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第1章
第2話(1)かわいがり
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「~~♪」
軍服を着た金髪を丁寧にセットした少年が楽しげに鼻歌を歌いながら、ゲートバスターズ日本支部富山管区の基地の構内を歩いている。両手ともポケットに突っ込んで歩いており、お世辞にもお行儀が良いとは言えない。少年はとある施設の入口前に立つ。警備に当たっていた者が尋ねる。
「なんだ?」
「合同訓練で来ました♪」
「? そんな予定は聞いていないが?」
「そうなんですか?」
「ああ」
「う~ん、急遽決まったからかな……?」
「第三部隊から貴様だけというのも妙な話だな……」
「あれでしょ、要は」
「あれだと?」
警備の者が首を傾げる。
「かわいがりですよ、かわいがり……」
少年が笑顔を浮かべ、ものを撫でるような手つきをする。
「ああ、そういうことか……」
「そういうことです」
「貴様、配属以来なにかと第一部隊の連中に目を付けられているな……」
警備の者が気の毒そうな視線を向ける。
「もう慣れました♪」
「慣れたって……上に相談するべきなのではないか?」
「いやいや、そこまでのことではありません」
少年が右手を左右に振る。
「むう……」
「入ってもよろしいですか?」
「……所属と氏名を」
「え~それいちいち言わないとダメですか?」
「決まりだからな」
「う~ん……」
「早くしろ」
「はいはい……富山管区第三部隊所属、雷電天空(らいでんてんくう)です♪」
少年は敬礼しつつ、自らの氏名を名乗る。
「……確認した。入っていいぞ」
「は~い♪」
天空と名乗った少年は施設の中に入る。
「……どうにもチャラい奴だからな、ついに第一部隊の古株連中からも呼び出されてしまったか……軽傷で済めばいいがな」
警備の者が天空の背中を見つめながら、淡々と呟く。それから十数分後……。
「ど~も~♪」
「なっ⁉」
特に怪我をした様子のない天空が戻ってきたのを見て、警備の者が驚く。
「なんですか、その驚きよう……」
「い、いや、随分と早かったな……」
「ああ、まあ、そうですね……」
「あれか? 単なるお説教で済んだのか?」
「……まあ、そんなところです」
「それは運が良かったな。だが、お前さんもそろそろその態度を改めた方が良いぞ?」
「え?」
「チャラチャラしているから、こうして呼び出されるんだ」
「そんなつもりはないんですけどね~」
天空が後頭部をポリポリと掻く。
「つもりは無くてもそういう風に見えるんだよ」
「まあ、一応気をつけます」
「一応って……」
「人ってそんなに簡単には変わらないものですよ、僕は僕です」
「それはそうかもしれんが……」
「それじゃ、お疲れ様で~す♪」
天空が右手をかざしながら、その場を去る。警備の者がため息をつく。
「一度痛い目を見ないと、分からないか、ああいうタイプは……第一部隊の方々、遅いな? シャワーでも浴びているのか? ……⁉」
警備の者が何気なく道場の方を覗きになってみると、そこには血まみれになった男が数人、畳の上に転がっていた。警備の者が驚く。
「くっ……」
警備の者が慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか⁉ 一体何が⁉」
「あ、あの野郎……」
「えっ⁉ まさか雷電が……だ、第二部隊の者を呼びます!」
警備の者が端末を取り出し、連絡を取る。
「天空!」
ポニーテールの髪型をした少女が前方を歩いていた天空を呼び止める。
「なに?」
天空は首だけ振り返って問う。
「なに? じゃないわよ、第一部隊の人たちと揉めたでしょ!」
「あ、バレた?」
天空はペロっと舌を出す。
「バレるわよ! わたしも駆り出されたんだから!」
「そりゃあ、どうもご苦労様でした」
天空は少女に向き直り、頭を下げる。少女は額を抑えながら、呆れ気味に呟く。
「まったく……なんてことをしたのよ」
「ただ楽しく遊んだだけだって……」
「楽しそうに遊んだ後とは思えない光景だったけどね」
「僕は楽しかったけどね♪」
「あれはいくらなんでもやりすぎでしょ」
「だって、遠慮するな、本気で来いっていうからさ……」
「それにしたって……」
「おい!」
「!」
天空と少女に対し、小柄な女性が声をかけてくる。軍服ではなく、袴姿である。天空は頭を軽く下げる。
「ああ、どうもです、巫女パイセン……」
「巫女ではない、神職、いわゆる神主だ」
「同じようなものでしょ」
「全然違う。袴を見ろ、巫女の袴は赤だ」
女性が袴を指し示す。浅葱色である。
「は~そうなんですか……」
「そんなことはどうでもいい……宙山雪(そらやまゆき)隊員」
「は、はい!」
小柄な女性よりは背の高い――平均より少し大きいくらいだが――雪と呼ばれた少女が体勢をビシっとさせる。小柄な女子は笑顔を浮かべる。
「第一部隊の隊員に対する貴官の迅速な処置、感謝する」
「い、いえ……」
「問題は貴様だ、雷電天空隊員……」
小柄な女性が笑顔から一転、厳しい表情で天空を見上げる。
「~~♪」
軍服を着た金髪を丁寧にセットした少年が楽しげに鼻歌を歌いながら、ゲートバスターズ日本支部富山管区の基地の構内を歩いている。両手ともポケットに突っ込んで歩いており、お世辞にもお行儀が良いとは言えない。少年はとある施設の入口前に立つ。警備に当たっていた者が尋ねる。
「なんだ?」
「合同訓練で来ました♪」
「? そんな予定は聞いていないが?」
「そうなんですか?」
「ああ」
「う~ん、急遽決まったからかな……?」
「第三部隊から貴様だけというのも妙な話だな……」
「あれでしょ、要は」
「あれだと?」
警備の者が首を傾げる。
「かわいがりですよ、かわいがり……」
少年が笑顔を浮かべ、ものを撫でるような手つきをする。
「ああ、そういうことか……」
「そういうことです」
「貴様、配属以来なにかと第一部隊の連中に目を付けられているな……」
警備の者が気の毒そうな視線を向ける。
「もう慣れました♪」
「慣れたって……上に相談するべきなのではないか?」
「いやいや、そこまでのことではありません」
少年が右手を左右に振る。
「むう……」
「入ってもよろしいですか?」
「……所属と氏名を」
「え~それいちいち言わないとダメですか?」
「決まりだからな」
「う~ん……」
「早くしろ」
「はいはい……富山管区第三部隊所属、雷電天空(らいでんてんくう)です♪」
少年は敬礼しつつ、自らの氏名を名乗る。
「……確認した。入っていいぞ」
「は~い♪」
天空と名乗った少年は施設の中に入る。
「……どうにもチャラい奴だからな、ついに第一部隊の古株連中からも呼び出されてしまったか……軽傷で済めばいいがな」
警備の者が天空の背中を見つめながら、淡々と呟く。それから十数分後……。
「ど~も~♪」
「なっ⁉」
特に怪我をした様子のない天空が戻ってきたのを見て、警備の者が驚く。
「なんですか、その驚きよう……」
「い、いや、随分と早かったな……」
「ああ、まあ、そうですね……」
「あれか? 単なるお説教で済んだのか?」
「……まあ、そんなところです」
「それは運が良かったな。だが、お前さんもそろそろその態度を改めた方が良いぞ?」
「え?」
「チャラチャラしているから、こうして呼び出されるんだ」
「そんなつもりはないんですけどね~」
天空が後頭部をポリポリと掻く。
「つもりは無くてもそういう風に見えるんだよ」
「まあ、一応気をつけます」
「一応って……」
「人ってそんなに簡単には変わらないものですよ、僕は僕です」
「それはそうかもしれんが……」
「それじゃ、お疲れ様で~す♪」
天空が右手をかざしながら、その場を去る。警備の者がため息をつく。
「一度痛い目を見ないと、分からないか、ああいうタイプは……第一部隊の方々、遅いな? シャワーでも浴びているのか? ……⁉」
警備の者が何気なく道場の方を覗きになってみると、そこには血まみれになった男が数人、畳の上に転がっていた。警備の者が驚く。
「くっ……」
警備の者が慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか⁉ 一体何が⁉」
「あ、あの野郎……」
「えっ⁉ まさか雷電が……だ、第二部隊の者を呼びます!」
警備の者が端末を取り出し、連絡を取る。
「天空!」
ポニーテールの髪型をした少女が前方を歩いていた天空を呼び止める。
「なに?」
天空は首だけ振り返って問う。
「なに? じゃないわよ、第一部隊の人たちと揉めたでしょ!」
「あ、バレた?」
天空はペロっと舌を出す。
「バレるわよ! わたしも駆り出されたんだから!」
「そりゃあ、どうもご苦労様でした」
天空は少女に向き直り、頭を下げる。少女は額を抑えながら、呆れ気味に呟く。
「まったく……なんてことをしたのよ」
「ただ楽しく遊んだだけだって……」
「楽しそうに遊んだ後とは思えない光景だったけどね」
「僕は楽しかったけどね♪」
「あれはいくらなんでもやりすぎでしょ」
「だって、遠慮するな、本気で来いっていうからさ……」
「それにしたって……」
「おい!」
「!」
天空と少女に対し、小柄な女性が声をかけてくる。軍服ではなく、袴姿である。天空は頭を軽く下げる。
「ああ、どうもです、巫女パイセン……」
「巫女ではない、神職、いわゆる神主だ」
「同じようなものでしょ」
「全然違う。袴を見ろ、巫女の袴は赤だ」
女性が袴を指し示す。浅葱色である。
「は~そうなんですか……」
「そんなことはどうでもいい……宙山雪(そらやまゆき)隊員」
「は、はい!」
小柄な女性よりは背の高い――平均より少し大きいくらいだが――雪と呼ばれた少女が体勢をビシっとさせる。小柄な女子は笑顔を浮かべる。
「第一部隊の隊員に対する貴官の迅速な処置、感謝する」
「い、いえ……」
「問題は貴様だ、雷電天空隊員……」
小柄な女性が笑顔から一転、厳しい表情で天空を見上げる。
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