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第一幕

第5話(3)憤怒の蘇生

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「し、死者蘇生だと……?」

「そうよ」

「いや、そ、そいつはなんだ⁉」

 俺はモーグの後ろに立つ、巨大な生き物を指差す。

「え? ああ、オークってやつよ。醜い顔立ちをしているわよね~」

「オ、オーク⁉」

「知らない? モンスターよ」

「な、なんでモンスターが土から?」

「……詳しくは知らないけど、昔、この辺であったという大戦で兵士として駆り出されたみたいね。それで奮戦空しく、討ち死にしたと……」

「ちょ、ちょっと待て!」

「うん?」

 モーグが首を傾げる。

「お、お前が蘇生出来るのは人だけじゃないのか⁉」

「そうなのよ、便利なことにね……」

 俺の問いにモーグは笑みを浮かべる。

「なっ……」

「見たところ、アンタらも転移者のようね……」

「そ、それがどうした?」

「ふ~ん……」

 モーグが鶯さんたちを見つめる。

「な、なんだ?」

「男はどうでもいいけど、女どもは結構良い身なりをしているじゃない。気に入ったわ、アタシがそれをもらってあげるわ」

「なっ!」

「オーク、さっさと片付けちゃいなさい」

「フオオオ!」

 全身が薄緑色をした巨体を誇るオークが吠えて、こちらに視線を向けてくる。

「マ、マズいな……」

「……」

「む、向かってくるっぺ!」

「火を吹きかけても、あの巨体には無理そうかな……?」

「!」

 俺が監督の方を見る。監督が首をすくめる。

「い、言ってみただけだよ……」

「監督、ライターと酒を!」

「え?」

「早く!」

「あ、ああ!」

 俺は監督から百円ライターと酒を受け取る。

「天!」

「は、はい!」

「あれを描写してくれ!」

「あれ⁉」

「シーソーだ!」

「ええっ⁉」

「早くしてくれ!」

「は、はい!」

 天は紙にペンを走らせ、シーソーを出現させる。

「よし!」

 俺は地面に接地している方の板に乗る。ティッペが尋ねてくる。

「ど、どうするつもりだっぺ⁉」

「説明している暇はない! 五人とも、一斉にそっちの板に飛び乗ってくれ!」

 俺は天や鶯さんたちに指示を出す。

「え、ええっ⁉」

「ど、どういうこと⁉」

「意味が分かんないんだけど⁉」

「良いから!」

「皆、栄光くんの言う通りにするんだ!」

「‼」

「行くぞ、せーの!」

「「「「それ!」」」」

 監督の号令に合わせ、女性陣五人が板に飛び乗る。その反動で俺の体が空高く舞い上がり、オークを見下ろす位置まで飛んだ。モーグの驚く声が聞こえてくる。

「な、なんですって⁉」

「もらった! ……それっ!」

「⁉」

 俺は酒を口に含み、着火したライターに向かって吹き付ける。炎が発生し、オークの顔面を覆いつくす。俺は叫ぶ。

「どうだ!」

「……!」

 オークが苦しそうにしながら膝をつく。体全体は無理でも、顔をやられれば脆い。

「あ!」

 着地のことを考えていなかった。このままだと地面と激突してしまう。どうする⁉

「栄光さん!」

「え⁉ うおっ⁉」

 俺の体に柔らかい感触が広がる。これは……。

「マットを描写しました!」

「あ、ありがとう!」

 俺は天に礼を言う。倒れるオークを見て、モーグが舌打ちする。

「ちっ……なんてことしてくれてんのよ!」

「見れば分かるだろう。燃やしたのさ……」

「そんなことは分かっているわよ! ん⁉」

 俺の顔が元の顔に戻った。ティッペが声を上げる。

「戻ったっぺ!」

「顔が変わった? どういうスキル?」

「……答える義務は別にないな」

「くっ……大体アンタ、何なのよ!」

「この世界の英雄になる予定の者だ。お前のような悪い転移者を懲らしめてな……」

「‼」

 モーグの顔が変わる。

「どうした?」

「生意気なことを言うわね、アタシがかわいがってあげるわ!」

「頼みのオークはもう使えないようだぞ?」

「手はいくつもあるわよ!」

「なに⁉」

 モーグが指を鳴らすと、土中からドラゴンが現れ、それに颯爽と跨って笑う。

「はははっ! 驚いたようね⁉」

「ま、まさか、そいつも……!」

「そう、死んだドラゴンよ! アタシに蘇生出来ないものは無いわ! アンタたちもあの女のようにドラゴンのエサにしてあげる!」

「スグル! 馬に跨るっぺ!」

「え? わ、分かった!」

 俺は馬に跨る。ティッペが前足を振ると、一枚の紙が現れる。俺はそれを掴む。

「絵を見て……念じる!」

「なっ⁉」

「こ、これは⁉」

 モーグも俺も驚く。俺が青いポニーテールのペガサスに跨った女性に変化したからだ。
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