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第一幕

第11話(2)感情を抑える

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「三姉妹、大丈夫だっぺか……」

「今は振り返るな」

「スグル、ちょっと冷たいんじゃないっぺか?」

「違う」

「え?」

「信頼しているんだ。鶯さんたちは必ず勝ってくれる!」

「お、おう……!」

「とにかく先を急ぐぞ!」

「……はっ!」

「む⁉」

 馬の走る先に矢が数本突き立つ。俺は慌てて馬を停止させる。

「サラ、もっとちゃんと狙いなさいよ!」

「……リュカ様の指示に従ったまでです」

「む……」

「ははっ、ルイーズ、これは減点対象だね~?」

「う、うるさいわよ、ジュリエット!」

「まあまあ、三人とも、馬車に近づくよ」

「はっ!」

「は~い」

「かしこまりました……」

 黒い修道服のようなものを着た男が両手を広げてこちらに向かって歩いてくる。その後に三人の鎧を着た女たちがついてくる。それぞれ、茶髪のショートカット、金髪のツインテール、青い髪のロングヘアーで、怒り顔、笑顔、泣き顔と、三者三様の表情を浮かべている。

「あ、あいつらは……!」

「『グリードのリュカと三幹部』だっぺ!」

「久しぶりだね、英雄気取り君。いつぞやの借りを返しに来たよ……」

「ちっ、ここで厄介な連中が……」

「先を急げ、ここはオレに任せときな」

 静の発言に俺は驚く。

「ま、待て、一人で戦う気か? それはさすがに危ないぞ……」

「今後を予想するなら、戦力は出来る限り残しておいた方がいいぜ?」

「し、しかし……」

「ラヴィの姉さんたちのように信頼してくれよ……平気さ、オレにはとっておきの『さんとうりゅう』がある……橙々木さんが描写してくれた煙玉を使う……それ! 先を急ぎな!」

「ああ、無茶はするなよ!」

 静が投げた煙玉からもくもくと白い煙が立った。俺はその隙に馬車を先に進ませる。

「む! 煙とは小癪な真似を……あっ!」

「あはは~馬車が行っちゃったね~」

「呑気に笑っている場合か! 後を追うぞ、ジュリエット! む!」

「まあ、そう慌てんなよ、オレと遊ぼうぜ?」

 ルイーズとジュリエットが走り出そうとした先に静が立ちはだかる。

「なんだと?」

「サラ、彼女は……?」

「はい、【憑依】という珍しいスキル持ちです……」

 リュカの問いにサラが答える。

「へえ、一応調べはついているってことか……」

 静が肩をすくめる。リュカが小首を傾げる。

「無駄な時間は使いたくないんだけどね……」

「まあ、そう言いなさんな、女たらしさん」

「なっ⁉ この女、リュカ様になんという口の利き方を!」

「……ルイーズ」

「はい!」

「この娘に少しお仕置きをしてあげて」

「かしこまりました!」

 ルイーズが斧を構える。静が笑みを浮かべる。

「……やる気になってくれたようで嬉しいぜ」

「あははっ! この娘、まさか一人でワタシたちと戦うつもり?」

「哀れな……彼我の戦力差も認識出来ないとは……」

 ジュリエットが笑い、サラが涙をそっと拭う。

「一人でお釣りが来るくらいだぜ……」

「あん⁉」

「ええ?」

「ほう……」

 静の言葉にルイーズの顔が強張り、ジュリエットの笑顔が消え、サラの涙が止まる。

「あら、もしかして三人とも怒っぢゃったかな? 個性が無くなっちゃったな。まあ、その

方が女たらしの金魚のフンらしいよ」

「アンタ、いい加減黙りなさいよ!」

「ちょっと強めにお仕置きかな~」

「珍しくお二人に同意です……」

 ルイーズは斧を構え直し、ジュリエットが槍を、サラが弓を構える。

「……謝るなら今だよ?」

「面白い冗談だな」

 ジュリエットに対し、静がおどけてみせる。サラが告げる。

「貴女のスキル【憑依】は結局一人にしかなれません。人数差は埋まりませんよ」

「これは冷静な分析どうも……ただ、少しばかり認識が異なるな……」

「?」

「“一人”じゃなくて“一体”だよ……【憑依】!」

「「「⁉」」」

 静が紫色の体をした三つ首の竜に変化したのである。ルイーズが驚く。

「ま、まさか……さっきチラッと聞こえた『さんとうりゅう』って、『三頭竜』⁉」

「て、てっきり『三刀流の剣士』にでも憑依するのかと……」

 サラも戸惑う。静が首を上下させる。

「ああ……その発想は無かったぜ。この姿の方が強力だからな。謝るなら今だぜ?」

「舐めるな! 『怒の斧』!」

「ハアッ!」

「!」

 竜の首の一つから氷の風が吐き出され、ルイーズが凍り付く。

「君は少し冷静になりな……」

「ちっ! 『喜の槍』!」

「ハアアッ!」

「‼」

 竜の首の一つから雷が放たれ、ジュリエットが感電して倒れ込む。

「そういうのを振り回していると、落としたくなるんだよね……雷」

「くっ! 『哀の弓』!」

「ハアアアッ!」

「⁉」

 竜の首の一つから強風が吹き、サラは思い切り吹き飛ばされて動かなくなる。

「矢の雨はしんどいから、吹き飛ばしちゃったよ……」

「隙ありだよ! 『楽園の剣』!」

 剣を振りかざしながらリュカが走り込んでくる。

「むう!」

「首の動きは全て見切った! もらったよ!」

 リュカが素早く懐に入る。静が笑う。

「ふっ、飛んで火にいるなんとやらだなあ? ハアアアアッ!」

「どわあっ⁉ ば、馬鹿な……も、もう一つ顔が……?」

 竜の腹が開き、そこから炎が噴き出る。炎を食らったリュカはうつ伏せに倒れる。

「……別に三頭だと断言した覚えは無いぜ?」

 元の姿に戻った静が両手をパンパンと払いながら呟く。
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