11 / 51
第一章
第3話(2)教育的指導
しおりを挟む
「な、なんだというのだね、君は⁉」
「俺は仁子日光! このクラスの副クラス長だ!」
「! 君が噂の……なるほど……」
「そちらも名乗ったらどうだ」
「そうだな……僕は出席番号3番、井伊谷朱雀(いいのやすざく)! この2年B組の『四天王』の一角だ!」
「ほう、四天王……」
朱雀と名乗った男装の女子を見上げて、日光は笑みを浮かべる。朱雀が顔をしかめる。
「……動揺しないようだね」
「なにを動揺することがある」
「なかなか珍しい反応だね」
「いや、嘘だ。少しばかり動揺している……」
「うん?」
朱雀が首を傾げる。日光が声を上げる。
「なんだ、その全身赤いブレザー姿にズボンは⁉」
「これか。赤色で統一するのは家の決まりでね」
「ど、どんな決まりだ!」
「しかし、色以外はきちんと学園指定の制服と鞄だよ?」
「色が最大の問題なのだろうが!」
「問題あるかい? 諸君?」
「問題なーし!」
「朱雀さんは今日も麗しくて凛々しい!」
他のクラスメイトから賛同の声が上がる。顔を見てみると日光が今まで会ったことのない生徒も混ざっている。日光が呟く。
「なるほど……影響力のある存在というわけか……」
「なにか?」
「いや、なんでもない」
「仁子くんとやら……」
「日光で構わん」
「日光くんとやら……僕は自分を戒め、他人にも厳しく接するのが信条なんだ」
「……そもそも戒められていないような気がするのだが?」
朱雀は呆れ気味の日光の顔をビシッと指差す。
「よって、君のその学ラン姿を看過してはおけない!」
「……どうするというのだ?」
「昼休みに校庭に出たまえ、教育的指導を行おうではないか!」
「教育的指導?」
「ふふっ、楽しみにしておくがいい!」
「久々ね、井伊谷さんの指導!」
「こいつはのんきに昼飯食っている場合じゃねえぜ!」
井伊谷とその取り巻きはそれぞれ自らの席につく。日光は呆然とする。
「な、なんなんだ、一体……」
「撒き餌の効果が早くも出たわね」
照美が苦笑気味に呟く。
「む……確かに四天王と言ったな。これほど早く接触出来るとは予想外だった……」
「どうするの?」
「そもそもどういう奴なんだ?」
「ご、ご説明いたしましょう!」
聡乃が声を上げる。日光が驚く。
「うおっ⁉ 聡乃、いたのか……」
「は、はい、いました……」
「聡乃さん、説明をお願い」
「は、はい……このクラスは四天王それぞれを中心に四つの大きな派閥が存在します。その内の一つ、『強硬派』をまとめているのが、あの井伊谷さんです」
「強硬か……」
「規律に厳しいところがあるのよ……」
照美が肩をすくめる。日光が尋ねる。
「それは、クラス長としては望ましいことではないのか?」
「少し厳し過ぎるという声が上がっていてね……彼女のやり方についていけないという生徒も結構いるわ……」
「ふむ……」
日光が顎に手を当てる。聡乃が口を開く。
「し、しかし、このタイミングで動き出したということは……!」
「少し声のボリュームを落とせ、聡乃。ひそひそ声が丸聞こえだぞ」
「あ、こ、これは失礼! 陰キャ故に声のボリューム調節が下手くそで……」
聡乃は次第に小声になる。日光が頷く。
「……うん、それくらいでいい」
「そ、それではあらためて……井伊谷さんがこのタイミングで動き出してきたということは……つまり! 狙いは貴方です、日光さん!」
「俺か」
「え、ええ! このクラスに新たに派閥が出来上がってしまっては厄介だと考え、潰してしまうか、取り込んでしまおうと考えたのでしょう」
「それが教育的指導か……」
「感化するどころか、看過出来ない存在になれたわね」
照美が笑う。日光が後頭部を掻く。
「人気者たちの辛いところだな」
「うん? 人気者たち?」
「まあ、昼休みを待とうじゃないか」
首を傾げる照美を自らの席に座るよう促し、日光は朝のホームルームと授業に臨む。そして昼休み、校庭で日光は朱雀と向かい合う。
「逃げずによく来たじゃないか!」
「別に逃げる理由などないからな」
「教育的指導を受ける覚悟があるようだね」
「その教育的指導がよく分からんのだが……」
日光は困ったように首を捻る。朱雀が問う。
「一人で良いのかい?」
「いや、三人だ。照美と聡乃が助けてくれる」
「ええっ⁉」
「え、ええ……!」
日光の両隣に立つ照美たちが驚きの視線を向ける。日光がキョトンとする。
「なにをそんなに驚くことがある……」
「いや、驚くでしょう⁉」
「ま、全くの初耳です……」
「友達なわけだから協力してもらう」
「もっと別のことだったら喜んで協力するけど!」
「なんだ、そんなマズいものなのか?」
日光が首を傾げる。聡乃が言葉を濁す。
「マ、マズいというかなんというか……」
「ふむ、クラス長の照美に……本荘さんを引き込んだか……これはやはり捨て置けないね」
「ならばどうする?」
日光は朱雀に問う。朱雀は笑う。
「何度も言うが教育的指導だよ」
「生徒同士でなにが教育的指導なのかが分からんのだが……」
「これ以上の問答は無用……!」
「⁉」
朱雀が手をかざすと日光が膝をつき、照美がうつ伏せに倒れ、聡乃が仰向けに転がる。
「ふむ、出来れば女子には手荒な真似はしたくなかったのだけど……」
「な、なにを……⁉」
不敵な笑みを浮かべる朱雀を、日光は驚いた顔で見つめる。
「俺は仁子日光! このクラスの副クラス長だ!」
「! 君が噂の……なるほど……」
「そちらも名乗ったらどうだ」
「そうだな……僕は出席番号3番、井伊谷朱雀(いいのやすざく)! この2年B組の『四天王』の一角だ!」
「ほう、四天王……」
朱雀と名乗った男装の女子を見上げて、日光は笑みを浮かべる。朱雀が顔をしかめる。
「……動揺しないようだね」
「なにを動揺することがある」
「なかなか珍しい反応だね」
「いや、嘘だ。少しばかり動揺している……」
「うん?」
朱雀が首を傾げる。日光が声を上げる。
「なんだ、その全身赤いブレザー姿にズボンは⁉」
「これか。赤色で統一するのは家の決まりでね」
「ど、どんな決まりだ!」
「しかし、色以外はきちんと学園指定の制服と鞄だよ?」
「色が最大の問題なのだろうが!」
「問題あるかい? 諸君?」
「問題なーし!」
「朱雀さんは今日も麗しくて凛々しい!」
他のクラスメイトから賛同の声が上がる。顔を見てみると日光が今まで会ったことのない生徒も混ざっている。日光が呟く。
「なるほど……影響力のある存在というわけか……」
「なにか?」
「いや、なんでもない」
「仁子くんとやら……」
「日光で構わん」
「日光くんとやら……僕は自分を戒め、他人にも厳しく接するのが信条なんだ」
「……そもそも戒められていないような気がするのだが?」
朱雀は呆れ気味の日光の顔をビシッと指差す。
「よって、君のその学ラン姿を看過してはおけない!」
「……どうするというのだ?」
「昼休みに校庭に出たまえ、教育的指導を行おうではないか!」
「教育的指導?」
「ふふっ、楽しみにしておくがいい!」
「久々ね、井伊谷さんの指導!」
「こいつはのんきに昼飯食っている場合じゃねえぜ!」
井伊谷とその取り巻きはそれぞれ自らの席につく。日光は呆然とする。
「な、なんなんだ、一体……」
「撒き餌の効果が早くも出たわね」
照美が苦笑気味に呟く。
「む……確かに四天王と言ったな。これほど早く接触出来るとは予想外だった……」
「どうするの?」
「そもそもどういう奴なんだ?」
「ご、ご説明いたしましょう!」
聡乃が声を上げる。日光が驚く。
「うおっ⁉ 聡乃、いたのか……」
「は、はい、いました……」
「聡乃さん、説明をお願い」
「は、はい……このクラスは四天王それぞれを中心に四つの大きな派閥が存在します。その内の一つ、『強硬派』をまとめているのが、あの井伊谷さんです」
「強硬か……」
「規律に厳しいところがあるのよ……」
照美が肩をすくめる。日光が尋ねる。
「それは、クラス長としては望ましいことではないのか?」
「少し厳し過ぎるという声が上がっていてね……彼女のやり方についていけないという生徒も結構いるわ……」
「ふむ……」
日光が顎に手を当てる。聡乃が口を開く。
「し、しかし、このタイミングで動き出したということは……!」
「少し声のボリュームを落とせ、聡乃。ひそひそ声が丸聞こえだぞ」
「あ、こ、これは失礼! 陰キャ故に声のボリューム調節が下手くそで……」
聡乃は次第に小声になる。日光が頷く。
「……うん、それくらいでいい」
「そ、それではあらためて……井伊谷さんがこのタイミングで動き出してきたということは……つまり! 狙いは貴方です、日光さん!」
「俺か」
「え、ええ! このクラスに新たに派閥が出来上がってしまっては厄介だと考え、潰してしまうか、取り込んでしまおうと考えたのでしょう」
「それが教育的指導か……」
「感化するどころか、看過出来ない存在になれたわね」
照美が笑う。日光が後頭部を掻く。
「人気者たちの辛いところだな」
「うん? 人気者たち?」
「まあ、昼休みを待とうじゃないか」
首を傾げる照美を自らの席に座るよう促し、日光は朝のホームルームと授業に臨む。そして昼休み、校庭で日光は朱雀と向かい合う。
「逃げずによく来たじゃないか!」
「別に逃げる理由などないからな」
「教育的指導を受ける覚悟があるようだね」
「その教育的指導がよく分からんのだが……」
日光は困ったように首を捻る。朱雀が問う。
「一人で良いのかい?」
「いや、三人だ。照美と聡乃が助けてくれる」
「ええっ⁉」
「え、ええ……!」
日光の両隣に立つ照美たちが驚きの視線を向ける。日光がキョトンとする。
「なにをそんなに驚くことがある……」
「いや、驚くでしょう⁉」
「ま、全くの初耳です……」
「友達なわけだから協力してもらう」
「もっと別のことだったら喜んで協力するけど!」
「なんだ、そんなマズいものなのか?」
日光が首を傾げる。聡乃が言葉を濁す。
「マ、マズいというかなんというか……」
「ふむ、クラス長の照美に……本荘さんを引き込んだか……これはやはり捨て置けないね」
「ならばどうする?」
日光は朱雀に問う。朱雀は笑う。
「何度も言うが教育的指導だよ」
「生徒同士でなにが教育的指導なのかが分からんのだが……」
「これ以上の問答は無用……!」
「⁉」
朱雀が手をかざすと日光が膝をつき、照美がうつ伏せに倒れ、聡乃が仰向けに転がる。
「ふむ、出来れば女子には手荒な真似はしたくなかったのだけど……」
「な、なにを……⁉」
不敵な笑みを浮かべる朱雀を、日光は驚いた顔で見つめる。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
祓っていいとも!
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
新宿のとある学校に通う、高校二年生の女子、最寄田静香。
彼女は高校生になってから、次々と不運や不幸に見舞われて、思い悩んでいた。それでも進級を果たした彼女は心機一転、新たな心持ちで学生生活を送ろうと決めていた。
そんな彼女の下に、イケメンだが、エキセントリックな青年たちが次から次へと声をかけてくる。普通ならば喜ぶべき、歓迎するべき事態ではあるが、ふたを開けてみると……!?
ごく普通のJKが奮闘する戦いの日々が幕を開ける!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる