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第一章
第9話(3)煽り体質な白虎
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♢
「それでなんだよ、アタシはさっさと着替えてえんだが?」
女子更衣室内のベンチに座りながら白虎がジャージをパタパタとさせる。
「え、えっと……」
大城戸みどりは自身の緑がかった髪を指先でくるくるとさせる。
「そういや、アンタがこうして話しかけてくるのも結構珍しいな」
「そ、そうかしら? そんなことはないわよ」
「そうか?」
白虎が首を傾げる。
「そうよ、出席番号も近いから、何かと一緒の班になるじゃないの」
「そういえば、そうだったかな……」
「ええ、中等部の頃からそうでしょう?」
「そんなに話をしたか?」
「結構しているわよ」
「ふ~ん……」
白虎が片手で顎をさする。みどりが尋ねる。
「まさか……まったく印象に残っていないとか?」
「ああ」
「ああって!」
「いやいや、これには訳があんだよ」
「訳?」
「なんつーのかな? アンタってこう……」
「こう?」
「モブ顔っていうか……」
「モ、モブ顔⁉」
みどりが顔を真っ赤にする。白虎が慌ててなだめる。
「いや、悪い悪い、ついついいつもの癖で煽っちまった」
「いつもの癖って……」
「いや、お世辞抜きで凛々しい顔をしていると思うぜ?」
「そ、そうかしら……?」
「ああ、二人の兄貴によく似ていらあ」
「……微妙に褒められている気がしないんだけど」
「褒めたつもりなんだが……兄貴たちのこと嫌いなのか?」
「嫌いじゃないわよ」
「だよな、いつも一緒にいるもんな」
白虎が笑う。みどりが尋ねる。
「もしかして、そういうイメージがあるから?」
「え?」
「よく三人で行動しているから、モブキャラとか思っちゃうの?」
「モブキャラってそこまでは言ってねえけど……」
「大体同じようなことを言ったわよ」
「まあ、そうだな……三つ子が一緒にいるんだ。個々の印象はどうしても薄くなっちまうな」
「そ、そんな……」
みどりは壁にもたれかかる。
「三つ子っていうのが立派な個性だから良いじゃねえか」
「良かないわよ! サンコイチ扱いってことでしょう⁉」
みどりが右手の指を三本立てる。
「そこまでは思ってねえよ。見分け方がなかなか難しいけどな」
「髪型! 制服のスカート! 他にも色々あるでしょう⁉」
「ああ、そう言われるとそうか……」
「ちょっと勘弁してよ……」
腕を組む白虎を見て、みどりは額を抑える。白虎が呟く。
「まあ、そんなことはどうでも良いんだけどよ……」
「どうでも良いって⁉」
「いや、横に置いといてだな……話ってなんだよ?」
「あ、ああ……」
「なにも無いなら帰るぜ」
「ちょ、ちょっと待って!」
ベンチから立ち上がろうとした白虎をみどりが制する。白虎が首を傾げる。
「だからなんなんだよ」
「えっと……相談したいことがあるというかなんというか……」
「どっちだよ」
「そ、相談したいことがあるのよ!」
「相談だ~?」
「そうよ」
「なんでアタシなんだ?」
「え?」
「我らがクラス長の東とかいるじゃねえか。井伊谷は……いや、アイツには相談しない方が賢明だな、なんか色々とややこしくなりそうだし……」
「……あなたじゃなきゃ駄目なの」
みどりは膝を折って、ベンチに座る白虎の両手をとる。
「ア、アタシじゃないと?」
「ええ」
みどりは大きく頷く。
「そ、そうか、いや参ったな……」
「え?」
「いや、気持ちは嬉しいんだがな……」
「ん?」
「やっぱりアタシもこう見えても女だしな……女同士っていうのはちょっと時代の先端過ぎるっていうか、なんていうか……」
「な、何を勘違いしているのよ!」
みどりがバッと白虎の両手を離す。白虎がポカンとする。
「ち、違うのか?」
「違うわよ、全然!」
「全然違うのか……」
「なんでそういう発想になるのよ!」
「だって真剣な目であなたじゃなきゃ駄目とかなんとか言われたらな……」
白虎が後頭部をポリポリとかく。体勢を直したみどりは腕を組んで呟く。
「まあ、あなたじゃなきゃ駄目というのはそうなんだけど……」
「うん?」
「あ~もう! スタンダップ!」
「なんで英語なんだよ……」
みどりに促がされ、白虎が立ち上がる。みどりが白虎の体をビシっと指差す。
「そのスタイルが羨ましいのよ!」
「は?」
「その出るところはしっかり出ていて、へこむところはちゃんとへこんでいる、メリハリのあるボディー! はっきり言って憧れるわ!」
「そ、そうか……?」
白虎は照れくさそうにする。
「そういうボディーになるにはどうしたらいいの?」
「え? これと言って別にねえけど……」
「嘘おっしゃい!」
「うおっ⁉」
みどりが顔をズイと近づかせてきたので、白虎はたじろぐ。
「何もしていないわけがないでしょう!」
「ああ……まあ、そうか……」
「やっぱりあるんじゃないの!」
「いや、これはあまりお勧め出来ないっていうか……」
「いいからお勧めしなさい! メリハリボディーを手に入れるならなんだってやるわ!」
「……じゃあ、腹筋千回」
「ええっ⁉」
「なんだってやるんだろ? ほれ、横になって……はい、まず一回~」
「さ、さすがに千回は! 厳しいものがあるわよ……」
「アンタの微能力を自分に使えば良いんじゃねえか?」
「く、『黒歴史』を……? ああ! そういえば中等部の頃、F組の彼の前で……!」
思い出したくない過去を振り払うかのように、みどりはハイペースで腹筋をする。白虎は満足気に頷き、ジャージから制服に着替える。
「じゃあ、アタシは帰るからよ、千回はあくまで目標だからな、あんまり無理すんなよ?」
「鍛錬には余念がないようだが、隙は結構あるようですね……」
「⁉ て、てめえは⁉ 何の用だ!」
白虎がロッカーを閉じると、近くに茶色いマッシュルームカットの女性が立っていた。
「B組の四天王さんにご挨拶に伺ったのですが、ここまで気づかないとは拍子抜けです……それでは失礼します」
女性が一礼し、その場を静かに去る。白虎が苦々しい顔で呟く。
「C組、『超能力組』め、何を企んでやがる……」
白虎が呟く横で、みどりはひたすら腹筋に勤しむ。
「それでなんだよ、アタシはさっさと着替えてえんだが?」
女子更衣室内のベンチに座りながら白虎がジャージをパタパタとさせる。
「え、えっと……」
大城戸みどりは自身の緑がかった髪を指先でくるくるとさせる。
「そういや、アンタがこうして話しかけてくるのも結構珍しいな」
「そ、そうかしら? そんなことはないわよ」
「そうか?」
白虎が首を傾げる。
「そうよ、出席番号も近いから、何かと一緒の班になるじゃないの」
「そういえば、そうだったかな……」
「ええ、中等部の頃からそうでしょう?」
「そんなに話をしたか?」
「結構しているわよ」
「ふ~ん……」
白虎が片手で顎をさする。みどりが尋ねる。
「まさか……まったく印象に残っていないとか?」
「ああ」
「ああって!」
「いやいや、これには訳があんだよ」
「訳?」
「なんつーのかな? アンタってこう……」
「こう?」
「モブ顔っていうか……」
「モ、モブ顔⁉」
みどりが顔を真っ赤にする。白虎が慌ててなだめる。
「いや、悪い悪い、ついついいつもの癖で煽っちまった」
「いつもの癖って……」
「いや、お世辞抜きで凛々しい顔をしていると思うぜ?」
「そ、そうかしら……?」
「ああ、二人の兄貴によく似ていらあ」
「……微妙に褒められている気がしないんだけど」
「褒めたつもりなんだが……兄貴たちのこと嫌いなのか?」
「嫌いじゃないわよ」
「だよな、いつも一緒にいるもんな」
白虎が笑う。みどりが尋ねる。
「もしかして、そういうイメージがあるから?」
「え?」
「よく三人で行動しているから、モブキャラとか思っちゃうの?」
「モブキャラってそこまでは言ってねえけど……」
「大体同じようなことを言ったわよ」
「まあ、そうだな……三つ子が一緒にいるんだ。個々の印象はどうしても薄くなっちまうな」
「そ、そんな……」
みどりは壁にもたれかかる。
「三つ子っていうのが立派な個性だから良いじゃねえか」
「良かないわよ! サンコイチ扱いってことでしょう⁉」
みどりが右手の指を三本立てる。
「そこまでは思ってねえよ。見分け方がなかなか難しいけどな」
「髪型! 制服のスカート! 他にも色々あるでしょう⁉」
「ああ、そう言われるとそうか……」
「ちょっと勘弁してよ……」
腕を組む白虎を見て、みどりは額を抑える。白虎が呟く。
「まあ、そんなことはどうでも良いんだけどよ……」
「どうでも良いって⁉」
「いや、横に置いといてだな……話ってなんだよ?」
「あ、ああ……」
「なにも無いなら帰るぜ」
「ちょ、ちょっと待って!」
ベンチから立ち上がろうとした白虎をみどりが制する。白虎が首を傾げる。
「だからなんなんだよ」
「えっと……相談したいことがあるというかなんというか……」
「どっちだよ」
「そ、相談したいことがあるのよ!」
「相談だ~?」
「そうよ」
「なんでアタシなんだ?」
「え?」
「我らがクラス長の東とかいるじゃねえか。井伊谷は……いや、アイツには相談しない方が賢明だな、なんか色々とややこしくなりそうだし……」
「……あなたじゃなきゃ駄目なの」
みどりは膝を折って、ベンチに座る白虎の両手をとる。
「ア、アタシじゃないと?」
「ええ」
みどりは大きく頷く。
「そ、そうか、いや参ったな……」
「え?」
「いや、気持ちは嬉しいんだがな……」
「ん?」
「やっぱりアタシもこう見えても女だしな……女同士っていうのはちょっと時代の先端過ぎるっていうか、なんていうか……」
「な、何を勘違いしているのよ!」
みどりがバッと白虎の両手を離す。白虎がポカンとする。
「ち、違うのか?」
「違うわよ、全然!」
「全然違うのか……」
「なんでそういう発想になるのよ!」
「だって真剣な目であなたじゃなきゃ駄目とかなんとか言われたらな……」
白虎が後頭部をポリポリとかく。体勢を直したみどりは腕を組んで呟く。
「まあ、あなたじゃなきゃ駄目というのはそうなんだけど……」
「うん?」
「あ~もう! スタンダップ!」
「なんで英語なんだよ……」
みどりに促がされ、白虎が立ち上がる。みどりが白虎の体をビシっと指差す。
「そのスタイルが羨ましいのよ!」
「は?」
「その出るところはしっかり出ていて、へこむところはちゃんとへこんでいる、メリハリのあるボディー! はっきり言って憧れるわ!」
「そ、そうか……?」
白虎は照れくさそうにする。
「そういうボディーになるにはどうしたらいいの?」
「え? これと言って別にねえけど……」
「嘘おっしゃい!」
「うおっ⁉」
みどりが顔をズイと近づかせてきたので、白虎はたじろぐ。
「何もしていないわけがないでしょう!」
「ああ……まあ、そうか……」
「やっぱりあるんじゃないの!」
「いや、これはあまりお勧め出来ないっていうか……」
「いいからお勧めしなさい! メリハリボディーを手に入れるならなんだってやるわ!」
「……じゃあ、腹筋千回」
「ええっ⁉」
「なんだってやるんだろ? ほれ、横になって……はい、まず一回~」
「さ、さすがに千回は! 厳しいものがあるわよ……」
「アンタの微能力を自分に使えば良いんじゃねえか?」
「く、『黒歴史』を……? ああ! そういえば中等部の頃、F組の彼の前で……!」
思い出したくない過去を振り払うかのように、みどりはハイペースで腹筋をする。白虎は満足気に頷き、ジャージから制服に着替える。
「じゃあ、アタシは帰るからよ、千回はあくまで目標だからな、あんまり無理すんなよ?」
「鍛錬には余念がないようだが、隙は結構あるようですね……」
「⁉ て、てめえは⁉ 何の用だ!」
白虎がロッカーを閉じると、近くに茶色いマッシュルームカットの女性が立っていた。
「B組の四天王さんにご挨拶に伺ったのですが、ここまで気づかないとは拍子抜けです……それでは失礼します」
女性が一礼し、その場を静かに去る。白虎が苦々しい顔で呟く。
「C組、『超能力組』め、何を企んでやがる……」
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