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第一章
第11レース(4)アラクレノブシVSサイキョウベンケイ
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「まさか一回転ジャンプで交わすとはな、見せ場作ったじゃねえか」
「……引き立て役としてな!」
嵐一の皮肉に青空は言い返す。
「元気そうじゃねえか」
「落ち込む柄だと思うか?」
「いいや」
「流れ自体は悪くねえ、あとはきっかけさえあれば……頼むぜ旦那!」
「言われなくてもやってやるさ」
嵐一は青空を見送る。鳳凰院金剛が嵐一に話しかけてくる。
「先日は世話になったな」
「アンタか……まさかこんな場所で再会するとはな……」
「人の縁っちゅうんは不思議なものやな~これも兄さんの日頃の行いの賜物やな」
「あまり良いことしてきた覚えは無えけどな」
金剛の言葉に嵐一が笑う。
「不思議な縁ついでに、お願いしたいことがあるんやけど……いや、お勧めかな?」
「……なんだよ」
「このレースワイに勝たせてくれたら、きっとエエことあるで~?」
「はい、分かりました、って言うわけねえだろう」
金剛の提案を嵐一は即座に却下する。
「坊さんには親切にしといた方がエエで~?」
「勝負事では別だ、そもそも俺はそんなに信心深く無え」
「なんや、いけずやな~」
「あ、あの~?」
「ん?」
嵐一と金剛が振り返ると、そこには小柄な女性が立っている。
「なんや、姉ちゃん?」
「先ほどのお話なんですが……」
「え?」
「貴方に勝たせたら、良いことがあるっていう話……本当ですか?」
「ああ、ホンマやで」
「そ、そうなんですか? 私これまでの人生、あまり良いことがなくて……」
「ほんなら姉ちゃん、ワイに勝たせてくれたら、これからきっと幸運続きやで」
「ほ、本当ですか?」
「んなわけねえだろうが、アンタ、真に受けんな」
嵐一が堪らず口を挟む。
「え?」
「戦う気が無えなら、この場所からさっさと失せろ……幸運は己で掴むものだ」
嵐一が女性を睨み付ける。
「! す、すみません! 私ったら、幸運にすがりたいあまり、とんでもない失礼なことを口走ってしまって……!」
女性が頭を下げる。金剛が間に入る。
「まあまあ兄ちゃん、そんなにマジなんなや、ただでさえおっかない顔なんやから」
「おっかない顔⁉」
「姉ちゃんも出走者やんな? えっと……」
「はい、四国競竜学校所属の平末乙女(ひらすえおとめ)です! 騎乗ドラゴンは『ホシキララ』です!」
「まあ、さっきの話はあくまで冗談やから、お互いベストを尽くそうや」
「は、はい、よろしくお願いします!」
「ほな、兄ちゃんも頑張ろうや」
乙女がその場から去る。金剛も嵐一に手を振って、その場から離れる。
「……」
「草薙君、最終確認良いかな?」
仏坂が声をかけてくる。
「ええ、大丈夫っす」
「阪神ダート2000mは先行型の竜が優位と言われているが、最後の直線は353mとダートとしては長いので末脚勝負になる場合も多い。冷静にレースを進めよう」
「分かりました……行ってきます」
嵐一がアラクレノブシに跨り、本竜場に向かう。各竜スムーズにゲート入りして、ゲートが開く。各竜出遅れもほとんどない揃ったスタートになる。
「アラクレノブシ、悪くない位置につけましたね」
スタンドに上がってきた海が呟く。レオンが不安そうに尋ねる。
「わりとペースが早目なような気がするけど?」
「極端な逃げ方をするドラゴンはこの中にはいません。レース中盤でペースは緩むはずです。やはり直線勝負になるかと」
海が淡々と答える。
「折り合いもついているわね」
「ああ」
真帆の言葉に炎仁が頷く。レースは早くも第三コーナーを過ぎ、最終コーナー手前に差しかかる。早くも仕掛けたドラゴンが何頭か出て固まっていた竜群がややばらける。嵐一が己に言い聞かせる。
(慌てるなよ俺! 直線を向いてからが勝負だ!)
「前が何頭か抜け出した!」
「まだ慌てなくてもいいはずです」
叫ぶレオンに海が冷静に答える。真帆が呟く。
「よく堪えている……」
鞍上の嵐一が内心苦笑する。
(てめえで言うのもなんだが、落ち着いているな。以前までの俺だったら、先行竜につられて、焦って上がっていくところだった。イライラしてどこか気が逸っていた俺も少しは変わったものだぜ……これもこの一年間の成果か?)
レースは最終コーナーを周り、竜群がさらにばらける。アラクレノブシの右斜め前方にぽっかりと一頭分のスペースが出来る。
「! ここだ!」
「ここや!」
「⁉」
アラクレノブシがポジションを確保しようとすると、右側から左に進もうとした灰色の竜体のドラゴンと少し接触する。金剛騎乗のサイキョウベンケイである。
「ははっ! 考えることまで一緒とは!」
(ちっ! 当たりが強え! だが、このポジションは譲れねえ!)
アラクレノブシとサイキョウベンケイが激しく競り合いながら、二頭とも直線を良い脚で伸びてくる。真帆が声を上げる。
「どちらも脚色が良いわ!」
「負けるな! 嵐一! ノブシ!」
炎仁が叫ぶ。嵐一は心の中で闘志を燃やす。
(互いに何度か接触しているが、これくらいなら反則にはならねえ! この勝負、怯んだ方が負けだ!)
「しつこいやっちゃで! む!」
「こっちの台詞だ! ん!」
接触の影響か、二頭がそれぞれ左右によれる。二頭の間に一頭分の隙間が出来る。
「し、失礼します!」
「「⁉」」
そこに一頭の蜜柑色の小柄なドラゴンが突っ込んでくる。小柄だが、それを感じさせないパワーで二頭の間に割って入り、その勢いのまま突っ切る。
「い、一着はホシキララ! 鞍上は平末乙女! 四国の伏兵がやってのけました!」
「人竜ともにちっこいのに、なんちゅうパワーや……」
「ありがとうございます! 御言葉通り、自分で幸運を掴み取れました!」
乙女は笑顔で嵐一に頭を下げる。
「柄にもねえこと言ったらこれだ……」
嵐一は苦笑を浮かべる。
「……引き立て役としてな!」
嵐一の皮肉に青空は言い返す。
「元気そうじゃねえか」
「落ち込む柄だと思うか?」
「いいや」
「流れ自体は悪くねえ、あとはきっかけさえあれば……頼むぜ旦那!」
「言われなくてもやってやるさ」
嵐一は青空を見送る。鳳凰院金剛が嵐一に話しかけてくる。
「先日は世話になったな」
「アンタか……まさかこんな場所で再会するとはな……」
「人の縁っちゅうんは不思議なものやな~これも兄さんの日頃の行いの賜物やな」
「あまり良いことしてきた覚えは無えけどな」
金剛の言葉に嵐一が笑う。
「不思議な縁ついでに、お願いしたいことがあるんやけど……いや、お勧めかな?」
「……なんだよ」
「このレースワイに勝たせてくれたら、きっとエエことあるで~?」
「はい、分かりました、って言うわけねえだろう」
金剛の提案を嵐一は即座に却下する。
「坊さんには親切にしといた方がエエで~?」
「勝負事では別だ、そもそも俺はそんなに信心深く無え」
「なんや、いけずやな~」
「あ、あの~?」
「ん?」
嵐一と金剛が振り返ると、そこには小柄な女性が立っている。
「なんや、姉ちゃん?」
「先ほどのお話なんですが……」
「え?」
「貴方に勝たせたら、良いことがあるっていう話……本当ですか?」
「ああ、ホンマやで」
「そ、そうなんですか? 私これまでの人生、あまり良いことがなくて……」
「ほんなら姉ちゃん、ワイに勝たせてくれたら、これからきっと幸運続きやで」
「ほ、本当ですか?」
「んなわけねえだろうが、アンタ、真に受けんな」
嵐一が堪らず口を挟む。
「え?」
「戦う気が無えなら、この場所からさっさと失せろ……幸運は己で掴むものだ」
嵐一が女性を睨み付ける。
「! す、すみません! 私ったら、幸運にすがりたいあまり、とんでもない失礼なことを口走ってしまって……!」
女性が頭を下げる。金剛が間に入る。
「まあまあ兄ちゃん、そんなにマジなんなや、ただでさえおっかない顔なんやから」
「おっかない顔⁉」
「姉ちゃんも出走者やんな? えっと……」
「はい、四国競竜学校所属の平末乙女(ひらすえおとめ)です! 騎乗ドラゴンは『ホシキララ』です!」
「まあ、さっきの話はあくまで冗談やから、お互いベストを尽くそうや」
「は、はい、よろしくお願いします!」
「ほな、兄ちゃんも頑張ろうや」
乙女がその場から去る。金剛も嵐一に手を振って、その場から離れる。
「……」
「草薙君、最終確認良いかな?」
仏坂が声をかけてくる。
「ええ、大丈夫っす」
「阪神ダート2000mは先行型の竜が優位と言われているが、最後の直線は353mとダートとしては長いので末脚勝負になる場合も多い。冷静にレースを進めよう」
「分かりました……行ってきます」
嵐一がアラクレノブシに跨り、本竜場に向かう。各竜スムーズにゲート入りして、ゲートが開く。各竜出遅れもほとんどない揃ったスタートになる。
「アラクレノブシ、悪くない位置につけましたね」
スタンドに上がってきた海が呟く。レオンが不安そうに尋ねる。
「わりとペースが早目なような気がするけど?」
「極端な逃げ方をするドラゴンはこの中にはいません。レース中盤でペースは緩むはずです。やはり直線勝負になるかと」
海が淡々と答える。
「折り合いもついているわね」
「ああ」
真帆の言葉に炎仁が頷く。レースは早くも第三コーナーを過ぎ、最終コーナー手前に差しかかる。早くも仕掛けたドラゴンが何頭か出て固まっていた竜群がややばらける。嵐一が己に言い聞かせる。
(慌てるなよ俺! 直線を向いてからが勝負だ!)
「前が何頭か抜け出した!」
「まだ慌てなくてもいいはずです」
叫ぶレオンに海が冷静に答える。真帆が呟く。
「よく堪えている……」
鞍上の嵐一が内心苦笑する。
(てめえで言うのもなんだが、落ち着いているな。以前までの俺だったら、先行竜につられて、焦って上がっていくところだった。イライラしてどこか気が逸っていた俺も少しは変わったものだぜ……これもこの一年間の成果か?)
レースは最終コーナーを周り、竜群がさらにばらける。アラクレノブシの右斜め前方にぽっかりと一頭分のスペースが出来る。
「! ここだ!」
「ここや!」
「⁉」
アラクレノブシがポジションを確保しようとすると、右側から左に進もうとした灰色の竜体のドラゴンと少し接触する。金剛騎乗のサイキョウベンケイである。
「ははっ! 考えることまで一緒とは!」
(ちっ! 当たりが強え! だが、このポジションは譲れねえ!)
アラクレノブシとサイキョウベンケイが激しく競り合いながら、二頭とも直線を良い脚で伸びてくる。真帆が声を上げる。
「どちらも脚色が良いわ!」
「負けるな! 嵐一! ノブシ!」
炎仁が叫ぶ。嵐一は心の中で闘志を燃やす。
(互いに何度か接触しているが、これくらいなら反則にはならねえ! この勝負、怯んだ方が負けだ!)
「しつこいやっちゃで! む!」
「こっちの台詞だ! ん!」
接触の影響か、二頭がそれぞれ左右によれる。二頭の間に一頭分の隙間が出来る。
「し、失礼します!」
「「⁉」」
そこに一頭の蜜柑色の小柄なドラゴンが突っ込んでくる。小柄だが、それを感じさせないパワーで二頭の間に割って入り、その勢いのまま突っ切る。
「い、一着はホシキララ! 鞍上は平末乙女! 四国の伏兵がやってのけました!」
「人竜ともにちっこいのに、なんちゅうパワーや……」
「ありがとうございます! 御言葉通り、自分で幸運を掴み取れました!」
乙女は笑顔で嵐一に頭を下げる。
「柄にもねえこと言ったらこれだ……」
嵐一は苦笑を浮かべる。
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