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第1章

第3話(3)ギルドを観察

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「着きました……」

「あ、ありがとうございます。代金はこちらです……」

「どうも……」

 代金を受け取った御者は馬車からリュートたちを下ろしてその場から去る。

「ここが目的地の村ですが……」

「ああ……」

 リュートは周囲をゆっくりと見回した後、歩き出す。

「目当ては何なのですか?」

 横を歩くイオナが尋ねる。リュートは笑みを浮かべながら問い返す。

「当ててみたらどうだい?」

「い、いや、そんなことを言われても……」

 リュートからの無茶ぶりにイオナが戸惑う。

「魔法学院の入学試験やら、剣術大会やら、俺の行く先を当ててきたじゃないか」

「そ、それはそうですが……」

「あれかい? 単なるヤマ勘だったのか?」

「ち、違います!」

 イオナが首をぶんぶんと左右に振る。

「それじゃあ、きちんとした考えがあったわけだ」

「ええ、一応ですが……」

「そのお考えを伺いたいね」

「今回のパーティーメンバーは勇者の方からのご依頼ですよね?」

「ああ、小太りのな」

 リュートが頷く。

「それでまずは何よりも魔法使いをメンバーに加えたいだろうなと……」

「何故?」

「やはり魔法が得意な方を優先して確保しないと、冒険というものは立ちゆきません」

「そう考えるか」

「ええ、攻撃面でも回復面でもパーティーに貢献することが出来ますし……」

「ほう……」

「魔法使いの方を確保出来れば、次は剣士かと……」

「どうしてそう思った?」

「魔法使いの方は、基本的には中衛か後衛というのがほとんどですから……前衛の充実を図るのは必然かと……」

「へえ……」

「……こういう考えです。いかがでしょうか?」

「まあ、概ね当たっているよ……」

「そ、そうですか……!」

 リュートの答えにイオナは胸をホッとなで下ろす。

「それでは、この村に来た理由も分かるだろう?」

「い、いや、それは……」

 イオナが首を傾げる。

「考え方のアプローチは間違ってはいないと思うぜ」

「え……?」

「まあいい。飯でも食おう」

 リュートは飯屋に入る。イオナもそれに続く。

「……ごちそうさまでした」

「……奢りじゃないぞ」

「分かっていますよ! 挨拶をしただけです」

「なかなか美味かったな」

「そうですね」

「正直あんまり期待してなかったんだが……」

 リュートが店の中を見回しながら呟く。

「ちょ、ちょっと、リュートさん……」

「案外こういうちょっと汚い店が美味かったりするんだよな」

「ふ、雰囲気があると言って下さい!」

 リュートの発言にイオナが慌てる。

「褒めたつもりだったんだが……」

「褒め言葉になってないですよ……はあ……」

 イオナがため息をつく。

「それで?」

「え?」

「答えは分かったかい?」

「い、いえ、それが全然……」

 リュートの問いにイオナは首を振る。

「なんだよ、分からないのか?」

「いや、雲を掴むような話ですよ……」

「そこまで大げさな話じゃないだろう」

「しかし……」

「もうちょっと周囲を観察しろ」

「観察?」

「ああ、そうすることによって、意外な発見が得られるものだぜ」

「リュートさんは意外な発見をされたのですか?」

「ああ」

「ど、どんな発見ですか⁉ というか、どうやって⁉」

「俺がただ単に村をウロウロしていただけだと思ったか?」

「ただ単に村をウロウロしていただけだと思っていました」

「あのな……」

 リュートが軽く額を抑える。

「違うのですか?」

「違う。村の様子を観察していたのさ」

「村の様子?」

「そうだ」

「それで何か分かったのですか?」

「色々と分かったね」

「ほ、本当ですか?」

 イオナが目を丸くする。

「まあ、厳密に言えば、都会で前情報は仕入れてきたから、その確認のようなものだがね」

「確認……」

「じゃあ行くぞ」

 リュートは支払いを済ませ、店を出て、近くの大きな建物に向かう。

「こ、ここは……冒険者ギルド?」

「そうだ、入るぞ」

 リュートたちはギルドの建物に入る。武器を持った人間でごった返している。

「意外と人が多いですね……何故でしょうか?」

「何故だと思う?」

「ええ……?」

「御者の言葉を思い返してみろ」

「……ああ! 山に質の悪いモンスターたちが住み着いているって言っていた! この方々はそのモンスターたちを討伐するために集まった冒険者の方たち!」

「そういうことだ」

 リュートが頷く。

「……分かりましたよ」

「うん?」

 リュートが首を傾げる。

「ここで名うての冒険者をヘッドハンティングするんですね!」

「いいや」

「えっ⁉」

 リュートの答えにイオナが驚く。

「名うての冒険者っていうのは、底知れないオーラを発しているものだ。ところがどうだい、ここにそんな奴は一人もいないだろう。揃いも揃ってぼんくらだらけだ」

「リュ、リュートさん! 聞こえますよ⁉」

「聞こえても一向に構わないがね……」

 リュートは窓際の席に腰かける。イオナが首を捻る。

「ど、どうしたんですか?」

「さっきも言っただろう? 観察だよ」

「え……!」

 ドアが勢いよく開かれる。

「仲間がモンスターにやられた! 治療してくれ!」

「こっちもだ!」

「こっちが先だ!」

 負傷者が次々と担ぎ込まれてくる。黄緑色でおさげ髪の少女が建物の奥から出てくる。

「はいはい、慌てないで下さい~。この傷は……キラーゴブリンにやられたものですね。では、この薬を……。こちらの方は、リトルオークにやられたのですね、では、この薬を……。今来た方は……アンブレラバットにやられたのですね。それではこの薬を……」

 少女が手際よく薬を処方していく。

「……い、痛くない! な、治ったぞ!」

「ありがとう、君は命の恩人だ!」

「いやいや、そんな大げさですよ……」

「なにかお礼をさせてくれないか!」

「お礼は良いですから、薬代をお願いします~こちら請求書になります~」

 少女が紙を見せる。

「ああ、お安い御用だ! ……け、結構高いな」

「原料費も馬鹿になりませんし……支払えないというならそれぞれのギルドに報告させてもらいますが……規約違反で、冒険者登録を解除されてしまうかもしれませんね~?」

「い、いや、払うよ!」

「毎度~それじゃあ、アタシはこの辺で……」

「ああ、君、ちょっと待ってくれ」

 リュートが建物を出ようとした少女に声をかける。

「はい~?」

「見事な薬の調合だね」

「いえ、それほどでも……」

「薬を調合した大賢者のお師匠さんは元気かい?」

「! な、なぜ、それを……」

 リュートの言葉に少女が戸惑う。
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