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第一章
第2レース(1)そろそろの仕掛け
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「え、炎ちゃん、お弁当作ってきたから、一緒に食べよう?」
学校の昼休み、炎仁がコンビニで買ってきた軽食を食べようとしたところ、やや青みがかったロングのストレートヘアーでおでこを出しているのが特徴的な女子が布に包まれた弁当を持って話しかけてくる。
「ああ、本当か? 悪いな、真帆」
「気にしないで」
真帆と呼ばれた女子は可愛らしい笑顔を浮かべ、炎仁の机に弁当を広げる。
「今日は給食が無い日だって今朝気付いてな」
「久々の登校だものね」
「最近ちょっとバタバタしていたからな……」
「コンビニも良いけど、やっぱりどうしても栄養偏っちゃうから」
「おおっ! 美味そうだな~」
「炎ちゃんが好きなものを集めたから……」
「おっ、愛妻弁当ってやつか?」
二人に対し、近くの席に座っていた男子生徒が声をかける。
「も、もう! からかわないでよ、佐藤君!」
「い、いや、俺鈴木だけど……」
「なんか言ったか、ヒロシ?」
「いや、タケシだよ……」
悪気の全く無さそうな炎仁の言葉に鈴木タケシが悲しそうに俯く。
「ほら、邪魔しちゃだめよ、ヒロシ君」
「お、お前まで間違うなよ!」
タケシの反応にショートカットの女子がクスクスと笑う。
「それは別にいいから」
「良くはねえだろ」
「とにかくほら、勉強するわよ」
「ええ、飯くらいゆっくり食わせろよ……」
「何言っているのよ、アタシと一緒の高校に行くんでしょ? タケシ君の成績じゃあ時間がいくらあっても足りないんだからね」
「は、はっきりと言ってくれるな……」
「そこで濁してもしょうがないでしょ」
「大変そうね、カズミ」
真帆がショートカットの女子に声をかける。
「まあ、しょうがないわね。それにしても羨ましいわよ、推薦組が」
「そう……」
「あ、変な意味に取らないでよ」
「え?」
「それにふさわしい努力をしているのは知っているから……そうだ、これ見たわよ、『竜術競技で四年に一度の世界大会、ジパング女子勢初のメダルも狙える期待の新鋭、紺碧真帆(こんぺきまほ)』!」
カズミと呼ばれた女子が自身の端末に表示された真帆のインタビュー記事を向かい合って座るタケシに見せつける。真帆が恥ずかしがる。
「や、やめてよ、カズミ」
「『可愛らしい笑顔や美しいルックスも注目』って書かれているわよ」
「だ、だからやめてってば」
「へえ、取材されるなんてすげえなあ」
「べ、別に大したことないわよ、高橋君……」
「いや、鈴木な……」
「東京の文武両道で有名な名門校に早々と推薦が決まったんだから」
「なんでお前が威張るんだよ」
どうだとばかりに胸を張るカズミに対し、タケシが冷めた目を向ける。
「良いじゃない、将来のメダリストと親友だなんて、なかなか無いわよ」
「すっかり脇役ポジションじゃねえかよ」
「人生ってのはね、『主役』と『モブ』に分かれるものなのよ」
「そ、そんなこと思ってないわよ」
真帆が慌てた様子を見せると、カズミが笑う。
「冗談よ、冗談……でも、良いわよね、一緒の学校に推薦が決まっているんだから」
「い、いや、それは……」
真帆が恥ずかしそうに俯く。
「しかしまさか、炎仁にも推薦の話が来るとはなあ」
「だって、紅蓮君、埼玉県の選抜なんでしょ?」
「県じゃなくさいたま市だよ、市の選抜。そのレベルで名門高校の監督の目に留まるとは……『持っている』な~」
「……サトシ、その話だけどな……」
食事をさっと済ませた炎仁が口元をハンカチで拭いながら口を開く。
「いや、タケシな……」
「実は……」
「え、炎ちゃん!」
真帆が顔を上げて炎仁の方に向き直る。
「ど、どうした?」
「今度の週末空いている?」
「週末?」
「ちょっと、東京に一緒に行かない?」
「なんでだよ」
「な、なんでって……」
真帆が横目でカズミを見る。カズミが呆れ気味に答える。
「普段、ドラゴンに颯爽と跨って、あんなに高い飛越を見せているのに、プライベートではその程度の障害も越えられないのね……」
「そ、そう言われても……」
「『そろそろ関係を進展させたい』って言ってたでしょ? 自分でなんとかなさい」
「どうかしたのか?」
炎仁が不思議そうに首を傾げる。真帆があらためて炎仁を見つめる。
「えっと……高校の下見に付き合って欲しいの!」
「ええ?」
「いや、来年、一緒の学校行くんだから良いだろ、痛っ!」
「ちょっとアンタは黙ってなさい」
「カ、カズミ、すねを蹴るなよ……」
「ご、ごめん、武者小路君、ちょっと静かにしていてくれる?」
「鈴木だよ!」
「下見か……」
「う、うん……通学ルートとか確認しておきたいなって思って……そ、それで、近所にオシャレなカフェがあるから、ついでに寄ってみたいかな~なんて……」
真帆がカズミに視線を送る。カズミが苦笑を浮かべる。
「まあ、アンタにしては精一杯のジャンプか……相当低いハードルだけど」
「吉田さん、さっきから何の話をしているんだ?」
「いえいえ、こっちは別に気にしないで」
カズミが炎仁に対して手を振る。真帆が炎仁に重ねて問う。
「そ、それでどうかな?」
「い、いや、それなんだがな……」
「どうした、炎仁?」
「カゲボウシ、さっきも言おうと思ったんだが……」
「タケシだよ!」
タケシの叫びを無視して、炎仁が意を決したように真帆の目を見て話す。
「……俺、高校には行かない。推薦も断った」
「ええっ⁉」
真帆が驚く。
「え、炎ちゃん、お弁当作ってきたから、一緒に食べよう?」
学校の昼休み、炎仁がコンビニで買ってきた軽食を食べようとしたところ、やや青みがかったロングのストレートヘアーでおでこを出しているのが特徴的な女子が布に包まれた弁当を持って話しかけてくる。
「ああ、本当か? 悪いな、真帆」
「気にしないで」
真帆と呼ばれた女子は可愛らしい笑顔を浮かべ、炎仁の机に弁当を広げる。
「今日は給食が無い日だって今朝気付いてな」
「久々の登校だものね」
「最近ちょっとバタバタしていたからな……」
「コンビニも良いけど、やっぱりどうしても栄養偏っちゃうから」
「おおっ! 美味そうだな~」
「炎ちゃんが好きなものを集めたから……」
「おっ、愛妻弁当ってやつか?」
二人に対し、近くの席に座っていた男子生徒が声をかける。
「も、もう! からかわないでよ、佐藤君!」
「い、いや、俺鈴木だけど……」
「なんか言ったか、ヒロシ?」
「いや、タケシだよ……」
悪気の全く無さそうな炎仁の言葉に鈴木タケシが悲しそうに俯く。
「ほら、邪魔しちゃだめよ、ヒロシ君」
「お、お前まで間違うなよ!」
タケシの反応にショートカットの女子がクスクスと笑う。
「それは別にいいから」
「良くはねえだろ」
「とにかくほら、勉強するわよ」
「ええ、飯くらいゆっくり食わせろよ……」
「何言っているのよ、アタシと一緒の高校に行くんでしょ? タケシ君の成績じゃあ時間がいくらあっても足りないんだからね」
「は、はっきりと言ってくれるな……」
「そこで濁してもしょうがないでしょ」
「大変そうね、カズミ」
真帆がショートカットの女子に声をかける。
「まあ、しょうがないわね。それにしても羨ましいわよ、推薦組が」
「そう……」
「あ、変な意味に取らないでよ」
「え?」
「それにふさわしい努力をしているのは知っているから……そうだ、これ見たわよ、『竜術競技で四年に一度の世界大会、ジパング女子勢初のメダルも狙える期待の新鋭、紺碧真帆(こんぺきまほ)』!」
カズミと呼ばれた女子が自身の端末に表示された真帆のインタビュー記事を向かい合って座るタケシに見せつける。真帆が恥ずかしがる。
「や、やめてよ、カズミ」
「『可愛らしい笑顔や美しいルックスも注目』って書かれているわよ」
「だ、だからやめてってば」
「へえ、取材されるなんてすげえなあ」
「べ、別に大したことないわよ、高橋君……」
「いや、鈴木な……」
「東京の文武両道で有名な名門校に早々と推薦が決まったんだから」
「なんでお前が威張るんだよ」
どうだとばかりに胸を張るカズミに対し、タケシが冷めた目を向ける。
「良いじゃない、将来のメダリストと親友だなんて、なかなか無いわよ」
「すっかり脇役ポジションじゃねえかよ」
「人生ってのはね、『主役』と『モブ』に分かれるものなのよ」
「そ、そんなこと思ってないわよ」
真帆が慌てた様子を見せると、カズミが笑う。
「冗談よ、冗談……でも、良いわよね、一緒の学校に推薦が決まっているんだから」
「い、いや、それは……」
真帆が恥ずかしそうに俯く。
「しかしまさか、炎仁にも推薦の話が来るとはなあ」
「だって、紅蓮君、埼玉県の選抜なんでしょ?」
「県じゃなくさいたま市だよ、市の選抜。そのレベルで名門高校の監督の目に留まるとは……『持っている』な~」
「……サトシ、その話だけどな……」
食事をさっと済ませた炎仁が口元をハンカチで拭いながら口を開く。
「いや、タケシな……」
「実は……」
「え、炎ちゃん!」
真帆が顔を上げて炎仁の方に向き直る。
「ど、どうした?」
「今度の週末空いている?」
「週末?」
「ちょっと、東京に一緒に行かない?」
「なんでだよ」
「な、なんでって……」
真帆が横目でカズミを見る。カズミが呆れ気味に答える。
「普段、ドラゴンに颯爽と跨って、あんなに高い飛越を見せているのに、プライベートではその程度の障害も越えられないのね……」
「そ、そう言われても……」
「『そろそろ関係を進展させたい』って言ってたでしょ? 自分でなんとかなさい」
「どうかしたのか?」
炎仁が不思議そうに首を傾げる。真帆があらためて炎仁を見つめる。
「えっと……高校の下見に付き合って欲しいの!」
「ええ?」
「いや、来年、一緒の学校行くんだから良いだろ、痛っ!」
「ちょっとアンタは黙ってなさい」
「カ、カズミ、すねを蹴るなよ……」
「ご、ごめん、武者小路君、ちょっと静かにしていてくれる?」
「鈴木だよ!」
「下見か……」
「う、うん……通学ルートとか確認しておきたいなって思って……そ、それで、近所にオシャレなカフェがあるから、ついでに寄ってみたいかな~なんて……」
真帆がカズミに視線を送る。カズミが苦笑を浮かべる。
「まあ、アンタにしては精一杯のジャンプか……相当低いハードルだけど」
「吉田さん、さっきから何の話をしているんだ?」
「いえいえ、こっちは別に気にしないで」
カズミが炎仁に対して手を振る。真帆が炎仁に重ねて問う。
「そ、それでどうかな?」
「い、いや、それなんだがな……」
「どうした、炎仁?」
「カゲボウシ、さっきも言おうと思ったんだが……」
「タケシだよ!」
タケシの叫びを無視して、炎仁が意を決したように真帆の目を見て話す。
「……俺、高校には行かない。推薦も断った」
「ええっ⁉」
真帆が驚く。
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