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第1章
第1話(4)二人目
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「ええっ⁉」
「なんで君まで声を上げるんだ、イオナくん……」
リュートがうっとおしそうに耳を抑える。
「か、彼じゃないんですか⁉」
イオナが黒い髪の少年を指し示す。
「なんでそうなる……」
「い、いや、な?って言っていたじゃないですか⁉」
「ああ……」
「あれはすごい魔力だろう?ってことじゃないんですか?」
「確かに魔力には感心したよ」
「そ、そうでしょう?」
「将来的にまでとは言わず、今すぐにでも活躍出来そうではあるな……この魔法学院で学ぶことなど正直ほとんどないだろう」
「そ、それなら……!」
「但し……」
「た、但し?」
「比較対象のレベルがほとんど低い……絶望的なまでにな」
「な、なんてことを……!」
「事実を述べているまでだ」
「す、少しはオブラートに……!」
「あいにくそういうのは出来ない性質でね」
「聞き捨てならんな、貴様!」
金髪の少年が激昂し、前に進み出てくる。リュートが軽く頭を下げる。
「気に障ったのなら申し訳ない。おっさんの戯言だと思って聞き流してくれ」
「なにを……」
「大体においてだね、イオナくん」
「は、はい」
「的に当てることも出来ない魔法使いが役に立つと思うかい?」
「そ、それは……」
「的が動いていたんだぞ⁉ しょうがないだろう!」
金髪の少年が再び声を上げる。
「はあ……」
リュートはため息をつく。
「な、なんだ、その露骨なまでのため息は⁉」
「心底呆れているのだよ……」
「な、なんだと⁉」
「いいかい? 例えば戦場において、全く不動のモンスターなどいるのか?」
「む……」
「お行儀よく待ってくれる相手などどこにいる?」
「た、例えば、動きを限定する魔法をかけるとか……」
金髪の少年が答える。
「なるほと、魔法の重ね掛けだな。しかし、魔力の消費がどうしても激しくなる。ここぞという時に魔力が尽きてしまえばどうにもならん」
「う……」
「効率が悪すぎる。一種の魔法で仕留められるなら、出来る限りそうすべきだ」
「むう……」
「的が多少動いたからと言って、狙いを外す魔法使いに用はない。運良く高名なパーティーメンバーに入れたとしても雑用係が精々だろう」
「ざ、雑用だと!」
「ああ、君の場合は心配ないだろう」
「なに?」
「お父上のコネで宮廷魔法使いにでもなれるのではないか? 末席を汚すようなものだが」
「き、貴様……! う、うわっ!」
金髪の少年が殴りかかるが、リュートが難なくかわしたため、少年は転ぶ。
「話が逸れたな……」
「し、しかしですね、リュートさん……!」
「うん?」
「それならやはり彼ではないのですか?」
イオナがあらためて黒髪の少年を指し示す。リュートが首をすくめる。
「ああ、むしろ彼の方が問題外だ」
「ええっ!」
「……聞き捨てならないな」
黒髪の少年がムッとしながら口を開く。リュートが苦笑する。
「おおっ、珍しく感情を露にしたな」
「俺は的を破壊したぞ?」
「ああ、見ていたよ」
「それなのに問題外だと?」
「ああ、そうだ」
リュートが頷く。イオナが問う。
「どういうことですか?」
「彼は試験場の壁まで破壊していただろう?」
「は、はい! すごい魔力でした!」
「それが問題だ」
「え……?」
「魔力をロクにコントロール出来ない魔法使いなど危なかっしくてしょうがない。射線上にいたら何もかもぶっ飛ばしてしまうのか?」
「そ、それは……」
「パーティーメンバーに必要なのは、魔法をしかるべきタイミングで、適切な魔力量でもって、正確に用いることの出来る魔法使いだ。規格外と言えば聞こえが良いかもしれないが、連携行動の取れない魔法使いなどこちらから願い下げだ」
「なっ……」
黒髪の少年が黙り込む。
「そういうわけで……ベルガさん、貴女が良いと思いました」
リュートがベルガに視線を向ける。
「わ、私ですか……?」
「貴女が試験の内容も変更したのでしょう?」
「え、ええ……」
「それは何故?」
「よ、より実践的にと思いまして……」
「そこです」
リュートがベルガを指差す。
「え、ええ……?」
「この数日間の授業も見学させてもらいましたが、貴女はとても真摯に生徒たちに向き合っている。彼らをなんとか一人前にしようと腐心されているのがすぐに分かりました」
「は、はあ……」
「このコネまみれの学院の中では、数少ないまともな教師と言っていい」
「そ、それは……」
「だからこそ、その才能を朽ちさせるのが惜しい……ある勇者がパーティーメンバーを募集しています。そこに参加してみませんか? 学院のお偉いさんとも話はつけてあります」
「ええ? いきなりそんなことを言われても……」
「給金でしたら今の五倍は出せますよ」
「⁉」
「若い、まだまだ経験が浅い、などと言って、給金を不当に抑えられているのでしょう? 私の紹介するパーティーならそのようなことは決してありません」
「お世話になります」
「ええっ⁉」
「賢明なご判断です」
ベルガがさっと頭を下げる。驚くイオナの横で、リュートが笑みを浮かべる。
「なんで君まで声を上げるんだ、イオナくん……」
リュートがうっとおしそうに耳を抑える。
「か、彼じゃないんですか⁉」
イオナが黒い髪の少年を指し示す。
「なんでそうなる……」
「い、いや、な?って言っていたじゃないですか⁉」
「ああ……」
「あれはすごい魔力だろう?ってことじゃないんですか?」
「確かに魔力には感心したよ」
「そ、そうでしょう?」
「将来的にまでとは言わず、今すぐにでも活躍出来そうではあるな……この魔法学院で学ぶことなど正直ほとんどないだろう」
「そ、それなら……!」
「但し……」
「た、但し?」
「比較対象のレベルがほとんど低い……絶望的なまでにな」
「な、なんてことを……!」
「事実を述べているまでだ」
「す、少しはオブラートに……!」
「あいにくそういうのは出来ない性質でね」
「聞き捨てならんな、貴様!」
金髪の少年が激昂し、前に進み出てくる。リュートが軽く頭を下げる。
「気に障ったのなら申し訳ない。おっさんの戯言だと思って聞き流してくれ」
「なにを……」
「大体においてだね、イオナくん」
「は、はい」
「的に当てることも出来ない魔法使いが役に立つと思うかい?」
「そ、それは……」
「的が動いていたんだぞ⁉ しょうがないだろう!」
金髪の少年が再び声を上げる。
「はあ……」
リュートはため息をつく。
「な、なんだ、その露骨なまでのため息は⁉」
「心底呆れているのだよ……」
「な、なんだと⁉」
「いいかい? 例えば戦場において、全く不動のモンスターなどいるのか?」
「む……」
「お行儀よく待ってくれる相手などどこにいる?」
「た、例えば、動きを限定する魔法をかけるとか……」
金髪の少年が答える。
「なるほと、魔法の重ね掛けだな。しかし、魔力の消費がどうしても激しくなる。ここぞという時に魔力が尽きてしまえばどうにもならん」
「う……」
「効率が悪すぎる。一種の魔法で仕留められるなら、出来る限りそうすべきだ」
「むう……」
「的が多少動いたからと言って、狙いを外す魔法使いに用はない。運良く高名なパーティーメンバーに入れたとしても雑用係が精々だろう」
「ざ、雑用だと!」
「ああ、君の場合は心配ないだろう」
「なに?」
「お父上のコネで宮廷魔法使いにでもなれるのではないか? 末席を汚すようなものだが」
「き、貴様……! う、うわっ!」
金髪の少年が殴りかかるが、リュートが難なくかわしたため、少年は転ぶ。
「話が逸れたな……」
「し、しかしですね、リュートさん……!」
「うん?」
「それならやはり彼ではないのですか?」
イオナがあらためて黒髪の少年を指し示す。リュートが首をすくめる。
「ああ、むしろ彼の方が問題外だ」
「ええっ!」
「……聞き捨てならないな」
黒髪の少年がムッとしながら口を開く。リュートが苦笑する。
「おおっ、珍しく感情を露にしたな」
「俺は的を破壊したぞ?」
「ああ、見ていたよ」
「それなのに問題外だと?」
「ああ、そうだ」
リュートが頷く。イオナが問う。
「どういうことですか?」
「彼は試験場の壁まで破壊していただろう?」
「は、はい! すごい魔力でした!」
「それが問題だ」
「え……?」
「魔力をロクにコントロール出来ない魔法使いなど危なかっしくてしょうがない。射線上にいたら何もかもぶっ飛ばしてしまうのか?」
「そ、それは……」
「パーティーメンバーに必要なのは、魔法をしかるべきタイミングで、適切な魔力量でもって、正確に用いることの出来る魔法使いだ。規格外と言えば聞こえが良いかもしれないが、連携行動の取れない魔法使いなどこちらから願い下げだ」
「なっ……」
黒髪の少年が黙り込む。
「そういうわけで……ベルガさん、貴女が良いと思いました」
リュートがベルガに視線を向ける。
「わ、私ですか……?」
「貴女が試験の内容も変更したのでしょう?」
「え、ええ……」
「それは何故?」
「よ、より実践的にと思いまして……」
「そこです」
リュートがベルガを指差す。
「え、ええ……?」
「この数日間の授業も見学させてもらいましたが、貴女はとても真摯に生徒たちに向き合っている。彼らをなんとか一人前にしようと腐心されているのがすぐに分かりました」
「は、はあ……」
「このコネまみれの学院の中では、数少ないまともな教師と言っていい」
「そ、それは……」
「だからこそ、その才能を朽ちさせるのが惜しい……ある勇者がパーティーメンバーを募集しています。そこに参加してみませんか? 学院のお偉いさんとも話はつけてあります」
「ええ? いきなりそんなことを言われても……」
「給金でしたら今の五倍は出せますよ」
「⁉」
「若い、まだまだ経験が浅い、などと言って、給金を不当に抑えられているのでしょう? 私の紹介するパーティーならそのようなことは決してありません」
「お世話になります」
「ええっ⁉」
「賢明なご判断です」
ベルガがさっと頭を下げる。驚くイオナの横で、リュートが笑みを浮かべる。
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