上 下
33 / 50
第一幕

第8話(4)繋がり

しおりを挟む
「(ぐっ、う、動けない……!)」

 俺にアラが近づいてくる。

「ふん!」

「がはっ!」

 アラの強烈な頭突きを喰らい、俺は後方に吹っ飛ぶ。

「まだまだ、こんなものでは許さない……」

 アラがさらに近づいてくる。

「くっ!」

 俺は血の出る鼻を抑えながら距離を取ろうとバックステップする。

「逃がさない!」

「!」

 アラが両手を交差し、俺はまたも動きを止められてしまう。

「はあっ!」

「ぐはっ!」

 アラが飛んで頭突きを喰らわせてきた。俺の胸部に綺麗に決まる。

「……どうかな?」

「ごほっ、ごほっ……」

 俺は胸の辺りを抑えて咳き込む。

「ふっ、呼吸も困難か……」

「アラ姉さん!」

「アラ姉! さっさと決めてしまえ!」

「お前たち……そうだな、次でフィニッシュだ……」

 アラがセルとベリの言葉に頷く。

「ぐぅ……」

「起き上がらせはせんよ!」

 アラが空高く舞い上がってそこから急降下し、俺のみぞおちに頭突きをかましてきた。

「ごはっ!」

「……ふん」

 アラが体勢を立て直す。

「むう……」

「なんと、まだ動けるのか……?」

 俺を見て、アラは驚いた様子を見せる。

「伝説の『赤髪の勇者』の耐久力を舐めるなっぺ!」

 ティッペが遠くから威勢よく叫ぶ。お前いつの間に離れていたんだ。

「おおっ!」

「む!」

 俺は地面の砂を掴んでアラに向かって投げつけた。アラが思わず顔を背けたため、その隙を突いて俺は起き上がり、アラから距離を取る。アラが苦笑する。

「それが伝説の勇者のやることか?」

「はあ、はあ……か、勝つためには……手段を選ばん……」

「息も絶え絶えではないか、無様だな」

「何とでも言え……」

「勝つためと言ったが、貴方に勝ち目はない……」

「しまっ……!」

 アラが両手を交差しようとする。そうだ、あの【時止め】をなんとかしなくては勝ち目が無いではないか。俺はハッとなる。

「それっ!」

「⁉」

 アラの両手が交差する前に止まる。手首に糸が巻き付いている。

「こ、これは⁉」

「栄光ちゃん! 諦めちゃダメよ!」

「え⁉」

 俺は視線を向けると、先ほどコウモリたちに襲われていた馬車からドレス姿に身を包んだ幼女……もとい、小柄な女性が手から糸を発していた。

「プ、プロデューサーさん!」

「そんな所にいたとは!」

 海と監督が揃って驚きの声を上げる。俺も驚いて海たちに視線を向ける。

「プ、プロデューサー⁉」

「ええ! そうです! 『デモリベ』のプロデューサーさんです!」

「そうよ! 敏腕美人プロデューサーの赤目姫(あかのめひめ)ちゃんよ!」

「そこまでは言っていないけど……姫ちゃんPも転移していたのか」

 監督が呟く。赤目プロデューサーと言えば、業界でも有名な新進気鋭のプロデューサーだ。写真は見たことが無かったが、こんなロリ……もとい、かわいらしい方だったとは……しかし、どこかで会ったような……。そんな中、ティッペが叫ぶ。

「この子のスキルが分かったっぺ! 【コネクション】だっぺ!」

「コ、【コネクション】⁉」

「ふふん、一流のプロデューサーは繋がりを大事にするもの……一度繋いだ縁はそうそう切れないわよ!」

「「‼」」

 アラだけでなく、ベリとセルの腕も糸で巻き付けられる。なるほど、これで手をかざしてのスキル発動は封じられた。プロデューサーがかわいい声で叫ぶ。

「栄光ちゃん! 今よ!」

「うおおっ!」

「ぐうっ!」

 俺の剣の一振りで、アラたちが吹っ飛ぶ。ティッペが声を上げる。

「やったっぺか⁉」

「くっ……こ、ここは撤退だ……」

「ちっ、ダメージを負い過ぎて力が入らなかった……」

 俺は撤退していくアラたちを見ながら唇を噛む。その後、森を抜けて町の近くで休憩する。

「……しかし、あらためて……姫ちゃんPもこちらに来ていたとはね~」

「そう、姫ちゃんもビックリしちゃった! でも、栄光ちゃんたちと合流出来て良かった!」

 い、一人称が姫ちゃん……。敏腕プロデューサーっていうのは案外こんな感じなのか……ん? そういえば、なんで俺のことを……? 元の姿に戻った俺が尋ねる。

「あの……なんで俺なんかのことを知っているのですか?」

「姫ちゃん、教育実習で栄光ちゃんの高校に行ったのよ!」

「あ、そ、そうなのですか……」

 どこかで会った気がしたのはそういうわけか。

「……姫ちゃんね、あの頃は正直やりたいことが見つからなくて、日々ぼんやりとして過ごしていたの。そうしたら、『自分は絶対声優になる!』って、宣言する栄光ちゃんを見て、衝撃を受けたの。そこであらためて自問自答したら、アニメの制作に携わりたい!っていう目標が出来て……だから、今の姫ちゃんがあるのも栄光ちゃんのおかげなの!」

「! ああ……」

 そういえばそんなようなこともあったかもしれない。自分の考えていたこと、思っていたことを素直に述べただけなのだが。

「だから、いつか恩返しがしたいと思っていたの! 声優になってからの動向は逐一チェックしていたから、姿が違っても、あ、これは栄光ちゃんの声だなって思って!」

「はあ……そうなのですか」

「栄光ちゃん、英雄になるって言っていたよね? 姫ちゃんにも手伝わせて!」

「えっ⁉ ……ご一緒出来るのは心強い、こちらこそお願いします、プロデューサー」

「姫ちゃんで構わないの!」

「ええっ⁉ よ、よろしく、姫ちゃん……」

 俺は戸惑いながら姫ちゃんに応えた。

「あ、そういえば……桜ちゃんの情報を耳に挟んだの!」

「ほ、本当ですか⁉ やはりあいつもこの世界に……」

「なんか奴隷として売られそうなんだって!」

「ええっ⁉」

 俺は自身の耳を疑う。
しおりを挟む

処理中です...