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第一章
第11レース(2)ミカヅキルナマリアVSトキメキエンプレス
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「負けてしまったよ……」
「良いレースでした、胸を張って下さい」
肩を落とすレオンを海は励ます。
「ありがとう、三日月さんも頑張って」
「ええ」
レオンを見送ると、華恋が話しかけてくる。
「……三日月海さん、こないだはどうもおおきに」
「ああ、いえ、別に大したことではありません」
「そんなことないですわ、助かりました」
「大変そうですね」
「ホンマですわ。なかなかプライベートの時間が取れなくて……」
「それは当然でしょう!」
「「!」」
海と華恋に強気な眼差しの女性が話しかけてくる。女性は華恋の体を指差す。
「桜花華恋さん、貴女、ただでさえ有名人なのにショッキングピンクなんて派手な勝負服! 自ら注目してくださいと言っているようなものでしょう!」
「で、でもお気に入りの色やし……」
長身の華恋が縮こまる。海が口を挟む。
「プロの世界なのですから目立つようにするのは悪くないことだと思いますよ」
「む……」
「悔しいのならばご自分の実力を証明してみせては如何ですか? またとない機会でしょう」
「も、もとよりそのつもりです! 私は中部競竜学校所属の織田桐冬(おだぎりふゆ)! 騎乗しているドラゴンは『ダイロクテンマジョ』! 本日はどうそ宜しく! 桜花さん!」
「あ、はい……よろしくお願いします」
「一応、貴女の名前も聞いておこうかしら?」
冬は海を見つめる。
「関東競竜学校の三日月海です。『ミカヅキルナマリア』に騎乗します」
「ああ、良い竜体をしていたドラゴンね……良いレースにしましょう。失礼!」
冬は踵を返し、自らのドラゴンに向かう。海は華恋に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。レースって感じがしてきたね……ほな、失礼」
華恋は目つきを変え、自らのドラゴンに向かう。その背中を見て海が呟く。
「むしろ闘志に火が点いたようですね……」
「揉めていたのか?」
仏坂が海に声をかける。
「いえ、別に……単なる挨拶です」
「そうか、最終確認だけど、阪神2200mはスタミナがある差し型の竜が有利だ」
「ええ、なるべく距離のロスを避けてペース配分に注意します」
「さすが、分かっているね」
「では、行ってきます」
海がドラゴンに騎乗し、本竜場に入場してゲートイン。スタートする。各竜揃って好スタートを切る。スタンドの真帆が声を上げる。
「海ちゃん、良い位置につけている!」
「先行型のルナマリアにとっては理想的なポジションだね」
翔が頷く。炎仁が尋ねる。
「本命のトキメキエンプレスは後方に下げ過ぎだな。他に気になる竜はいるか?」
「……あの6番の黒い竜、良い感じだね」
「ダイロクテンマジョか……地方の竜だな」
鞍上の海は内心舌を巻く。
(トキメキエンプレスが後方に下がったと見て、先行する私に狙いを切り替えた⁉ 織田桐さん、なかなか冷静な方ですね……)
(三日月海……関東競竜学校では何故かCクラスという低い評価みたいだけど、関東のアマチュア大会では、それなりの好成績を残しているのを私は見逃さなかった……! トキメキエンプレスはかなりの良血竜だけど、鞍上の桜花さんは経験不足が否めない! 今日の敵はミカヅキルナマリア!)
ダイロクテンマジョがミカヅキルナマリアに迫る。二頭とも好位置でレースを進めている。海が考えを巡らせる。
(自惚れていたつもりはありませんが、学校ではまさかのCクラス……流石に動揺しましたし、落胆しました。そこから自問自答の日々でした。自分に何が足りないのか? 答えはなかなか出ませんでした……そこで発想を転換してみました。自分の長所は何かということ。導き出した答えは『理論的な、セオリー通りの騎乗』。ということはつまり! 常識外の騎乗をすれば、私はもう一段階上に行ける!)
「⁉」
冬が驚く。勝負所と見られる第三コーナーのやや手前からミカヅキルナマリアが抜け出したからである。スタンドの真帆が驚く。
「ちょっと早くないかしら⁉」
「いや、皆の虚を突いた! ペース配分も上手くいっている、良い仕掛けだ!」
翔が頷く。炎仁が叫ぶ。
「行け! 海さん! ルナマリア!」
(くっ! このまま逃がさん! ダイロクテンマジョならば追い付ける!)
「くっ⁉」
海が驚く。ダイロクテンマジョがミカヅキルナマリアに肉薄してきたからである。二頭は激しく競り合ったまま、最終コーナーを周る。冬が手綱をしごく。
(直線、スピードに乗っているのはこちら、手応えは良い! 行ける!)
(直線の叩き合い……柄でもないことをしてみますか!)
海が鞭を入れて叫ぶ。
「ルナマリア! 最後は根性ですよ!」
「なっ⁉」
ミカヅキルナマリアがやや差を付ける。
「行ける……なっ⁉」
次の瞬間、大外からピンク色の影が豪快に飛びこんできた。
「勝利への花道は……譲らへん!」
軽快な手綱さばきと鋭い鞭の振りを見せながら、桜花華恋騎乗のトキメキエンプレスが前を行く二頭をあっという間に交わし、先頭でゴールインする。
「一着はトキメキエンプレス! 大外から豪快な脚で突っ込んできた! 鞍上の桜花華恋、中腰体勢から体を伸ばして……さらに鞭を上に軽く投げて、それをキャッチしてガッツポーズ! 人竜揃って派手なパフォーマンスがよく似合う!」
華恋の振る舞いに観衆から大きな歓声が湧く。正真正銘の地元のスターの活躍にスタンドは興奮に包まれる。
「……おめでとうございます」
「ああ、おおきに!」
海の祝福に対し、華恋は満面の笑みを見せる。
「一応、おめでとう……」
「ああ、織田桐さんもおおきに!」
「ただ、忘れないで頂戴! この借りは必ず返すわ!」
「うん、楽しみにしているわ! またええ勝負しましょう!」
「! ぐっ……」
華恋はスタンド前に向かい、声援に応えようと、海たちから離れる。
「厄介相手にも神対応ってやつ……? 今日のところは完敗だわ……」
悔しそうに呟いて、冬は引きあげていく。
「自分的には殻を突き破ったつもりでしたが……それすらも軽く凌駕してしまいますか、スターの輝きというものは……」
海がスタンドに手を振る華恋を見つめながら淡々と呟く。
「海ちゃん……」
「関西勢、流石に手強いな……」
スタンドで真帆と炎仁が立ちつくす。
「良いレースでした、胸を張って下さい」
肩を落とすレオンを海は励ます。
「ありがとう、三日月さんも頑張って」
「ええ」
レオンを見送ると、華恋が話しかけてくる。
「……三日月海さん、こないだはどうもおおきに」
「ああ、いえ、別に大したことではありません」
「そんなことないですわ、助かりました」
「大変そうですね」
「ホンマですわ。なかなかプライベートの時間が取れなくて……」
「それは当然でしょう!」
「「!」」
海と華恋に強気な眼差しの女性が話しかけてくる。女性は華恋の体を指差す。
「桜花華恋さん、貴女、ただでさえ有名人なのにショッキングピンクなんて派手な勝負服! 自ら注目してくださいと言っているようなものでしょう!」
「で、でもお気に入りの色やし……」
長身の華恋が縮こまる。海が口を挟む。
「プロの世界なのですから目立つようにするのは悪くないことだと思いますよ」
「む……」
「悔しいのならばご自分の実力を証明してみせては如何ですか? またとない機会でしょう」
「も、もとよりそのつもりです! 私は中部競竜学校所属の織田桐冬(おだぎりふゆ)! 騎乗しているドラゴンは『ダイロクテンマジョ』! 本日はどうそ宜しく! 桜花さん!」
「あ、はい……よろしくお願いします」
「一応、貴女の名前も聞いておこうかしら?」
冬は海を見つめる。
「関東競竜学校の三日月海です。『ミカヅキルナマリア』に騎乗します」
「ああ、良い竜体をしていたドラゴンね……良いレースにしましょう。失礼!」
冬は踵を返し、自らのドラゴンに向かう。海は華恋に声をかける。
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫。レースって感じがしてきたね……ほな、失礼」
華恋は目つきを変え、自らのドラゴンに向かう。その背中を見て海が呟く。
「むしろ闘志に火が点いたようですね……」
「揉めていたのか?」
仏坂が海に声をかける。
「いえ、別に……単なる挨拶です」
「そうか、最終確認だけど、阪神2200mはスタミナがある差し型の竜が有利だ」
「ええ、なるべく距離のロスを避けてペース配分に注意します」
「さすが、分かっているね」
「では、行ってきます」
海がドラゴンに騎乗し、本竜場に入場してゲートイン。スタートする。各竜揃って好スタートを切る。スタンドの真帆が声を上げる。
「海ちゃん、良い位置につけている!」
「先行型のルナマリアにとっては理想的なポジションだね」
翔が頷く。炎仁が尋ねる。
「本命のトキメキエンプレスは後方に下げ過ぎだな。他に気になる竜はいるか?」
「……あの6番の黒い竜、良い感じだね」
「ダイロクテンマジョか……地方の竜だな」
鞍上の海は内心舌を巻く。
(トキメキエンプレスが後方に下がったと見て、先行する私に狙いを切り替えた⁉ 織田桐さん、なかなか冷静な方ですね……)
(三日月海……関東競竜学校では何故かCクラスという低い評価みたいだけど、関東のアマチュア大会では、それなりの好成績を残しているのを私は見逃さなかった……! トキメキエンプレスはかなりの良血竜だけど、鞍上の桜花さんは経験不足が否めない! 今日の敵はミカヅキルナマリア!)
ダイロクテンマジョがミカヅキルナマリアに迫る。二頭とも好位置でレースを進めている。海が考えを巡らせる。
(自惚れていたつもりはありませんが、学校ではまさかのCクラス……流石に動揺しましたし、落胆しました。そこから自問自答の日々でした。自分に何が足りないのか? 答えはなかなか出ませんでした……そこで発想を転換してみました。自分の長所は何かということ。導き出した答えは『理論的な、セオリー通りの騎乗』。ということはつまり! 常識外の騎乗をすれば、私はもう一段階上に行ける!)
「⁉」
冬が驚く。勝負所と見られる第三コーナーのやや手前からミカヅキルナマリアが抜け出したからである。スタンドの真帆が驚く。
「ちょっと早くないかしら⁉」
「いや、皆の虚を突いた! ペース配分も上手くいっている、良い仕掛けだ!」
翔が頷く。炎仁が叫ぶ。
「行け! 海さん! ルナマリア!」
(くっ! このまま逃がさん! ダイロクテンマジョならば追い付ける!)
「くっ⁉」
海が驚く。ダイロクテンマジョがミカヅキルナマリアに肉薄してきたからである。二頭は激しく競り合ったまま、最終コーナーを周る。冬が手綱をしごく。
(直線、スピードに乗っているのはこちら、手応えは良い! 行ける!)
(直線の叩き合い……柄でもないことをしてみますか!)
海が鞭を入れて叫ぶ。
「ルナマリア! 最後は根性ですよ!」
「なっ⁉」
ミカヅキルナマリアがやや差を付ける。
「行ける……なっ⁉」
次の瞬間、大外からピンク色の影が豪快に飛びこんできた。
「勝利への花道は……譲らへん!」
軽快な手綱さばきと鋭い鞭の振りを見せながら、桜花華恋騎乗のトキメキエンプレスが前を行く二頭をあっという間に交わし、先頭でゴールインする。
「一着はトキメキエンプレス! 大外から豪快な脚で突っ込んできた! 鞍上の桜花華恋、中腰体勢から体を伸ばして……さらに鞭を上に軽く投げて、それをキャッチしてガッツポーズ! 人竜揃って派手なパフォーマンスがよく似合う!」
華恋の振る舞いに観衆から大きな歓声が湧く。正真正銘の地元のスターの活躍にスタンドは興奮に包まれる。
「……おめでとうございます」
「ああ、おおきに!」
海の祝福に対し、華恋は満面の笑みを見せる。
「一応、おめでとう……」
「ああ、織田桐さんもおおきに!」
「ただ、忘れないで頂戴! この借りは必ず返すわ!」
「うん、楽しみにしているわ! またええ勝負しましょう!」
「! ぐっ……」
華恋はスタンド前に向かい、声援に応えようと、海たちから離れる。
「厄介相手にも神対応ってやつ……? 今日のところは完敗だわ……」
悔しそうに呟いて、冬は引きあげていく。
「自分的には殻を突き破ったつもりでしたが……それすらも軽く凌駕してしまいますか、スターの輝きというものは……」
海がスタンドに手を振る華恋を見つめながら淡々と呟く。
「海ちゃん……」
「関西勢、流石に手強いな……」
スタンドで真帆と炎仁が立ちつくす。
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