正直……」

 天空が遠慮がちに頷く。

「ご心配なく。オレはここで戦うので……」

 深海が自らの側頭部を右手の人差し指でトントンと叩く。天空が首を傾げる。

「頭脳……?」

「そうです。ただし……」

「ブオオッ‼」

 タンカー船が深海に迫る。

「た、隊長!」

 深海が端末を取り出し、手際よく操作する。

「……『電脳』でね」

「ブオオオオッ⁉ ……」

 タンカー船が進撃を止める。深海が頷く。

「沈黙を確認……」

「ど、どうやったの? ハッキングとか?」

「宙山隊員、察しが良いですね。そんな感じです。悪機の機体内にアクセスしました」

「そ、そんなことが……」

「出来てしまうんですね、これが……指令部?」

「確認しました。悪機の回収などの事後処理はお任せ下さい」

「お願いします……さて、三人とも良くやってくれました……」

「……ふっ、結局は隊長に頼ってしまいました」

 天空が苦笑する。

「いえ、こちらも大いに助かりましたよ……反省は後で。さあ、帰投しましょう」

 深海が笑顔で三人に声をかける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

機動幻想戦機

神無月ナデシコ
SF
リストニア大陸に位置する超大国ヴァルキューレ帝国は人型強襲兵器HARBT(ハービット)の製造に成功し勢力を拡大他国の領土を侵略していった。各国はレジスタンス組織を結成し対抗するも軍事力の差に圧倒され次々と壊滅状態にされていった。 これはその戦火の中で戦う戦士達と友情と愛、そして苦悩と決断の物語である。 神無月ナデシコ新シリーズ始動、美しき戦士達が戦場を駆ける。

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

【第1章完】ゲツアサ!~インディーズ戦隊、メジャーへの道~

阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
 『戦隊ヒーロー飽和時代』、滋賀県生まれの天津凛は京都への短大進学をきっかけに、高校時代出来なかった挑戦を始めようと考えていた。  しかし、その挑戦はいきなり出鼻をくじかれ……そんな中、彼女は新たな道を見つける。  その道はライバルは多く、抜きんでるのは簡単なことではない。それでも彼女は仲間たちとともに、メジャーデビューを目指す、『戦隊ヒーロー』として!

電脳世界のクリミナル

加藤彰
SF
 少し未来の話。  その時代は『電脳世界』という新たな世界が作られていて、インターネット上に生活空間が広がっており、その世界は全世界と繋がっていてグローバルな社会を形成し、情報が飛び交い、便利な機能も、楽しい娯楽もある。  しかし、そんな光の面があれば、闇の面もあるものだ。  サイバー空間ならではの犯罪が起こった。  時にはネットマネーを強奪する者がいたり、個人情報を盗み取る輩がいたり、時には違法なプログラムを使って人を傷付ける行為が行われていた。  いくら強固なセキュリティがあっても完全に犯罪を根絶やしにすることはできない。  そんな世界で生きるくせ毛の男子高校生、榊原結城は大人気アイドルの握手会に参加することになるが、そこでも当たり前の様に犯罪が起こった。  この世界を脅かす奴を許せない彼は、今日も犯罪者と戦う。  電脳世界を舞台にサイバーバトルがいま幕を開ける! 『電脳世界のクリミナル』 一人のアイドルの周りで起きる様々な事件のお話。 『電脳世界のオーグメント』 大人気ゲーム、VRMMORPGの『ガンソード・オーグメント』から始まる事件のお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ホワイト・クリスマス

空川億里
SF
 未来の東京。八鍬伊織(やくわ いおり)はサンタの格好をするバイトに従事していたのだが……。

処理中です...