疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第5レース(1)女子トーク

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「ペア訓練?」

 入浴から部屋に戻った飛鳥が首を傾げる。

「なんだ、聞いてなかったのかよ、お嬢」

「明日から私たちCクラスのみですが、ペア訓練なるものを取り入れるそうです」

「ああ、そういえば教官がそのようなことをおっしゃっていましたね……」

 真帆の言葉に飛鳥が頷く。

「ただ、ペアって何すんだ? そんなコースあったか?」

「いえ、聞いたことはないですね……」

「あれか、二頭での脚を結んで、二頭六脚とかやるのか?」

「た、大変そうですね……」

「そんな大事故につながりそうなことやるわけがないでしょう……」

 青空と真帆の会話に呆れながら、飛鳥が自分の席に座る。

「じゃあ、どういうことをやるんだよ?」

「単純に併せ竜のメニューを増やすということじゃないのかしら?」

「あ、やっぱりそういうことですよね……」

 真帆は安堵の表情を見せる。青空が笑みを浮かべる。

「真帆、安心していて良いのか?」

「え?」

「どうにもお前さんは気を抜きがちな傾向が見られるな……」

 青空が両腕を組む。真帆が尋ねる。

「ど、どういうことですか?」

「ペア訓練だぞ、炎仁の奴とペアを組まなくて良いのか?」

「⁉」

「のんびりしていると、またアタシが取っちまうぞ~」

「そ、それは困ります!」

 悪戯な笑みを浮かべる青空に対し、真帆が慌てて声を上げる。それを聞いていた飛鳥がため息をつく。

「……貴女は彼と先日マッチレースをしたばかりでしょう。わたくしと紅蓮君とは因縁がありますわ。そろそろ併せ竜をする頃合いではないかしら」

「そ、その、前から聞こうと思っていたんですが、因縁ってなんなんですか⁉」

「え? いや、別に大したことはありません、個人的な因縁ですわ」

「大したことなければ因縁なんて生まれません!」

「まあ、そんなにお気になさらずに……」

「気になりますよ!」

 真帆が大声を上げる。

「何を騒いでいるのですか……」

 入浴を終えた海が部屋に戻ってくる。

「いや、ペア訓練についてだな……」

「ああ、そのことですか……」

 海は自分の席に座る。

「やっぱり炎仁とはアタシがペアを組むべきだな、ドラゴンの脚質も似ているし」

「似たような脚質では大した訓練にならないでしょう……お互いずっとぎりぎりまで待機しているおつもりですか?」

「末脚の追い比べってのもおもしれえだろう」

「実際のレースでそのようなケースはほとんどないでしょう。わたくしのドラゴンと走らせた方が良い訓練になりますわ」

「脚質の問題か? それなら真帆のドラゴンでも良いだろうが」

「……はっきり言ってしまえば、紺碧さんは流石に丁寧な騎乗をなされていると思いますが、まだまだレース経験は乏しいです。わたくしと走った方が紅蓮君にとっても良い経験になるでしょう」

「は、はっきりと言うな」

「客観的な事実を述べているまでです」

「真帆もなんか言い返せよ」

「ははっ、レース経験が乏しいのは本当のことですから……」

 真帆は苦笑交じりで頷く。

「紺碧さんは天ノ川君と併走すると、良い勉強になるのではないですか?」

「天ノ川さんと……」

「自信を失ってしまうリスクもございますけどね」

 飛鳥がくすっと笑う。

「じゃあ、アタシは誰と走るんだ?」

「草薙さんなんかよろしいのではありませんか?」

「旦那か……」

「荒っぽい騎乗はよく似ていらっしゃいます。紺碧さんもそう思いませんか?」

「そ、そう言われるとそうですね……」

 真帆が遠慮がちに頷く。

「え~! あんな荒っぽいかアタシ?」

「まあ、荒っぽいにも色々ありますが……あの方は確か野球でちょっと有名な方だったのですよね? やはりフィジカル面で優れているだけあって、騎乗自体はわりとしっかりされているかと思います」

「ちょっと待て、じゃあ、アタシはなんなんだよ?」

「単純に荒いですね」

「良いとこなしじゃねえか!」

「で、でも、サンシャインノヴァにはよく合っていると思いますよ」

 真帆がフォローする。

「これはあくまでもわたくしの勝手な評価ですから、教官方がどのように評価するかはまた別の話です。あまり気にしないで下さい」

「思いっきり気になるけどな……まあいいや、クラス長、何黙っているんだよ」

 青空が海に声をかける。

「話に参加していたつもりはありませんが」

「じゃあ参加しろよ、誰とペア訓練したい?」

「別に誰とでも良いですよ……」

「なんだよ、ノリ悪いな」

「それより大事なことがありますので……」

「大事なこと? なんですか?」

 真帆が尋ねる。

「男子の副クラス長を誰にお願いするかということです」

「ああ……」

「そんなの簡単ですわ、天ノ川君で良いでしょう」

 飛鳥が当然だとばかりに翔の名を挙げる。

「寝坊・遅刻の常習犯な方にはちょっと……」

「それはそうですが、実力には疑いの余地はありません」

「そういう考え方もありますが……」

「旦那で良いんじゃねえのか?」

 青空は嵐一の名を挙げる。

「草薙さんですか……頼めばやってくれそうではありますが……」

「最年長だし、ちょうど良いだろう」

「年功序列というのもいささか単純過ぎる気が……」

「単純で悪かったな」

 青空が顔をしかめる。海はそれを気にせず、真帆に尋ねる。

「紺碧さんは誰が良いと思いますか?」

「え、そ、そうですね……炎ちゃ、紅蓮君はどうでしょうか?」

「紅蓮君は真面目ですね……ただ、あまり負担をかけたくはない気もします」

「ビリッケツ評価だからな」

「そういう貴女は彼に負けたじゃありませんか」

「……三者三様のお答えですね。これは悩みますね……」

「あの……」

 真帆が口を挟むべきかどうか迷う。一人忘れていることを。
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