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第一章
第12話(1)メンタルを攻める
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12
「さあ、次はどいつだ!」
志波田が吠える。
「ただでさえ、あれだけのマッチョだというのに、どんどんと筋力を増すことが出来たら、手がつけられないな……」
「お手上げかしら?」
日光の呟きに照美は苦笑交じりで反応する。
「そういうわけにもいかないが、一体どうしたものか……」
「僕に任せてもらおうか」
「!」
「井伊谷さん?」
ボールを拾った朱雀がボールを指先で器用にまわす。日光は戸惑う。
「し、しかし……」
「大丈夫なの?」
「ああ、問題はないよ」
照美の問いに答え、朱雀は颯爽と前を向き、志波田と対峙する。志波田が目を細める。
「ほう……次はおめえか」
「男装の麗人ではご不満かい?」
「自分で麗人とか言うかよ……別に俺は良いんだが、おめえは構わねえのか?」
「? 構わないとは?」
「俺は女相手だろうと手加減が出来ない質なんだよ」
「ははっ……」
朱雀が笑う。志波田が首を傾げる。
「なにがおかしい?」
「いや、かえってすがすがしいと思ってさ……いざ尋常に勝負!」
「! むん!」
朱雀の鋭い投球も志波田は難なくキャッチしてみせる。
「我ながらなかなかの球だと思ったが、さすがだね」
「当然だ、俺を誰だと思ってやがる?」
「ならば、搦め手でいかせてもらおう……」
「ん?」
朱雀が右手で銃の形を作り、志波田に向けて呟く。
「『垢バン』……」
「む!」
志波田の顔がわずかに曇る。朱雀が尋ねる。
「どうかしたかな?」
「て、てめえ……何をした⁉」
志波田が球を投げるが、威力を欠き、朱雀に簡単にキャッチされてしまう。
「『WhoTubae』で、顔を隠して上げている筋トレ動画……」
「むっ!」
朱雀の小声での呟きに志波田の顔がやや曇る。朱雀がすかさず投じる。
「むむ!」
「『ツブッター』で、日課となっている筋肉自撮り……」
「むむっ!」
「おや、どうかしたかい?」
「う、うるせえ!」
志波田が再び球を投げるが、ただの山なりのボールになってしまう。それをキャッチした朱雀が悪い笑みを浮かべながら呟く。
「『ウィンスタ』でのマッチョ相手に男女見境なく送りつけるDM……」
「むむむっ!」
志波田の顔が露骨に曇る。
「男女見境ないというのが……」
「だ、黙れ!」
志波田が激しく動揺する。それを見て、朱雀がボールを投じる。
「隙あり!」
「はっ⁉」
「B組、6ヒット!」
「おおっと! これは番狂わせ! 井伊谷朱雀が志波田勝にボールを当てました!」
「ぐっ……て、てめえ……」
志波田が朱雀を睨みつける。朱雀はわざとらしく両手を広げる。
「悪く思わないでくれたまえ。君とまともに投げ合ったら体が持たないからね」
「……フィジカル面ではなく、メンタル面を攻めるか……」
「なるほどね……」
日光と照美が感心する。朱雀の方にボールが転がる。
「おっと、こちらにボールが転がってきた……これは幸運だ。さっさと決めてしまおう!」
ボールを拾った朱雀が相手陣内の後方に立つ天武めがけて鋭いボールを投げ込む。
「ふん……!」
中性的な雰囲気を纏った、長い黒髪を後ろで一つにまとめた小柄な生徒が横っ飛びで、そのボールをキャッチし、華麗に一回転して着地する。朱雀が感嘆する。
「ほう、今のをキャッチするとは……やるね」
「いささか調子に乗り過ぎだよ、B組の癖に……」
中性的な生徒が朱雀を静かに睨みつける。朱雀が肩をすくめる。
「とは言っても、ここまできたら優先的に大将首を狙うのが定石だろう? 違うかい? 小森一蘭(こもりいちらん)くん……いや、『お蘭くん』だったかな?」
「君がその呼び名を呼ばないでくれ、非常に不愉快だ……」
小森と呼ばれた男子が朱雀を再び睨みつける。朱雀が軽く頭を下げる。
「それは申し訳ない。気に入っているのかと思って」
「そういう意味ではない……」
「え?」
「呼ぶ者の問題だよ……」
「なるほど、難しいものだね」
朱雀がわざとらしく頷いてみせる。小森が舌打ちする。
「ちっ……さっさと終わらせるよ!」
「おっと!」
小森の投じた球を朱雀がキャッチする。
「悪くはなかったが、先ほどまでの志波田くんに比べれば、容易に取れるね」
「くっ……」
「次はこちらの番だ……」
朱雀がボールを投じようとしたその時、天武が声を上げる。
「お蘭! 冷静になれ!」
「! はっ!」
「それ! なに⁉」
「……!」
朱雀は驚く。小森めがけてボールを投げたと思ったら、小森がコート上から消えたのである。ボールは黒髪に所々白いメッシュを入れた男性が無言でキャッチする。男性が投球姿勢に入ろうとすると、小森が再びコート上に現れる。
「ボクがやる……ボールを」
「……」
男性からボールを受け取った小森が大きく振りかぶる。朱雀がキャッチの姿勢をとる。
「そんな離れた距離からなら、大した威力は出ないだろう!」
「……ならば、こうしたらどうだい?」
「⁉」
小森が再び消えたかと思うと、コートのセンターラインギリギリに姿を現す。
「喰らえ!」
「ぐっ⁉」
「C組、7ヒット!」
「小森の速球! 井伊谷、キャッチしきれない!」
「くっ……」
「C組とB組のいかんとも埋めがたい差を実感してもらえた?」
小森が膝をつく朱雀を見下しながら呟く。朱雀が悔しそうに見上げる。
「君の能力なんだっけ? ……ああ、『垢バン』、あれは対象者の姿を捉えられなければ意味がないものなんだよね。いや~やっぱり微妙だな~」
「ぐっ……」
「まあ、仮に垢バンを喰らったとしても、君に勝ち目はなかったけどね」
「え?」
「ボクが各SNSで所持している複数のアカウント、いわゆる裏垢も含めて、敬愛する天武さまへの思いで溢れている……それをつつかれても、ボクにとってはなんら恥じ入ることなどないよ。むしろ、知ってもらいたいくらいさ。ボクと天武さまの愛の……むぐっ!」
「お喋りが過ぎるぞ、お蘭……」
少し顔を赤くした天武が小森の口をつぐむ。
「ま、負けた……」
朱雀があらためて膝をつく。
「あ、あれは、まさか……?」
「……そのまさかよ。『瞬間移動』、それが彼、小森一蘭君の持つ超能力よ……」
日光の問いに照美が淡々と答える。
「さあ、次はどいつだ!」
志波田が吠える。
「ただでさえ、あれだけのマッチョだというのに、どんどんと筋力を増すことが出来たら、手がつけられないな……」
「お手上げかしら?」
日光の呟きに照美は苦笑交じりで反応する。
「そういうわけにもいかないが、一体どうしたものか……」
「僕に任せてもらおうか」
「!」
「井伊谷さん?」
ボールを拾った朱雀がボールを指先で器用にまわす。日光は戸惑う。
「し、しかし……」
「大丈夫なの?」
「ああ、問題はないよ」
照美の問いに答え、朱雀は颯爽と前を向き、志波田と対峙する。志波田が目を細める。
「ほう……次はおめえか」
「男装の麗人ではご不満かい?」
「自分で麗人とか言うかよ……別に俺は良いんだが、おめえは構わねえのか?」
「? 構わないとは?」
「俺は女相手だろうと手加減が出来ない質なんだよ」
「ははっ……」
朱雀が笑う。志波田が首を傾げる。
「なにがおかしい?」
「いや、かえってすがすがしいと思ってさ……いざ尋常に勝負!」
「! むん!」
朱雀の鋭い投球も志波田は難なくキャッチしてみせる。
「我ながらなかなかの球だと思ったが、さすがだね」
「当然だ、俺を誰だと思ってやがる?」
「ならば、搦め手でいかせてもらおう……」
「ん?」
朱雀が右手で銃の形を作り、志波田に向けて呟く。
「『垢バン』……」
「む!」
志波田の顔がわずかに曇る。朱雀が尋ねる。
「どうかしたかな?」
「て、てめえ……何をした⁉」
志波田が球を投げるが、威力を欠き、朱雀に簡単にキャッチされてしまう。
「『WhoTubae』で、顔を隠して上げている筋トレ動画……」
「むっ!」
朱雀の小声での呟きに志波田の顔がやや曇る。朱雀がすかさず投じる。
「むむ!」
「『ツブッター』で、日課となっている筋肉自撮り……」
「むむっ!」
「おや、どうかしたかい?」
「う、うるせえ!」
志波田が再び球を投げるが、ただの山なりのボールになってしまう。それをキャッチした朱雀が悪い笑みを浮かべながら呟く。
「『ウィンスタ』でのマッチョ相手に男女見境なく送りつけるDM……」
「むむむっ!」
志波田の顔が露骨に曇る。
「男女見境ないというのが……」
「だ、黙れ!」
志波田が激しく動揺する。それを見て、朱雀がボールを投じる。
「隙あり!」
「はっ⁉」
「B組、6ヒット!」
「おおっと! これは番狂わせ! 井伊谷朱雀が志波田勝にボールを当てました!」
「ぐっ……て、てめえ……」
志波田が朱雀を睨みつける。朱雀はわざとらしく両手を広げる。
「悪く思わないでくれたまえ。君とまともに投げ合ったら体が持たないからね」
「……フィジカル面ではなく、メンタル面を攻めるか……」
「なるほどね……」
日光と照美が感心する。朱雀の方にボールが転がる。
「おっと、こちらにボールが転がってきた……これは幸運だ。さっさと決めてしまおう!」
ボールを拾った朱雀が相手陣内の後方に立つ天武めがけて鋭いボールを投げ込む。
「ふん……!」
中性的な雰囲気を纏った、長い黒髪を後ろで一つにまとめた小柄な生徒が横っ飛びで、そのボールをキャッチし、華麗に一回転して着地する。朱雀が感嘆する。
「ほう、今のをキャッチするとは……やるね」
「いささか調子に乗り過ぎだよ、B組の癖に……」
中性的な生徒が朱雀を静かに睨みつける。朱雀が肩をすくめる。
「とは言っても、ここまできたら優先的に大将首を狙うのが定石だろう? 違うかい? 小森一蘭(こもりいちらん)くん……いや、『お蘭くん』だったかな?」
「君がその呼び名を呼ばないでくれ、非常に不愉快だ……」
小森と呼ばれた男子が朱雀を再び睨みつける。朱雀が軽く頭を下げる。
「それは申し訳ない。気に入っているのかと思って」
「そういう意味ではない……」
「え?」
「呼ぶ者の問題だよ……」
「なるほど、難しいものだね」
朱雀がわざとらしく頷いてみせる。小森が舌打ちする。
「ちっ……さっさと終わらせるよ!」
「おっと!」
小森の投じた球を朱雀がキャッチする。
「悪くはなかったが、先ほどまでの志波田くんに比べれば、容易に取れるね」
「くっ……」
「次はこちらの番だ……」
朱雀がボールを投じようとしたその時、天武が声を上げる。
「お蘭! 冷静になれ!」
「! はっ!」
「それ! なに⁉」
「……!」
朱雀は驚く。小森めがけてボールを投げたと思ったら、小森がコート上から消えたのである。ボールは黒髪に所々白いメッシュを入れた男性が無言でキャッチする。男性が投球姿勢に入ろうとすると、小森が再びコート上に現れる。
「ボクがやる……ボールを」
「……」
男性からボールを受け取った小森が大きく振りかぶる。朱雀がキャッチの姿勢をとる。
「そんな離れた距離からなら、大した威力は出ないだろう!」
「……ならば、こうしたらどうだい?」
「⁉」
小森が再び消えたかと思うと、コートのセンターラインギリギリに姿を現す。
「喰らえ!」
「ぐっ⁉」
「C組、7ヒット!」
「小森の速球! 井伊谷、キャッチしきれない!」
「くっ……」
「C組とB組のいかんとも埋めがたい差を実感してもらえた?」
小森が膝をつく朱雀を見下しながら呟く。朱雀が悔しそうに見上げる。
「君の能力なんだっけ? ……ああ、『垢バン』、あれは対象者の姿を捉えられなければ意味がないものなんだよね。いや~やっぱり微妙だな~」
「ぐっ……」
「まあ、仮に垢バンを喰らったとしても、君に勝ち目はなかったけどね」
「え?」
「ボクが各SNSで所持している複数のアカウント、いわゆる裏垢も含めて、敬愛する天武さまへの思いで溢れている……それをつつかれても、ボクにとってはなんら恥じ入ることなどないよ。むしろ、知ってもらいたいくらいさ。ボクと天武さまの愛の……むぐっ!」
「お喋りが過ぎるぞ、お蘭……」
少し顔を赤くした天武が小森の口をつぐむ。
「ま、負けた……」
朱雀があらためて膝をつく。
「あ、あれは、まさか……?」
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