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第一章
第11レース(3)サンシャインノヴァVSメタリッククノイチ
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「へっ、なんだよ、つまらねえな」
レース後、控室に戻ってきた海の顔を見て青空は天を仰ぐ。
「……なにがですか?」
「惜しいレースだったからな。悔し泣きしてたら慰めてやろうと思ったのによ」
「……悔しいですが、貴女の前では絶対に泣きません」
「へ、そうかよ」
「それより朝日さん、この後、教官から最終確認があるかとおもいますが……どうせ細かな指示を出されても分からないでしょう?」
「そうだな」
「ですから、私から一言……」
「ん?」
「『一番早くゴール板前を駆け抜けなさい』、以上」
「ははっ、そりゃあ分かりやすい」
「ご健闘をお祈りします」
「おうよ!」
青空が手を挙げて海を見送る。
「ククク……青臭い友情ごっこだな?」
「あん? 誰だ?」
青空が振り返ると、ヘルメットやゴーグルで半分顔を覆われているが、緑色の髪に右眼に黒い眼帯をしている女性が立っている。背丈は青空と同じくらいである。
「関東の連中はお子ちゃまだらけか? エール交換って運動会気分かよ!」
女性が青空に思い切り顔を近づけて叫ぶ。青空もこれくらいでは動じない。
「……てめえなんか運動会気分でも楽勝なんだよ」
「ああ? 言ってくれるじゃねえか?」
「大体てめえ誰だよ?」
「アタシは東北競竜学校所属の伊達仁鮮(だてにあざやか)、乗っているドラゴンはこっから見えるあの緑色の竜体の奴、『モリドクガンリュウ』だ」
青空はドラゴンを見て驚く。ドラゴンの右眼にも眼帯がついていたからである。
「おい、中二病の姉ちゃんよ……」
「あん? おっと!」
青空はドラゴンを指差しながら、鮮の胸ぐらをつかむ。
「ありゃあどういうこった?」
「メンコ(マスク)とかあるだろ、似たようなもんだ」
「ふざけんなよ、てめえで竜の視界を限定するならまだしも完全に遮るやつがいるか。てめえらの黒歴史発表会じゃねえんだよ……」
「離せ、あれはあれで調子良く走れるんだよ、部外者がとやかく言うな」
鮮も青空の襟首を掴む。二人の間に険悪な雰囲気が流れる。それを察知した職員が近づいてくる。二人は互いの手をパッと離す。
「何をしている?」
「えっと……」
「少々じゃれ合っているだけです」
後頭部を抱える青空の脇にいつの間にか立っていた蛇尾ゆとりが呟く。
「あ、そうなんすよ~。二人で顔を合わせるといつもこのノリで……」
「そうそう、ついついガンのつけ合い、飛ばし合いになっちゃうんす」
ゆとりに合わせ、青空と鮮は揃って笑顔を浮かべる。
「そ、そうか? 紛らわしい真似は止めなさい! 全くこれだから若い子は……」
職員がその場を去る。青空が一息ついて、ゆとりに礼を言う。
「悪いな、助かったわ」
「お気になさらず、先日華恋が世話になった礼。それに……」
「それに?」
「見たところ拙者にとって有力な対抗竜になるのは貴女達のようでござる」
「「おおっ、目の付け所が良いな! ん? アタシだろ⁉ ぐぬぬ……」」
青空と鮮の声がシンクロし、再び互いに睨み合う。
「……そうやって掛かり気味になって、共倒れになってもらうと助かる」
「なっ⁉ あ、あいつ、いつの間にあんな所に……」
青空が振り返ると、ゆとりは二人から離れ、自らのドラゴンの元にいた。
「まあ、レースでどっちが上か雑魚かは分かるこったな」
そう言って鮮もその場を離れる。青空が声を上げる。
「上等だ! ん?」
「少し落ち着こうか、朝日さん……」
「……す~はあ……悪い、落ち着いた」
青空が深呼吸して仏坂に向き合う。
「最終確認だ。このダート1400mはハイペースになり易い傾向で……って難しい説明はいらないか。最後の直線まで良い位置で脚を溜め……ドーンと爆発させるんだ!」
「へへっ、教官も分かってきたじゃねーか……そろそろ時間か、行ってくらあ」
青空がサンシャインノヴァに騎乗し、コースに向かう。そこにモリドクガンリュウに跨った鮮が近づいてきて、眼帯をさすりながら呟く。
「実はこの眼帯で隠した眼はな……なんでも見通せる『魔眼』なんだよ」
「大分手遅れだな、お前」
冷淡な反応をする青空に構わず、鮮は話を続ける。
「お前はアタシに後方から鮮やかにブチ抜かれて負けるぜ」
「ほざけ……」
各竜ゲートインし、一瞬間があって、ゲートが開く。ほぼ揃ったスタートになる。
「⁉」
青空は目を疑う。モリドクガンリュウが先頭で飛び出していったからである。
(あの中二病! 逃げかよ! 我ながら単純なブラフに引っかかっちまった!)
青空はサンシャインノヴァのポジションを大胆に上げる。
「サンシャインノヴァ、ちょっと前目過ぎないかな⁉」
「パワーのいるダートに短距離戦、前に行く判断はそこまで間違っていないはず!」
スタンドに上がってきたレオンの声に真帆が答える。しばらくして、モリドクガンリュウの位置が下がってきて、サンシャインノヴァが左斜め後ろに付く。
「へっ! 奇策敗れたな! 無理にスピード上げるからだ」
青空の言葉に鮮は振り向いて答える。
「その目立つ竜体で良い感じにかき回してくれたぜ……伏兵くらいにはなったな」
「なんだと⁉」
「光あるところに影あり! そこに隠れていやがるな! くのいち!」
サンシャインノヴァの左斜め後方に蛇尾ゆとり騎乗のメタリッククノイチが息を潜めるように走っている。青空が驚き、鮮が叫ぶ。
「脚色は今ひとつのようだな、突き放す!」
モリドクガンリュウが再びスピードを上げる。青空が目を丸くする。
「なっ⁉ もう一段階ギア上げやがった!」
「想定通りのペース配分か……やるものだ……」
ゆとりが感心する。青空が彼女なりに頭を回転させる。
(小難しい駆け引きは無しだ! ここが勝負所だとアタシの本能が告げている!)
「行くぜ相棒! もう二段階ギアを上げるぞ!」
サンシャインノヴァが猛スパートをかけ、モリドクガンリュウを交わしにかかる。
「よし、行け! 青空! サンシャイン!」
炎仁の叫びが届いたわけではないだろうが、サンシャインノヴァが先頭に立つ。
「二着が二回続いたが、Cクラス三度目の正直だ!」
「二度あることは三度ある……」
「ちっ⁉ ついてきていたかクノイチ! んなっ⁉」
青空が驚嘆する。左斜め後方にいたメタリッククノイチがその竜体を翻し、サンシャインノヴァの右斜め前方に着地したのである。そのままゴールインする。
「一着はメタリッククノイチ! 驚天動地なアクロバティックな動きで、サンシャインノヴァをゴール前で交わしてみせた!」
「ちっ……マジで忍者がいやがったぜ。笑うに笑えねえ……」
スタンドの声援に応えるゆとり達を見て、青空は苦々しい顔で呟く。
レース後、控室に戻ってきた海の顔を見て青空は天を仰ぐ。
「……なにがですか?」
「惜しいレースだったからな。悔し泣きしてたら慰めてやろうと思ったのによ」
「……悔しいですが、貴女の前では絶対に泣きません」
「へ、そうかよ」
「それより朝日さん、この後、教官から最終確認があるかとおもいますが……どうせ細かな指示を出されても分からないでしょう?」
「そうだな」
「ですから、私から一言……」
「ん?」
「『一番早くゴール板前を駆け抜けなさい』、以上」
「ははっ、そりゃあ分かりやすい」
「ご健闘をお祈りします」
「おうよ!」
青空が手を挙げて海を見送る。
「ククク……青臭い友情ごっこだな?」
「あん? 誰だ?」
青空が振り返ると、ヘルメットやゴーグルで半分顔を覆われているが、緑色の髪に右眼に黒い眼帯をしている女性が立っている。背丈は青空と同じくらいである。
「関東の連中はお子ちゃまだらけか? エール交換って運動会気分かよ!」
女性が青空に思い切り顔を近づけて叫ぶ。青空もこれくらいでは動じない。
「……てめえなんか運動会気分でも楽勝なんだよ」
「ああ? 言ってくれるじゃねえか?」
「大体てめえ誰だよ?」
「アタシは東北競竜学校所属の伊達仁鮮(だてにあざやか)、乗っているドラゴンはこっから見えるあの緑色の竜体の奴、『モリドクガンリュウ』だ」
青空はドラゴンを見て驚く。ドラゴンの右眼にも眼帯がついていたからである。
「おい、中二病の姉ちゃんよ……」
「あん? おっと!」
青空はドラゴンを指差しながら、鮮の胸ぐらをつかむ。
「ありゃあどういうこった?」
「メンコ(マスク)とかあるだろ、似たようなもんだ」
「ふざけんなよ、てめえで竜の視界を限定するならまだしも完全に遮るやつがいるか。てめえらの黒歴史発表会じゃねえんだよ……」
「離せ、あれはあれで調子良く走れるんだよ、部外者がとやかく言うな」
鮮も青空の襟首を掴む。二人の間に険悪な雰囲気が流れる。それを察知した職員が近づいてくる。二人は互いの手をパッと離す。
「何をしている?」
「えっと……」
「少々じゃれ合っているだけです」
後頭部を抱える青空の脇にいつの間にか立っていた蛇尾ゆとりが呟く。
「あ、そうなんすよ~。二人で顔を合わせるといつもこのノリで……」
「そうそう、ついついガンのつけ合い、飛ばし合いになっちゃうんす」
ゆとりに合わせ、青空と鮮は揃って笑顔を浮かべる。
「そ、そうか? 紛らわしい真似は止めなさい! 全くこれだから若い子は……」
職員がその場を去る。青空が一息ついて、ゆとりに礼を言う。
「悪いな、助かったわ」
「お気になさらず、先日華恋が世話になった礼。それに……」
「それに?」
「見たところ拙者にとって有力な対抗竜になるのは貴女達のようでござる」
「「おおっ、目の付け所が良いな! ん? アタシだろ⁉ ぐぬぬ……」」
青空と鮮の声がシンクロし、再び互いに睨み合う。
「……そうやって掛かり気味になって、共倒れになってもらうと助かる」
「なっ⁉ あ、あいつ、いつの間にあんな所に……」
青空が振り返ると、ゆとりは二人から離れ、自らのドラゴンの元にいた。
「まあ、レースでどっちが上か雑魚かは分かるこったな」
そう言って鮮もその場を離れる。青空が声を上げる。
「上等だ! ん?」
「少し落ち着こうか、朝日さん……」
「……す~はあ……悪い、落ち着いた」
青空が深呼吸して仏坂に向き合う。
「最終確認だ。このダート1400mはハイペースになり易い傾向で……って難しい説明はいらないか。最後の直線まで良い位置で脚を溜め……ドーンと爆発させるんだ!」
「へへっ、教官も分かってきたじゃねーか……そろそろ時間か、行ってくらあ」
青空がサンシャインノヴァに騎乗し、コースに向かう。そこにモリドクガンリュウに跨った鮮が近づいてきて、眼帯をさすりながら呟く。
「実はこの眼帯で隠した眼はな……なんでも見通せる『魔眼』なんだよ」
「大分手遅れだな、お前」
冷淡な反応をする青空に構わず、鮮は話を続ける。
「お前はアタシに後方から鮮やかにブチ抜かれて負けるぜ」
「ほざけ……」
各竜ゲートインし、一瞬間があって、ゲートが開く。ほぼ揃ったスタートになる。
「⁉」
青空は目を疑う。モリドクガンリュウが先頭で飛び出していったからである。
(あの中二病! 逃げかよ! 我ながら単純なブラフに引っかかっちまった!)
青空はサンシャインノヴァのポジションを大胆に上げる。
「サンシャインノヴァ、ちょっと前目過ぎないかな⁉」
「パワーのいるダートに短距離戦、前に行く判断はそこまで間違っていないはず!」
スタンドに上がってきたレオンの声に真帆が答える。しばらくして、モリドクガンリュウの位置が下がってきて、サンシャインノヴァが左斜め後ろに付く。
「へっ! 奇策敗れたな! 無理にスピード上げるからだ」
青空の言葉に鮮は振り向いて答える。
「その目立つ竜体で良い感じにかき回してくれたぜ……伏兵くらいにはなったな」
「なんだと⁉」
「光あるところに影あり! そこに隠れていやがるな! くのいち!」
サンシャインノヴァの左斜め後方に蛇尾ゆとり騎乗のメタリッククノイチが息を潜めるように走っている。青空が驚き、鮮が叫ぶ。
「脚色は今ひとつのようだな、突き放す!」
モリドクガンリュウが再びスピードを上げる。青空が目を丸くする。
「なっ⁉ もう一段階ギア上げやがった!」
「想定通りのペース配分か……やるものだ……」
ゆとりが感心する。青空が彼女なりに頭を回転させる。
(小難しい駆け引きは無しだ! ここが勝負所だとアタシの本能が告げている!)
「行くぜ相棒! もう二段階ギアを上げるぞ!」
サンシャインノヴァが猛スパートをかけ、モリドクガンリュウを交わしにかかる。
「よし、行け! 青空! サンシャイン!」
炎仁の叫びが届いたわけではないだろうが、サンシャインノヴァが先頭に立つ。
「二着が二回続いたが、Cクラス三度目の正直だ!」
「二度あることは三度ある……」
「ちっ⁉ ついてきていたかクノイチ! んなっ⁉」
青空が驚嘆する。左斜め後方にいたメタリッククノイチがその竜体を翻し、サンシャインノヴァの右斜め前方に着地したのである。そのままゴールインする。
「一着はメタリッククノイチ! 驚天動地なアクロバティックな動きで、サンシャインノヴァをゴール前で交わしてみせた!」
「ちっ……マジで忍者がいやがったぜ。笑うに笑えねえ……」
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