疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第10レース(4)関西勢の意気込み

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「うおおおっ!」

「舐めんなワレコラ!」

 兵庫県にある関西競竜学校のコースで疾風轟騎乗のハヤテウェントゥスと火柱ほむら騎乗のマキシマムフレイムが激しく競り合いながら駆け抜ける。轟が叫ぶ。

「よっしゃー! ワイの勝ちや!」

「ちっ、もう一回や!」

「おう、なんぼでもやったらあ!」

「……そこまでです」

 ナデシコフルブルムに騎乗する撫子グレイスが二人を制止する。

「なんや、グレイス! 水を差すなや!」

「教官さんの話をもう忘れたんですか? どれだけ鳥頭なんですの?」

「なんやと! ……なんて言うてた?」

「さあ?」

 ほむらの問いに轟が首を傾げる。グレイスがため息をつく。

「関東や地方の競竜学校の方たちがいらっしゃっていて、その人たちに練習場所を貸すから練習時間は短くなるって言うてはったでしょ……」

「そ、そういえば、そんなこと言うてたかな?」

「言ってたかもしれんな、あっはっは!」

「……時間は限られている、邪魔だからどけ……後、うるさいぞバカコンビ」

 ステラネーロに騎乗する天ノ川渡が冷めた声で告げる。二人が色めき立つ。

「バ、バカって言うたなワレ⁉ 轟なんかと一緒にすなや!」

「いや、なんかってなんやねん!」

「……集中したいんだ、頼むから静かにしてくれ」

 渡が真面目な声色で呟く。グレイスがほむらと轟に告げる。

「お二人とも元気があるのは大変結構……ただ、これ以上はオーバーワーク気味です。今日はもう上がりなさい」

「む……しゃあないな」

 ほむらと轟が引き上げていく。グレイスが渡に話しかける。

「併走しても構いまへんか?」

「……ああ」

「それじゃ……スタート!」

 渡とグレイスのドラゴンが併走する。どちらも鋭く素早い走りを見せるが、僅かに渡が先着する。渡が一息つく。

「……ふう」

「当たり前ですが上々の仕上がりですなあ、死角はないのでは?」

「レースに絶対は無い……特に兄貴相手には……もう一本だけ走ってくる」

「ふむ、油断も無いと……これはなんとも頼もしい限りですなあ」

 渡の背中を見て、グレイスが頷く。

「見たか、乱舞!」

「ひぃっ⁉ な、なんでっか……金剛はん?」

 教室で鳳凰院金剛に声をかけられ、安寧乱舞はその巨体をビクッとさせる。

「お前なあ、いきなり声かけられたくらいでビビりすぎやろ……まあ、それはええわ、さっき関東の連中見たんやけど、こないだTDLで世話になった、褐色の兄ちゃんとパツキンの兄ちゃんおったで!」

「あ、見てないですけど……出走表で顔写真確認出来るんで知ってはいました」

「え? そうなん?」

「金剛、それくらい端末で確認しとけや~ホンマアナログ人間やな~」

 教室に入ってきた轟がからかいの声をかける。その後ろにいた渡が呟く。

「お前もついさっき知っただろ、アホ……」

「なっ! バカの次はアホって言うたな、渡?」

 轟を無視し、渡は席に座る。華恋がゆとりに声をかける。

「でも、私らもTDLで会うたあの二人と同じレース出走とは驚いたなあ?」

「世間は狭い……」

 ゆとりが頷く。ほむらが話に加わる。

「その二人なら夏に走ったけど、ワシが軽く捻ってやったで、大したことあらへん」

「ええ、そうなん?」

「と……言いたいところやけど、さっき見かけたときはなかなか良い面構えしとったからな、油断大敵やな。『男子三日会わざれば刮目してみよ』や。男子ちゃうけど」

「珍しく、ほむらはんがええこと言うてはりますね」

 教室に入ってきたグレイスが笑う。ゆとりが頷く。

「確かに、無理して難しい言葉を用いている……」

「ワシはええことしか言わんわ! って、ゆとりも何気に馬鹿にしとるやろ!」

「静かに、ほむらはん。これから教官がいらっしゃいます、皆さん席について……交流レースの対策についての話をされるそうです。各々気になる相手もいらっしゃるようですが、マッチレースをするわけではありまへん、他のデータもしっかり頭に入れて、交流レースに臨みましょう。なんと言っても、今回は地元の阪神レース場での開催……恥ずかしいレースは出来まへんから、お分かりですね?」

「……」

 一人を除いた全員が真面目な表情で頷く。それを見て、グレイスも満足気に頷く。

「紅蓮炎仁、こんなに早く再戦するとはな……今度も勝って、紺碧真帆ちゃんのハートはワイがガッツリ頂くで……」

 炎仁の顔写真を見ながら、轟だけが不真面目なことを呟く。
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