上 下
22 / 50
第一幕

第6話(1)ギリギリアウト

しおりを挟む
                  6

「ふう……」

「あら、青輪さん、目が覚めたのね」

「はっ⁉ あ、貴女は『ラヴィ』の鶯さん⁉」

「ど、どうも……」

「こ、ここは……?」

「この辺で一番大きな街の宿屋よ」

「はあ……」

「貴女は気を失っていたのよ」

「気を失っていた?」

「ええ」

「ああ、青輪さん、目が覚めたんですね」

 何やら話し声が聞こえてきたので、俺と瑠璃さんが部屋に入っていくと、青輪さんがベッドから半身を起こしていた。

「あ! 栄光優さま!」

「さ、さま……?」

「ああ……」

「ちょ、ちょっと!」

 再びよろめいた青輪さんを鶯さんが抱きかかえる。

「お、推しとこうして会えるなんて……まるで夢みたい……」

「夢ではないわよ」

「異世界転移最高……」

「そ、そうかしらね……」

「そうは思いませんか?」

「か、考えようだと思うわ」

 青輪さんの言葉に鶯さんが首を傾げる。俺は尋ねる。

「ここが異世界ということは認識されているのですね?」

「ま、まあ、なんとなくではありますが……」

 体勢を直した青輪さんが頷く。

「なんであんなところから現れたっぺ?」

「よ、妖怪⁉」

 俺の後ろから姿を現したティッペを見て青輪さんが驚く。ティッペがムッとする。

「失礼な! 妖精だっぺ!」

「よ、妖精……」

「まあ、妖怪と思ってしまうのも無理はないですね……」

「スグルも何を言っているっぺ!」

「冗談だ」

「笑えないっぺ」

「それはともかく……こいつ……ティッペの言ったように、何故あんなところから?」

「あんなところとは?」

「え?」

「正直無我夢中だったので、よく分からないのです……」

 青輪さんが首を傾げる。

「そ、そうですか……」

「ドラゴンに吞み込まれたのは分かっています。その後どこから出たのですか?」

「え、えっと……」

「ドラゴンの肛門からだっぺ」

「ティ、ティッペ!」

 俺はティッペをたしなめる。ティッペが首を捻る。

「どうかしたっぺか?」

「べ、別に言わなくてもいいことだろう、それは」

「事実を確認することは大事だっぺ」

「そ、それはそうかもしれんが……」

「こ、肛門から……」

「え、ええ……金色の球体から飛び出されてきました……あの球体は?」

「分かりません、ドラゴンに吞み込まれそうになったときに念じたらああいうことに……」

「ティッペ……」

「ふむ、よく分からんが、恐らくはスキルの一種だっぺねえ……」

「ス、スキル?」

 青輪さんが驚いたように呟く。ティッペが説明する。

「君たち異世界転移者はほとんどの者が何らかのスキルを持っているっぺ」

「せ、拙者がスキル持ち……」

 青輪さんが自らの手のひらをまじまじと見つめる。拙者?と思いながら、俺は礼を言う。

「お陰で助かりました。ありがとうございます」

「え? い、いえ、恩返しをしたまでです、お気にしないでください」

「恩返し?」

 俺は首を傾げる。青輪さんは頷く。

「拙者は栄光さまにいつも活力をもらっておりまして……」

「活力?」

「学校など、日常生活に馴染めないで悩んでいるとき、いつも拙者を励ましてくれました……ボイスアプリで……」

 ボイスアプリ……そういえばそんなのも収録したっけな。しかし、あれはほとんどダウンロードされなかったと聞いていたが……。俺は自嘲気味に重ねて礼を言う。

「あれを聞いてくれたなんてレアですね。ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらの方です! あれで一歩踏み出す勇気がついたのです!」

「踏み出す勇気?」

「ええ」

「そ、それはなによりです……」

「それから活動を陰ながら応援させていただきました」

「あ、ありがとうございます……」

「ホテルでアルバイトされていることが分かったので……」

「え?」

「何かの力になれればと思い、あのホテルの出入り業者へのバイトを決意しました!」

「え……?」

「タイミングが合わずお見かけすることは叶いませんでしたが、アルバイトで奮闘されているのも励みになりました……!」

「は、はあ……あ、あの……」

「はい?」

「『デモリベ』の打ち上げパーティーの日、ホテルにいらっしゃったんですか?」

「はい。バイトを頑張っているご褒美にと、社長のコネで参加することができました!」

「そ、そうですか……」

「ひょっとしたらお会い出来るかと思いまして!」

「は、はあ……あの眩い光に包まれた時、トイレ近くにいましたか?」

「ああ、確かにお手洗いに向かっていたと思います」

「そ、そうですか、分かりました……」

「……ギリギリアウトって感じね」

「ギリギリじゃないわよ、完全にアウトな事案でしょ」

 ほとんど言葉を失っている俺の横で、鶯さんに対し瑠璃さんが話している。

「……栄光さま、ご迷惑でなければ、拙者も同行させてはくれないでしょうか? この異世界、行く当てもないんです……」

 青輪さんが頭を下げてくる。

「……同じ世界の方が一緒なのは心強い、こちらこそ……お願いします」

 俺は戸惑いながらも青輪さんにお辞儀を返すのだった。

「た、大変だよ!」

「どうしたのよ、ロビン?」

 瑠璃さんが部屋に駆け込んできたロビンさんに尋ねる。

「この宿屋が囲まれているよ!」

「⁉」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※毎週、月、水、金曜日更新 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。 ※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...