上 下
3 / 50
第一幕

第1話(2)スキル判明

しおりを挟む
「命令口調が気に入らないっぺねえ……」

「そんなことを言っている場合か!」

「しょうがないっぺねえ……」

「早くしろ!」

「急かすなっぺ!」

「どちらかと言えば、お前が急かしたんだろうが、妖怪!」

「妖精だっぺ!」

「ややこしいな!」

「ややこしいことはないっぺ!」

「名前とかないのか?」

「この世界のものは……オラのことをティッぺと呼ぶっぺ」

「ティッぺ?」

「ああ、皆から崇め奉られている大変ありがたい存在だっぺ」

 バケモノ、もとい、ティッぺが胸を張る。

「ふむ……」

「お前さんもこの世界に来たからには、それに倣ってもいいんだっぺよ」

「いや、絶対にお断りだ……」

「冗談だっぺ! マジなトーンで言うなっぺ!」

 ティッペが声を上げる。ん? この世界?

「ちょっと待て……」

「ん?」

「この世界……転移者……」

「どうかしたっぺか?」

 俺は今更ながらハッとする。

「ひょっとして……俺は異世界にやってきてしまったのか⁉」

「気付くのが大分遅いっぺねえ……」

 ティッペが呆れ気味な視線を向けてくる。

「な、何故だ⁉」

「さあ?」

「さあ?って、妖精なら知っているんじゃないか⁉」

「妖精だからと言って、全知全能ってわけではないっぺ……」

「役立たずだな!」

「んなっ⁉ 言うに事欠いてこのガキャ……」

「まったくなにも分からないのか⁉」

「……大方、なんらかの衝撃を受けて、この世界に来てしまったんじゃないっぺか?」

「なんらかの衝撃……はっ!」

 俺はホテルに落雷のようなものが起こったことを思い出す。ティッペが笑う。

「へえ、心当たりあるっぺか……適当でも言ってみるものだっぺねえ……」

「まさか、異世界転移してしまうなんて……そんなの小説や漫画やアニメでの出来事だと思っていたのに……」

「ああ、ショックを受けているところ、大変申し訳ないんだっぺが……」

 頭を抱える俺にティッペが話しかけてくる。俺はイライラしながら応える。

「なんだよ⁉」

「この状況をどうにかしないといけないっぺ」

「え? ああっ⁉」

 気が付くと、トカゲのようなものたちが俺たちを取り囲んでいた。

「完全に包囲されているっぺねえ……」

「な、なんてことだ……」

「まあ、問題はないっぺ」

「いや、問題しかないだろう!」

「少し落ち着くっぺ」

「これが落ち着いていられるか!」

「手はあるっぺ」

「ど、どんな手だ⁉」

「……戦って倒す!」

「あ~なるほど……ってなるか!」

「え?」

「え?じゃない! 俺は戦えないぞ!」

「転移者なら間違いないっぺ」

「なんだ、その転移者への信頼は!」

「転移者は『スキル』を所持しているっぺ」

「スキルだと?」

 首を傾げる俺にティッペが説明する。

「そう、ほとんどが戦闘向きのスキルなんだっぺ。よって、この世界では転移者は重宝されるんだっぺ。悪い方向に転がってしまうこともあるっぺが……」

「ん?」

「ああ、今はそれはいいっぺ。早速スキルを発動して、サクサクッと、こんな雑魚モンスターは片付けてしまうっぺ」

「い、いや、そうは言うが……」

「ん?」

「そのスキルとはどうやって発動するんだ⁉」

「なんとなくノリで……」

「ノリで出せるものじゃないだろう!」

「冗談だっぺ」

「こんな時に冗談はやめろ!」

 俺は堪らず叫ぶ。ティッペが急に真面目な声色になる。

「まず、己のスキルを把握する必要があるっぺ……」

「ど、どうやってやるんだ⁉」

「落ち着くっぺ、それはオラたち、妖精の役目だっぺ……」

「そ、そうか……」

 ティッペが羽をパタパタとさせて俺の顔の正面にくる。

「じっとしているっぺ……」

「あ、ああ……」

「スキル把握開始……」

「……」

「……結果が出たっぺ」

「ど、どんなスキルだ⁉」

「えっと……これは……【演技】?」

「はあっ⁉」

 戦闘とは明らかに関係なさそうなスキルの名前が出てきて、俺は驚く。
しおりを挟む

処理中です...