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第一章

第7話(2)効率の良さ

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「大城戸三兄妹……」

「三つ子か……」

 日光が呟くと同時に、三つ子の一人、やや青みがかった髪色の男子が前に進み出る。

「ふん、お前らには言いたいことがある……」

「誰だ?」

 日光の問いに、男子がコケそうになる。照美が日光に呆れた視線を向ける。

「クラスメイトのことくらい覚えなさいよ……」

「そ、そうは言ってもだな……」

「お、俺は出席番号9番、大城戸蒼太(おおきどそうた)だ!」

「ふむ……」

「お、お前らには言いたいことがある!」

 蒼太は日光たちをビシっと指差す。日光が首を捻る。

「なんだ?」

「お前らにはクラス長や副クラス長は任せられんということだ!」

「!」

「よって、お前らに勝負を申し込む!」

「勝負だと?」

「ああ、そうだ」

「クラス長などの座をかけてか?」

「そうだ」

「よし、受けて立とう!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 日光の言葉に照美が慌てる。日光が首を傾げる。

「どうした?」

「どうしたじゃないわよ! なにをそんなに簡単に受けて立っちゃっているのよ!」

「向こうの眼差しを見ろ……」

 日光が大城戸三兄妹を指し示す。

「え?」

「とても穏便に話し合おうというような雰囲気ではないぞ?」

「……」

「そ、それはそうかもしれないけれど、クラスメイト同士で争うだなんて……」

「争うこと、厳しく切磋琢磨することによって得られるものもある!」

「……あるの?」

「……多分」

「多分って!」

「さあ、勝負とはなんだ⁉」

「勝手に話を進めないでよ!」

「どんと来い!」

「ノリノリね!」

 日光と照美のやり取りを見ながら蒼太がフッと笑う。

「勝負は一対一で行う……」

「なるほど、ちょうど三人ずついるからな」

「え⁉ わ、私も頭数に入っているんですか⁉」

 聡乃が驚く。日光が頷く。

「当然だ。副クラス長なのだからな」

「そ、そんな……」

 聡乃が唖然とする。蒼太が声を上げる。

「大城戸三兄妹の長兄として……東照美!」

「え⁉ わ、私⁉」

「貴様に勝負を申し込む!」

「女に勝負を申し込むとは……」

「長兄として……どうなの?」

 日光と照美が渋い表情になる。蒼太がぶんぶんと手を振る。

「長兄が担うべきはクラス長! よって挑む相手は自ずと貴様になるだろう!」

「だからといって……」

「安心しろ! 別に殴り合いをしようというわけではない!」

「え?」

「勝負は……これだ!」

 蒼太が指し示した先には、大量の落ち葉があった。照美が首を傾げる。

「落ち葉?」

「用務員さんに頼んで、とっておいてもらった、ここ数日分の落ち葉だ!」

「そ、それをどうするの?」

「逆に問う! 東! これほどの量の落ち葉を見つけたらどうする⁉」

「え、そ、それは、掃除するわね……」

 照美は戸惑いながら至極真っ当な答えを述べる。

「そうだ、掃除だ!」

「……だから何よ」

「貴様と俺でお掃除対決だ!」

「お、お掃除対決?」

「この大量の落ち葉をいち早く処分出来た方が勝ちだ!」

「か、勝ちって……」

「勝った方がクラス長ということでいいな⁉」

「分かった! いいだろう!」

「に、日光君! だから勝手に決めないでよ!」

「要は勝てばいいのだ」

「そうは言っても……」

「よし、箒とちりとりを持って……掃除開始だ!」

「こ、こんな大量の落ち葉、どうすれば……」

 照美が箒とちりとりを持ちながら頭を抱える。蒼太が笑う。

「先に決めさせてもらう!」

 蒼太が右手を掲げると、大量の箒とちりとりが出現する。照美が驚く。

「ええっ⁉ 箒とちりとりが増えた⁉」

「見たか! これが俺の微能力、『コピペ』だ!」

「コ、コピペ⁉」

「箒を大量に『コピー』し、そこら中に『ペースト』する!」

 落ち葉を囲むように箒とちりとりが設置される。聡乃が困惑する。

「お、落ち葉を集めやすくなっている⁉」

「そういうことだ! この勝負もらった!」

「⁉」

「まずこちらを集めて……次はこちらだ! ……お次はこっちだ!」

「え……?」

 蒼太が一組ずつ箒とちりとりを使って落ち葉を集め、次の場所に移動しているのを見て、照美があっけにとられる。蒼太が汗を拭う。

「ふう! これはなかなか骨が折れるな!」

「えっと……」

「どうした東! このままだと俺の圧勝だぞ⁉」

「……『小火にならない程度にするンゴ』」

「ぬおっ⁉」

 照美が火を放ち、落ち葉をあっという間に焼却する。

「処分って言っていたから……これでも良いのよね?」

「そ、そんな能力を持っていたのか? ま、負けた……」

「まあ火事の恐れもあるから、あまり多用はしたくないけど……」

「あ、東さんの勝ちです!」

「くそ!」

 聡乃が声を上げる。蒼太が膝をついて地面を叩く。

「……せめて自分の体もコピぺすれば、もう少し効率が良かったのではないか?」

 日光は小声で呟く。
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