疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第0レース デビュー戦

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 まだ若干の肌寒さも残る初春の中山レース場。コースに繋がる地下の竜道を歩いている少年騎手とその相棒である紅色の竜体をしたドラゴンは人竜ともに落ち着きはらった様子を見せている。少年は一度ドラゴンを立ち止まらせ、深呼吸する。

「……はっ!」

 少年はドラゴンを本竜場に入場させる。ドラゴンも手綱に応え、リズムよく走る。

「……まさかクラスでビリッケツ評価のあいつが一番にデビューとはな」

「とにかく仕上げの早い厩舎って有名だからね。あまりよくない噂も聞くけど……」

 その様子をスタンドで並んで見守る長身で短髪の褐色の男子の言葉にウェーブの入った長い金髪をかきあげながら隣の男子が答える。

「羨ましい限りだね……」

「おっ、エリート様のライバル心に火が点いたか?」

 褐色の男子が笑いながら、後ろの席に座る、やや紫がかった髪の少年の方を見る。少年はコースではなく、スタンドの上方を見ている。

「Cクラス女子陣は竜主席で優雅に観戦だって。ズルくない?」

「レ、レースを見てあげようよ、ほらそろそろゲートインだよ」

 金髪の少年は苦笑しつつ、二人の視線を前方に促す。一方竜主席では……。

「いや~こんなふかふかな椅子に座ってレース観戦とは! 良いご身分だね~」

 明るい髪色でパンツスーツをやや着崩している女子が椅子にどかっと座る。

「……はしたないですよ」

 藍色の髪を三つ編みにした眼鏡をかけた女子がたしなめる。

「しかし、よくこんなVIP席に入れたな?」

「我がグループの竜は毎週、どのレース場でも走っておりますから」

 綺麗に切り揃えられたおかっぱボブに混ざる桃色のメッシュが特徴的な女子が当然だとばかりに答える。やや青みがかったロングのストレートヘアーでおでこを出しているのが特徴的な女子が心配そうにコースを見つめる。

「炎ちゃん……」

 眼鏡の女子が心配そうな女子に優しく声をかけ、肩に手を置く。

「返し竜も良い感じでした。少し人気しすぎなのが気になりますが……」

「我がグループ所有の竜というのが竜券人気に影響してしまいましたかしら?」

 おかっぱボブの女子が首を傾げる。そこにレース実況が流れてくる。

「2歳新竜戦、8頭立てのこのレース。特に仕上がりの良いドラゴンが揃いました。特に注目は3番『グレンノイグニース』、現在一番人気。鞍上はこれがデビュー戦。……さあ、スタートした! おっと! グレンノイグニース号落竜だ!」

「「「「「「「えっ⁉」」」」」」」

 観戦していた7人が揃って驚く。
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