16 / 63
第一章
第4レース(3)トラブルメーカー
しおりを挟む
「ああ! もう!」
鏡の前で飛鳥が苛立った声を上げる。隣に立つ青空が眠い目を擦りながら尋ねる。
「んだよ……うるせえなあ、朝からなにをイライラしてんだよ……?」
「また目覚ましが鳴らなかったのです!」
「目覚まし?」
「そうです、目覚まし時計! わたくし朝は弱いから、必ず起きることが出来るようにセットしておいたのに……また作動しませんでしたわ! 不良品かしら?」
飛鳥が憤慨した様子で歯を磨き、口をゆすごうと水を含む。
「ああ、悪い、それ、アタシが壊したわ」
「ぶふっ!」
「うわ、汚ねえなあ! こっち向いて水吐くなよ!」
「……壊した?」
「え? ああ、音があまりにうるせえからよ。こうガンっと叩いて……」
しばらくの間、沈黙が流れる。そのころコースでは……。
「えっと、Cクラス全員揃ったかな、クラス長?」
「……クラス長を拝命した覚えが全くないのですが」
仏坂の問いに海が眼鏡を触りながら不服そうに答える。
「いや~なんだかんだ一番真面目そうだからさ」
「異議なし!」
レオンが拍手する。皆もそれにつられて拍手する。海はため息をつく。
「私が異議ありなのですが……これも経験です。クラス長のお役目承ります」
「さすが! 頼もしい!」
「……例えば副クラス長を私が決めても良いですか?」
「あ、ああ、それは構わないよ。誰にする?」
海は周囲を見渡した後、呟く。
「……その件に関しては保留とさせて頂きます」
「あ、そう……ま、いいや、決まったら教えて。それで全員揃ったのかな?」
「朝日さんと撫子さんがまだです……」
「ああ、せっかく天ノ川君が寝坊しなかったのに、今日はあの二人か……」
「信じられませんわ! うるさいからって目覚まし時計を壊す⁉」
「だから悪かったって言ってんだろ!」
飛鳥と青空が言い争いをしながらコースに現れる。仏坂が笑顔で告げる。
「……二人とも、罰走ね」
「貴女のせいですわ!」
「起きなかったのはてめえの責任でもあるだろうが!」
二人は言い争いを続けながら、走り出す。仏坂がため息をつく。
「今日が合同訓練じゃなくて良かったよ……」
「三日月さん、やっぱり起こしてあげた方が良かったんじゃ……?」
真帆が海に尋ねる。
「お二人とも寝起きが絶望的に悪いですから、私は一度蹴られました……辛抱強く待っていては私たちまで遅刻です。はっきり言って付き合っていられません」
海は二人に構うつもりはないと断言する。
「……」
「おい、カンペキちゃんよ」
ドラゴンを順繰りで先頭を走らせるローテーション走法訓練を行っている最中、青空が真帆に語りかける。
「……紺碧ですよ。なにか?」
「勝負しねえ?」
「は?」
「ただ単純に走ってるのも飽きてきたんだよ」
「そういう訓練ですから」
「まあ、そうお堅いこと言うなって!」
「ちょ、ちょっと、競り掛けないで下さい!」
サンシャインノヴァが外側から竜体を併せに行き、コンペキノアクアもやや興奮した様子を見せ、先頭のミカヅキルナマリアを躱そうと前に進み出す。
「!」
「ああ、もう!」
「へへ、やる気あるみたいじゃねえか、そんじゃ、あそこのハロン棒まで競争だ!」
「くっ!」
二頭は列から離れて、激しいマッチレースを始めてしまう。青空が笑う。
「お嬢や眼鏡ともまた違う走りのドラゴンだ! 前目の脚質でも色々あんだな!」
(振り切れそうで振り切れない……一瞬の爆発力が武器かと思ったけど、長い脚も使えるのね……それに鞍上の朝日さん、でたらめな騎乗に見えるけど、ドラゴンを気持ち良く走らせているわ。こういうスタイルもあるのね、野生的というか……)
真帆は内心、青空とサンシャインノヴァに感心する。
「よっしゃ! 差し切った!」
「くっ……」
「え~見事なマッチレースだったけど、訓練中に勝手なことしちゃ駄目だよ~二人とも一旦ドラゴン降りて、コース内側で腕立てと腹筋50回ずつね」
仏坂が注意する。真帆はつまらない誘いに乗ってしまったことを後悔する。
「よお、眼鏡クラス長、隣良いか?」
その日の夕、食堂で飛鳥と真帆と三人で食事をしている海に青空が話しかける。
「……どうぞ」
青空が海の隣に座る。
「へへっ、今日の飯も美味そうだな」
「ご用件は?」
「え?」
「いえ、なにか用事があって来られたのではないですか?」
「……ああ、副クラス長の件だけどよ、どうするんだ?」
「……クラス長自体も別に大した仕事があるわけではないということを、先程仏坂教官に改めて確認しました。なにかあった時にお手伝い頂きたいので、男女一人ずつお願いしようかと思っていますが」
「アタシがやってやってもいいぜ」
「は?」
「だからアタシがやってやっても良いって、副クラス長」
「……いえ、実はたった今、撫子さんにお願いしようと話がまとまった所で……」
「う~ん、アンタとお嬢だと真面目過ぎるな」
「わ、わたくしでは不服だと⁉」
海の向かいに座る飛鳥が声を上げる
「そう怒るなよ……なんつーか、ちょっと面白味に欠けると思ってな」
「つまり、人の上に立つ器ではないということですの?」
「そういうことは言ってねえよ」
「そういう風に聞こえます。不愉快です、失礼します!」
「……勝手に話を進めてしまったことは申し訳ありませんが、私なりに考えた上でのことです。貴女の思い付きでかき回されては堪りません」
飛鳥と真帆が勢いよく席を立ち、その場を離れる。青空が頬杖をつく。
「ちっ、分からねえ奴らだな~」
「……真帆、どうかしたのか?」
近くの席に座っていた炎仁が真帆に小声で尋ねる。
「炎ちゃん……実は……」
「……ふ~ん」
「このままだと朝日さんが孤立してしまう。良くないわ……」
「今日は真帆も結構被害被っていたじゃないか」
「確かに……でも、彼女の実力はかなりのもので学ぶべき点は多いとも思ったわ」
「そうか……」
炎仁が立ち上がって、青空に近づく。
「……なんだよ」
「明日、俺とマッチレースしてくれないか?」
「え、炎ちゃん⁉」
炎仁の突然の申し出に真帆は驚く。
「タイマンか? 面白え、その話乗ったぜ!」
「う、受けた⁉」
笑顔を浮かべ、その申し出を受ける青空にも真帆は重ねて驚く。
鏡の前で飛鳥が苛立った声を上げる。隣に立つ青空が眠い目を擦りながら尋ねる。
「んだよ……うるせえなあ、朝からなにをイライラしてんだよ……?」
「また目覚ましが鳴らなかったのです!」
「目覚まし?」
「そうです、目覚まし時計! わたくし朝は弱いから、必ず起きることが出来るようにセットしておいたのに……また作動しませんでしたわ! 不良品かしら?」
飛鳥が憤慨した様子で歯を磨き、口をゆすごうと水を含む。
「ああ、悪い、それ、アタシが壊したわ」
「ぶふっ!」
「うわ、汚ねえなあ! こっち向いて水吐くなよ!」
「……壊した?」
「え? ああ、音があまりにうるせえからよ。こうガンっと叩いて……」
しばらくの間、沈黙が流れる。そのころコースでは……。
「えっと、Cクラス全員揃ったかな、クラス長?」
「……クラス長を拝命した覚えが全くないのですが」
仏坂の問いに海が眼鏡を触りながら不服そうに答える。
「いや~なんだかんだ一番真面目そうだからさ」
「異議なし!」
レオンが拍手する。皆もそれにつられて拍手する。海はため息をつく。
「私が異議ありなのですが……これも経験です。クラス長のお役目承ります」
「さすが! 頼もしい!」
「……例えば副クラス長を私が決めても良いですか?」
「あ、ああ、それは構わないよ。誰にする?」
海は周囲を見渡した後、呟く。
「……その件に関しては保留とさせて頂きます」
「あ、そう……ま、いいや、決まったら教えて。それで全員揃ったのかな?」
「朝日さんと撫子さんがまだです……」
「ああ、せっかく天ノ川君が寝坊しなかったのに、今日はあの二人か……」
「信じられませんわ! うるさいからって目覚まし時計を壊す⁉」
「だから悪かったって言ってんだろ!」
飛鳥と青空が言い争いをしながらコースに現れる。仏坂が笑顔で告げる。
「……二人とも、罰走ね」
「貴女のせいですわ!」
「起きなかったのはてめえの責任でもあるだろうが!」
二人は言い争いを続けながら、走り出す。仏坂がため息をつく。
「今日が合同訓練じゃなくて良かったよ……」
「三日月さん、やっぱり起こしてあげた方が良かったんじゃ……?」
真帆が海に尋ねる。
「お二人とも寝起きが絶望的に悪いですから、私は一度蹴られました……辛抱強く待っていては私たちまで遅刻です。はっきり言って付き合っていられません」
海は二人に構うつもりはないと断言する。
「……」
「おい、カンペキちゃんよ」
ドラゴンを順繰りで先頭を走らせるローテーション走法訓練を行っている最中、青空が真帆に語りかける。
「……紺碧ですよ。なにか?」
「勝負しねえ?」
「は?」
「ただ単純に走ってるのも飽きてきたんだよ」
「そういう訓練ですから」
「まあ、そうお堅いこと言うなって!」
「ちょ、ちょっと、競り掛けないで下さい!」
サンシャインノヴァが外側から竜体を併せに行き、コンペキノアクアもやや興奮した様子を見せ、先頭のミカヅキルナマリアを躱そうと前に進み出す。
「!」
「ああ、もう!」
「へへ、やる気あるみたいじゃねえか、そんじゃ、あそこのハロン棒まで競争だ!」
「くっ!」
二頭は列から離れて、激しいマッチレースを始めてしまう。青空が笑う。
「お嬢や眼鏡ともまた違う走りのドラゴンだ! 前目の脚質でも色々あんだな!」
(振り切れそうで振り切れない……一瞬の爆発力が武器かと思ったけど、長い脚も使えるのね……それに鞍上の朝日さん、でたらめな騎乗に見えるけど、ドラゴンを気持ち良く走らせているわ。こういうスタイルもあるのね、野生的というか……)
真帆は内心、青空とサンシャインノヴァに感心する。
「よっしゃ! 差し切った!」
「くっ……」
「え~見事なマッチレースだったけど、訓練中に勝手なことしちゃ駄目だよ~二人とも一旦ドラゴン降りて、コース内側で腕立てと腹筋50回ずつね」
仏坂が注意する。真帆はつまらない誘いに乗ってしまったことを後悔する。
「よお、眼鏡クラス長、隣良いか?」
その日の夕、食堂で飛鳥と真帆と三人で食事をしている海に青空が話しかける。
「……どうぞ」
青空が海の隣に座る。
「へへっ、今日の飯も美味そうだな」
「ご用件は?」
「え?」
「いえ、なにか用事があって来られたのではないですか?」
「……ああ、副クラス長の件だけどよ、どうするんだ?」
「……クラス長自体も別に大した仕事があるわけではないということを、先程仏坂教官に改めて確認しました。なにかあった時にお手伝い頂きたいので、男女一人ずつお願いしようかと思っていますが」
「アタシがやってやってもいいぜ」
「は?」
「だからアタシがやってやっても良いって、副クラス長」
「……いえ、実はたった今、撫子さんにお願いしようと話がまとまった所で……」
「う~ん、アンタとお嬢だと真面目過ぎるな」
「わ、わたくしでは不服だと⁉」
海の向かいに座る飛鳥が声を上げる
「そう怒るなよ……なんつーか、ちょっと面白味に欠けると思ってな」
「つまり、人の上に立つ器ではないということですの?」
「そういうことは言ってねえよ」
「そういう風に聞こえます。不愉快です、失礼します!」
「……勝手に話を進めてしまったことは申し訳ありませんが、私なりに考えた上でのことです。貴女の思い付きでかき回されては堪りません」
飛鳥と真帆が勢いよく席を立ち、その場を離れる。青空が頬杖をつく。
「ちっ、分からねえ奴らだな~」
「……真帆、どうかしたのか?」
近くの席に座っていた炎仁が真帆に小声で尋ねる。
「炎ちゃん……実は……」
「……ふ~ん」
「このままだと朝日さんが孤立してしまう。良くないわ……」
「今日は真帆も結構被害被っていたじゃないか」
「確かに……でも、彼女の実力はかなりのもので学ぶべき点は多いとも思ったわ」
「そうか……」
炎仁が立ち上がって、青空に近づく。
「……なんだよ」
「明日、俺とマッチレースしてくれないか?」
「え、炎ちゃん⁉」
炎仁の突然の申し出に真帆は驚く。
「タイマンか? 面白え、その話乗ったぜ!」
「う、受けた⁉」
笑顔を浮かべ、その申し出を受ける青空にも真帆は重ねて驚く。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる