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第1章

第7話(4)十一人目

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「あ、ああ……」

 遠ざかっていく青年の後ろ姿にイオナが手を伸ばす。

「フラれたな」

 リュートが声をかける。

「……」

 イオナがじっとリュートを見つめる。

「なんだ?」

「知っていたんですね?」

「何をだ?」

「彼が転生者っていうことを……」

「知っていたというか……察した」

「察した?」

「近隣の街ではまったく知られていないというのに、この街へ急に現れたなどという話を聞いたら、自然と察するさ……」

「ああ……」

「さて、行こうぜ」

「え? どこに?」

「冒険者ギルドであらためて情報収集したらどうだ?」

 リュートが冒険者ギルドを指し示す。

「ど、どういうことですか?」

 イオナが首を傾げる。

「……他を当たった方がいいってことだよ」

「……彼を諦めろと?」

「そうだ」

「どうして⁉ 紛れもない逸材ですよ⁉」

 イオナが声を上げる。リュートが後頭部をポリポリと搔きながら答える。

「……チートスキル持ちの転生者というのは扱いが難しいんだよ」

「戦力アップに繋がりますよ!」

「そう上手いことはいかないもんだ……」

 リュートが首を左右に振る。

「いえ、彼をスカウトします!」

「やめといた方がいい……」

「したいです!」

「したいって……願望を口にされてもな……」

「お願いします!」

 イオナが頭を下げる。

「頭を下げられたって困る……」

「任せようっておっしゃったじゃないですか⁉」

「まあ、そうは言ったが……」

 リュートが顎をさする。

「私の気の済むようにやらせてもらいます!」

 イオナはそう言って歩き出す。

「おいおい……ん? これは……ひょっとすると、ひょっとするかもしれんな……」

 リュートは捨てられていたチラシを見て頷き、イオナの後についていく。

「勇者さまのパーティーに参加すれば、かなりの報酬をもらえますよ!」

「あいにく金には困っていない……」

 カフェテラスでお茶を飲んでいた青年にイオナが声をかけるが、青年は首を振る。

「そうですか! また来ます!」

「え?」

 その後しばらくして……。

「……勇者さまのパーティーで功績を挙げれば、この上ない名声を得られますよ!」

「名声など興味ない……」

 レストランで食事をしていた青年にイオナが再び声をかけるが、青年はまたも首を振る。

「ふむ、そうですか! また来ます!」

「は?」

 その後しばらくして……。

「勇者さまのパーティーに……」

「しつこいな! 何度来ても同じだ! 三顧の礼のつもりか⁉」

 酒場で酒を飲んでいた青年が怒る。

「サンコン?」

 イオナが首を捻る。

「い、いや、なんでもない……とにかく興味がないと言っただろう?」

「パーティーメンバーは女の子が一杯いますよ!」

「……興味ない」

「あれ? 今一瞬間が空きましたよね?」

 イオナが笑みを浮かべる。

「……興味がないと言ったら興味がないんだ! 店主、金は置いてく! 釣りはいらん!」

 青年は酒場を出ていく。

「もう一押しかな?」

 イオナがその後に続く。リュートもその後をついていく。

「まったく……ん?」

 広場の脇を通りかかった青年が、広場に目をやる。

「さあさあ! お次はこの娘だ! 特技はないが、よく働くよ!」

 燕尾服を着て、シルクハットを被った男が舞台の上から声をかける。男の手には鎖が握られている。鎖の先には首輪をした緑色でボサボサとした髪の女の子が死んだ目をして立っている。両腕には手錠がかけられ、細い両足も足鎖で拘束され、鉄の球が繋がれている。

「へっ、まだガキじゃねえか。まあ、居ねえよりはマシか……銀貨五枚出すぜ!」

「俺は十枚だ!」

「二十枚!」

「こ、これは……」

 イオナが目の前の光景に愕然とする。

「この辺は奴隷制度がまだ残っているからな……」

「そ、そんな……」

 リュートの言葉にイオナが啞然とする。青年が舞台に近づき声をかける。

「……金貨百枚だ」

「‼」

「ほら、文句ないだろう」

 青年が舞台上に金貨の入った袋を投げつける。

「お、お兄さんに売った!」

 女の子が青年の前に押し出される。まだ鎖はついたままである。

「ふん……」

「⁉」

 青年が手をかざすと、鎖が壊れ、汚れていた女の子の顔や髪も綺麗になる。青年はそれを見て、一瞬考えるが、そっぽを向いてそっけなく告げる。

「これでお前は自由の身だ。好きにしろ……」

「それではお言葉に甘えて……」

「ん⁉」

「リュートさん⁉」

 リュートが進み出てきて、青年とイオナが面食らう。

「お嬢ちゃん、お名前は?」

「……オッカ」

「そうか、オッカちゃん。変化は出来るね? 美味しいご飯を食べさせてあげるし、綺麗な服も買ってあげるから、ちょっとやってみてもらえないかな?」

「……分かった」

「なっ⁉」

 オッカと名乗った女の子が大きなドラゴンに変化する。青年とイオナが驚く。

「ああ、戻っていいよ」

「………」

 オッカが元の姿に戻る。青年がリュートに尋ねる。

「こ、これは……どういうことだ?」

「彼女は竜人族の生き残りだ」

「りゅ、竜人族だと?」

「リュートさん、知っていたんですか?」

「こういう髪色をした種族は限られているからな。拾ったチラシに書かれていた特徴を見てすぐにピンときたよ」

 リュートがイオナの問いに答える。

「…………」

「オッカちゃん、勇者のパーティーメンバーに加わらないか? 美味しいご飯は食べ放題だし、綺麗な服だって選り取り見取りだ」

「パーティーメンバー……戦うの?」

「他にも強力な仲間がいる。君だけに押し付けるようなことは決してない」

「……分かった」

 オッカが頷く。リュートが笑みを浮かべながら頷く。

「良かった。詳しい話は食事でもしながら……ああ、イオナ君、浴場に連れて行ってくれ」

「ちょ、ちょっと待て!」

「うん?」

 リュートが青年の方に振り返る。

「か、買ったのは俺だぞ⁉」

「好きにしろと言っただろう? 後の選択は彼女の自由だ」

「むっ……」

「竜人を手放すとは、転生者さまは随分と余裕だな。よく見れば整った容姿だし……しかも彼女らは成長が早いというのに……すぐに立派なレディになるだろうね……」

「くっ……な、なんでだ! 今世ではやりたいようにやってやろうと思ったのに!」

 青年が地団駄を踏む。

「……今世ではベストを尽くすとか言っていたな?」

「え……?」

「前世でベストを尽くせなかったやつが、どうやって今世でベストを尽くせる?」

「なっ……」

「どうせ同じことの繰り返し。成功体験が無いどころか努力の方法も知らないんだからな」

「チ、チートスキルがある!」

「……そうやって調子に乗って足元をすくわれてきたやつを何人も見てきたよ」

「ぐっ……」

「まあ、せいぜい頑張れ……どこの世界もそう甘くはないと思うがな……」

 リュートは背中越しに手をひらひらと振って、オッカを連れてその場を去る。
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